西村 章

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 写真・西村 章/Yamaha/Suzuki

 今回も予測不能で劇的な展開が待ち受けていたマレーシアGPでありました。優勝したマルク・マルケス(Repsol Honda Team)は、今季9勝目。この勝利により、ホンダはコンストラクターズタイトルを確定させた。2010年以降は2011~14、16~18とこれで7回目の王座獲得。圧倒的な強さである。残るはチームタイトルだが、現在、Repsol Honda Teamは2番手のMovistar Yamaha MotoGPに対して39ポイント差。これも次戦の最終戦、バレンシアGPで決定することはまず間違いないだろう。



#93


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 さて、第18戦のレースウィークでさまざまに印象的だったことのうちのひとつが、Team SUZUKI ECSTARの活躍である。ウィークへ向けた準備作業中の木曜日には、りんちゃんことアレックス・リンスのバイクがピットレーンで炎上して余計な話題を振りまくことにもなったが、幸いにも金曜日からの走行には影響なく……というか、いきなりこの日はりんちゃんがトップタイムを記録。トップスピードでは、正直なところまだライバル陣営に及ばない彼らが2本の長いストレートを持つこのコースで最速を記録したことについて、りんちゃんにタイムを上回られたマルケスに、セッション終了後「ビックリした?」と尋ねてみた。

「いや、べつに」とマルケス。
「スズキはとても良く走っているし、彼らはアラゴンからとてもいい調子だから、べつに驚きはしないよ。バイクの性能はとても良くて、旋回が非常に優れている。トップスピードはウィークポイントかもしれないけど、グリップがいいから加速もいいね」
 とライバルの高い戦闘力を率直に評価した。

 決勝レースでもまさにそのとおりのパフォーマンスを発揮して、りんちゃんは2位表彰台を獲得。
「僕が今年4回目の表彰台で、アンドレア(・イアンノーネ)も4回だから、スズキはこれで8回目の表彰台。来年に向けて良いデータを集められているので、来年は皆と互角に戦いたい」
 彼らの戦闘力はいつ頃から、どんな風に向上してきたのか、ということについては、
「アッセンでニューエンジンが来てから、上のパワーがでるようになったので、スリップストリームを使ってヤマハやホンダとストレートでも戦えるようになった。あとは自分自身の経験が増して、タイヤのコントロールや制御の扱いに慣れてきたこと。それらの組み合わせだと思う」
 と述べた。これでスズキは、今回のフライアウェイ3戦全戦で表彰台を獲得した。ツインリンクもてぎ、フィリップアイランド、そしてセパンと、特性や環境条件の異なるこれら3コースすべてでパフォーマンスが良いという事実は、来季に向けてライダーとチームの士気がさらに上がることだろう。


SUZUKI


#SUZUKI


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 今回、意外だったのがドゥカティの苦戦である。セパンのようなコース特性では、ドゥカティが圧倒的な強さを見せる、という先入観を持っていたこちらがいけないのかもしれないが、じっさいに2016年と2017年にはアンドレア・ドヴィツィオーゾが二年連続優勝を果たしており、プレシーズンテストでも上々の走りを見せていた。
 レース後のドヴィツィオーゾは、決勝レースで1周目から思ったようには走れなかったことを認めたうえで
「ここはたしかに僕たちにはいいコースだけど、自分たちが去年と一昨年に2回勝ったのはウェットだった、ということを皆が忘れているんだ」
 と説明した。が、予選までは上々だったにもかかわらず、決勝で苦戦してしまったことについては
「プラクティスとレースの差が大きかったのは、何がどうだったとかこれが原因だったと軽々には言えないけど、きっと何か(理由)があったんだろう。技術的な問題だと思う。いったい何が問題だったのか、あるいは自分たちはこのコースでこのコンディションだとこれが限界なのか。それをしっかりと見極めなければならない」
 と、いつものように冷静な口調で振り返った。



#04


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 ところで、彼ら上位陣の選手と同等かそれ以上に今回特筆しておきたいのは、ハフィス・シャーリン(Monster Yamaha Tech3)の活躍である。マレーシア初の最高峰クラスライダーとして、地元ファンからは大いに注目と期待が集まるシャーリンは、ここまで17戦を終えた段階で、ルーキー・オブ・ザ・イヤーでフランコ・モルビデッリに12ポイント差の2番手、とまずまずのパフォーマンスである。
 ウィーク初日の金曜は、2台のマシンのうち一台に、ファクトリーチームやチームメイトのヨハン・ザルコと同じ仕様のエアロフェアリングが装着されていた。この日は総合18番手タイムで、セッション終了後に彼に初日のインプレッションを訊ねてみたところ、
「得意コースでも、たまにはそういうこともあるよ」
 と、やや苦笑気味の返事。どこに問題があるのか、重ねて訊ねてみると、
「思ったように止まれないんだ。タイヤをハード、ミディアム、ソフトに変えてみてもあまり変化が感じられない。今朝は立ち上がりが問題だったので、午後はフロントフォークを硬くしてみたら、立ち上がりがあまり改善しないまま進入も厳しくなってしまった。明日はよい妥協点を探り出したい」
 とのことだった。エアロフェアリングの印象に関しては
「ストレートでだいぶ助かる。立ち上がりでもフロントがしっかり接地してくれるので、新しいフェアリングは、かなり気に入っているよ」
 と述べた。じっさいに二日目の走行では、午前のFP3で2台ともが最新エアロフェアリング仕様になっていた。ホームGPのライダーを支えようとするチームの心遣いと心意気が感じられるようなアップデートである。


#55


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 しかし、午後の予選は大雨で中断するなどの悪天候に翻弄されたこともあって、最後尾23番グリッドという最悪のスタートポジション。これで逆に闘志を掻き立てたのか、シャーリンは決勝レースの1周目に、ごぼう抜きで11番手へ浮上。最後は10位でフィニッシュし、10万人を超す観客からの大声援を受けた。本人も感極まった様子で、クールダウンラップでは全身で喜びと感謝を表した。
 ここまで彼が感極まったのは、Moto3の決勝レースで大健闘した同郷の後輩、アダム・ノロディン(Petronas Sprinta Racing)の活躍があったからなのだとか。
「ピットレーンスタートだったアダムが、最後尾からトップグループまで追い上げてきた。気迫に満ちた彼の走りをサインボードゾーンで見ていると、涙が出てきたよ。アダムがクラッシュしたときは、まるで自分のことみたいに悔しかった。そして、僕の決勝レース前には父がグリッドまで来てくれたんだ。だから、今日は持てる力の限り、ベストを尽くそうと思った」
 その結果、「リザルトはアルゼンチンに及ばなかったけど、内容面では間違いなくMotoGPでのベストレースになった」と言い切れる走りを披露した、というわけだ。

 今回も、見どころ満載でじつに見応えのあるレースでした。

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 というわけで、次回は最終戦バレンシア。レース明けには、恒例の事後テストのおまけもあるでよ。


#セパン
次戦、最終戦バレンシアGP(バレンシア・サーキット・リカルド・トルモ)は11月18日決勝です。

 



■2018年11月04日 
第18戦 マレーシアGP
セパン・サーキット

順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #93 Marc MARQUEZ Repsol Honda Team HONDA


2 #42 Alex RINS Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI


3 #5 Johann ZARCO Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA


4 #25 Maverick VIÑALES Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


5 #26 Dani PEDROSA Repsol Honda Team HONDA


6 #4 Andrea DOVIZIOSO Ducati Team DUCATI


7 #19 Alvaro BAUTISTA Angel Nieto Team DUCATI


8 #43 Jack MILLER Alma Pramac Racing DUCATI


9 #9 Danilo PETRUCCI Alma Pramac Racing DUCATI


10 #55 Hafizh Syahrin Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA


11 #41 Aleix ESPARGARO Aprilia Racing Team Gresini APRILIA


12 #21 Franco Morbidelli EG 0,0 Marc VDS HONDA


13 #6 Stefan BRADL LCR Honda CASTROL HONDA


14 #30 Takaaki NAKAGAM LCR Honda IDEMITSU HONDA


15 #38 Bradley SMITH Red Bull KTM Factory Racing KTM


16 #12 Thomas LUTHI EG 0,0 Marc VDS HONDA


17 #10 Xavier SIMEON Reale Avintia Racing DUCATI


18 #46 Valentino ROSSI Movistar Yamaha MotoGP YAMAHA


19 #45 Scott REDDING Aprilia Racing Team Gresini Aprilia


RT #44 Pol ESPARGARO Red Bull KTM Factory Racing KTM


RT #51 Michele PIRRO Ducati Team DUCATI


RT #17 Karel ABRAHAM Angel Nieto Team DUCATI


RT #29 Andrea IANNONE Team SUZUKI ECSTAR SUZUKI



※西村さんの訳書『マルク・マルケス物語 -夢の彼方へ-』は、ロードレース世界選手権の最高峰・MotoGPクラス参戦初年度にいきなりチャンピオンを獲得、最年少記録を次々と更新していったマルク・マルケスの生い立ちから現在までを描いたコミックス(電子書籍)。各種インターネット、電子書籍販売店にて販売中(税込 990円)です!
https://www.wick.co.jp/static/book/ebook_marcmarquez.html

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