西村 章

Vol.147 第15戦タイGP A Passage to Bangkok

 三日間の総入場者数、22万2535人(金:41,235、土:81,055、日:100,245)。今回が初開催ながら、第15戦タイGPの観客動員数は第5戦フランス(20万6617人)や第11戦オーストリア(20万6746人)を凌ぐ、今季最大の観客動員数を記録した。2月に行われたプレシーズンテストの際にも大勢の観戦客が訪れ、秋のレースウィークは相当な盛り上がりになるであろうことが予想されていた。前売り券は完売との情報で、大成功のイベントになることは約束されたも同然だったのだろうが、それにしてもここまで大勢の人々が観戦に押し寄せるとは思わなかった。



チャーン・インターナショナルサーキット


チャーン・インターナショナルサーキット
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 タイGPの開催地チャーンインターナショナルサーキットがあるブリラムは、同国東北部にある小都市である。都市、というよりは東南アジアの典型的な中規模の街、といったほうが妥当かもしれない。バンコクからの交通はけっして便利とはいえない状況で、クルマで来るなら5~6時間。バンコク(ドンムアン空港)から街はずれのブリラム空港まで国内線を利用すれば移動は一時間程度で済むものの、便数はけっして多くない。今回のような大きなイベントがある場合は、レース関係者と観戦客がこの少ない機会を競って取り合うことになるため、利便性のよい時間帯に座席を確保するのはなかなか難易度が高いようだ。

 宿泊施設もけっして潤沢とはいえない。小さな街とはいえ、ローカルな宿は数十軒ほどあるようだが、おそらくライダーとチームスタッフ、その他イベント絡みのレース関係者が押さえてしまえば、あとは周辺の街を探すよりない、という規模の総ベッド数なのではないだろうか。

 そんな小さな街でこれだけの規模のスポーツイベントを開催し、おそらくはかつてないような規模の人々が短時間の間に押し寄せるのだから、ほんのわずかの行き違いや準備不足が深刻なグリッドロックや不手際などに繋がりそうなものだが、ウィークを通して不平や不満の声はほとんどどこからも聞こえてこなかった。

 当地ではすでに2015年からSBK(スーパーバイク世界選手権)を開催しているので、現地側はすでにイベント進行をはじめ観客と交通のさばき方などにもある程度手慣れているという事情も、おそらくはあったのかもしれない。

 とはいえ、じつにみごとなレースウィークの切り盛りであった。これに関しては、チーム関係者も観戦客の方々も、おそらく異論はないだろう。もちろん我々レースを取材する側も、早朝から夜遅くまで非常に快適な仕事環境の場を提供していただいた。街そのものはいわゆる西欧的な最先端の近代都市からはほど遠い、どちらかといえば(個人的な譬えで申し訳ないのだが)母方の田舎である奄美の離島の40年くらい昔の風景を彷彿させる雰囲気で、そんなある種の懐かしさも含みながらの現地の方々の温かいホスピタリティは、異文化のヨーロッパ社会からやってきた選手やチーム関係者、レース運営関係者の人々にとっても非常に心地よいものであったようだ。


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 そのような場所で、あのような名バトルが繰り広げられたのだから、今回のMotoGPクラス決勝レースはおそらく今季を象徴する一戦になったといってもいいだろう。優勝争いの内容そのものは他所の原稿に書いたので重複は避けておくが、マルク・マルケス(Repsol Honda Team)とアンドレア・ドヴィツィオーゾ(Ducati Team)の今回の攻防は、過去3回の伏線を踏まえたうえで、ケビン・シュワンツとウェイン・レイニーの名勝負に喩える声が出るのも宜なるかなというほど、緊張感に満ちた高水準の戦いであった。

 余談になるが、ケビン・シュワンツとウェイン・レイニーの攻防は、DVDなどで過去の貴重な映像が商品化されており、今でも彼らの戦いをじっくりと観ることができる。彼らのレース人生とも重なり合う熾烈な戦いをまだ観たことがないけれども興味がある、という方は、適宜検索をして、ぜひ一度ご覧いただきたい。

 閑話休題。

 いや、今回はすべて閑話と言えば閑話なので、そのままタイGP初開催の周辺話題に話を戻せば、パドック裏の物販エリアや日没後のステージイベント(コンサートだけではなく、どうやらムエタイの試合も行っていたようである)等の盛り上がりは、鈴鹿8耐の熱気に近い何かを思わせる雰囲気もあった。観客をエリアからエリアへピストン輸送するシャトルサービスは、ローカル色ゆたかで〈ゴージャス〉ということばがまさにピッタリ来るようなカッコいいトラック。これの荷台に観客が乗り込んで移動する。仕事でなければ、ぜひ一度乗ってみたかったところである。



シャトルサービス


シャトルサービス

チャーン・インターナショナルサーキット

チャーン・インターナショナルサーキット

チャーン・インターナショナルサーキット

 日曜の決勝レース終了後も大きな混乱はなかった模様で、初開催のイベントとしては、大成功のうちに終わったといえそうだ。レース内容もじつに緊迫感に満ちた好内容の勝負だったので、おそらく、今年の「レース・オブ・ザ・イヤー」に選ばれるのはほぼ確実なのではないだろうか。もし選出されなければ、「ミスター・バイク的ベストレース賞」を進呈してさしあげたいほどである(そんなのないけど)。

 最後に少しだけ、データ面での情報を補足しておけば、今回のポールシッター、マルケスの平均速度は181.9km/h。オーストリアのレッドブルリンク(186.7km/h)にはわずかに及ばないとしても、オーストラリアのフィリップアイランド(181.1km/h)に匹敵するハイスピードコースといえそうだ。チャーン・インターナショナル・サーキットは、まさに”Destination of Speed”の看板に偽りなし、である。

 次回は日本GP。気を引き締めて参りましょう。


チャーン・インターナショナルサーキット
次戦、日本GP(ツインリンクもてぎ)は10月21日決勝です。

 



■2018年10月7日 
第15戦 タイGP
チャーン・インターナショナルサーキット

順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #93 Marc MARQUEZ Repsol Honda Team HONDA


2 #4 Andrea DOVIZIOSO Ducati Team DUCATI


3 #25 Maverick VIÑALES Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


4 #46 Valentino ROSSI Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


5 #5 Johann ZARCO Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA


6 #42 Alex RINS Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


7 #35 Cal CRUTCHLOW LCR Honda CASTROL HONDA


8 #19 Alvaro BAUTISTA Angel Nieto Team DUCATI


9 #9 Danilo PETRUCCI Alma Pramac Racing DUCATI


10 #43 Jack MILLER Alma Pramac Racing DUCATI


11 #29 Andrea IANNONE Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


12 #55 Hafizh Syahrin Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA


13 #41 Aleix ESPARGARO Aprilia Racing Team Gresini APRILIA


14 #21 Franco Morbidelli EG 0,0 Marc VDS HONDA


15 #38 Bradley SMITH Red Bull KTM Factory Racing KTM


16 #45 Scott REDDING Aprilia Racing Team Gresini APRILIA


17 #17 Karel ABRAHAM Angel Nieto Team DUCATI


18 #10 Xavier SIMEON Reale Avintia Racing DUCATI


19 #81 Jordi TORRES Reale Avintia Racing DUCATI


20 #12 Thomas LUTHI EG 0,0 Marc VDS HONDA


21 #44 Pol ESPARGARO Red Bull KTM Factory Racing KTM


22 #30 Takaaki NAKAGAM LCR Honda IDEMITSU HONDA


RT #26 Dani PEDROSA Repsol Honda Team HONDA



※西村さんの最新訳書『マルク・マルケス物語 -夢の彼方へ-』は、ロードレース世界選手権の最高峰・MotoGPクラス参戦初年度にいきなりチャンピオンを獲得、最年少記録を次々と更新していったマルク・マルケスの生い立ちから現在までを描いたコミックス(電子書籍)。各種インターネット、電子書籍販売店にて販売中(税込 990円)です!
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