Power Product Quest 知っているようで実は知らないもうひとつのホンダ。第6回 ホンダパワープロダクツジャパン社長 齋藤雅人さん ホンダパワープロダクツジャパン設立 地域に根差した「パワープロダクツのプロ」「スペシャリストを育てる」

一般の人がパワープロダクツの製品に一番触れやすいのは、ホームセンターだろう。そこにホンダのジャケットを着た人がいて丁寧に説明してくれたら、羽党のアナタはもうコロリ?

文●ノア セレン 
写真●依田 麗
●取材協力:Honda http://www.honda.co.jp/power/

パワープロダクツはどこで買えるの?

 これまで「第三のホンダ」である汎用製品、改めパワープロダクツについて、国内や海外での展開、ミーモや船外機、クラシック耕うん機モデルのプラモデル化など様々なレポートをしてきた。先進諸国ではマリンレジャーや上質な芝生を維持するための製品として、また時によっては「どうだ、ウチの芝刈機はカッコ良いでしょう!」とShow offするような要素もあるパワープロダクツはある意味我々が親しんでいるオートバイと通じる部分もあると学んだ。実用的な部分ももちろん大切だが、その製品を楽しむことも同様に大切。機械に対する愛のようなものにどこか共通点があるし、パワープロダクツにもバイクにも同じホンダイズムが通っていると感じずにはいられない。
 一方で新興国では汎用エンジンが貴重な動力源として活躍している。人々の生活を支える確かな性能と信頼性、そしてアフターサービスや部品の安定供給。これはまさに「スーパーカブ」と同じ働きだろう。バイクに利便性と趣味性が同居し、地域によってその比率が変動するように、パワープロダクツの製品もまた似たようなポジョンだとここまで学んできた。そしてそれによって、少なくともメカ好きの筆者はこれまで以上にこれら製品に興味を持つようになった。
 ところが、ではいったいどこでこれら製品に触れることができるのか。パワープロダクツ用のドリーム店など聞いたことがないし、試乗車を用意していますよ! などというノボリも見たことがない。



PP専門店


PP専門店
日本はインフラが整っているが、庭が狭くアウトドアレジャーもそれほど普及しなかったため汎用製品は一般家庭ではなじみの薄い製品だが、海外では芝刈機や発電機など生活の中に溶け込んでおり、写真のような パワープロダクツ専門の販売店が多く存在する。●写真提供:Honda

パワープロダクツはこうして売られる

 ひと口にパワープロダクツと言ってもクルマやバイクと違って様々な製品があるため、お客さんも様々だ。日本国内における主力商品は発電機、耕うん機、そして除雪機が3本柱。発電機は工事現場などをはじめとして、緊急時や災害時のために幅広く導入されることも多いし、我々ならサーキットやキャンプなどで使うことも考えられ、本当に様々なお客さんが対象だろう。
 対する耕うん機の仲間は基本的には農家が対象。当然サンデーメカならぬサンデー家庭菜園も少なくないユーザーであり、ホンダではそういった製品にも力を入れているが、プロ農家と家庭菜園ではこれまたかなり違う購買層だ。
 そして除雪機は雪が降る地方限定。とはいえ北海道と東北、そして北陸では雪質が違ったりして、 そういったノウハウも大切。ちなみにホンダの除雪機は国内では65%のシェアを誇り、冬の間は雪国のバイク店で販売されることもあるとか。そう考えるとバイクのような全国統一のドリーム店で、というわけにはいかずに、現在のように地域に密着した草の根的な販売網が構築されていった。
 昔からの主な販売チャンネルは地域の農機具店である。これら農機具店でホンダパワープロダクツを扱うのは全国で300店以上。ホンダドリーム店は去年で150店舗だったことを思えば、もちろん店舗の規模は大小あるだろうが、その数はなかなかのものと言える。これら農機具店はプロやセミプロに向けた製品群を展開する傾向にあり、農家をはじめ建設現場などのハードなニーズにプロレベルで応えるのが特徴。地域に根差したお店である事が多いため現場からの信頼も厚い。
 一方で我々がよりパワープロダクツの製品群を目にしやすいのは、いわゆるホームセンターだろう。こちらは全国1000店舗以上でホンダパワープロダクツの製品が扱われており、より一般向けの製品がラインナップされる。プロではない一般の人からしてみれば、地域の農機具店よりはホームセンターの方が行きやすいこともあり、こちらも大切なチャンネルだ。



ユキオスeSB500e


HS760nJX


HSM1390i


HS2411Z
「除雪機があれば重労働が軽減できる」と1980 年に小型除雪機スノーラ HS35を発売したホンダ。現在国内シェアナンバーワンを誇り、電動小型のユキオスeから小型、中型、大型機まで17 機種 (2018年末現在)をラインアップ。走行はモーター、除雪はエンジンという世界初のハイブリット機や正逆転するクロスオーガ機構などホンダ独自の技術を盛り込んだ機種も。ホンダパワープロダクツの歴史やテクノロジーはこちらでどうぞ。

ホームセンターでもホンダクオリティ

 バイクのホンダに親しんでいる我々からしてみれば、「ホームセンターで買う」という事になんとなく違和感がないだろうか。バイクにおけるホンダ製品は世界の一級品であり、やはり正規のディーラーで購入し、トップクラスのアフターサービスを受けたい、と思うのが自然ではないかと思うし、製品だけでなくその周辺環境も含めたホンダブランドであるはずだ。 いくらホンダ製品が良くても、 ホームセンターで買うというのはパワープロダクツ特有に感じてしまうのだがいかがだろう。ちゃんと製品のことを販売員はわかっているのだろうか……。アフターサービスは大丈夫だろうか……。修理はしてくれるのだろうか……といったことが頭をよぎっても不思議ではない。
 しかし筆者の心配をよそにこれまでこのシステムで機能してきたのであり、パワープロダクツの製品とそのアフターサービスはバイクと同様にユーザーから高い評価を得てきたのだった。だがそれに加えて去年、パワープロダクツの卸営業会社「ホンダパワープロダクツジャパン」が設立され、さらに高いレベルのサービスや小回りの利く営業が展開され始めている。



こまめF220


ピアンタFV200


サラダ FF300


ラッキーFU400
ホンダの耕うん機は、小型耕うん機の代名詞にもなった大ヒット作のこまめや、さらに小型のプチな、カセットガスを燃料として使用するピアンタ、ホンダ独自のフロントローター機構を搭載したサ・ラ・ダシリーズ、本格的なリアローター式のラッキーなど、家庭菜園からプロの農家まで、耕作地の広さや用途に合わせて最適な機種が選べる。

ホンダパワープロダクツジャパン設立

 パワープロダクツ販売網のアレコレを教えて下さったのは齋藤雅人さん。一昨年設立されたばかりの「ホンダパワープロダクツジャパン」の二代目社長である。

 ここで筆者は驚いた。バイクならばホンダモーターサイクルジャパン(HMJ)という会社があり、本田技研工業が作った製品を販売店へとディストリビュートしているしそれが当たり前だと思っていたのだが、パワープロダクツにおいてはこの機能はなんと2017年に確立されたばかりだったのだ。 齋藤社長は「小さな事業ですから」と謙遜するが、このような卸営業の会社が存在しなかったという事は、ホンダがほぼ手弁当で現在の草の根的販売網を構築したということになる。
「パワープロダクツの製品は芝生の多い欧州や北米、もしくは汎用エンジンなどが活躍する新興国など世界中で活躍している印象もあるかもしれませんが、実は日本もとても大切なマーケットなんです。世界的に見ても5本の指に入る販売数ですし、市場の要求もとても高い。一般ユーザーが使う、例えば刈払機などは軽くなければダメですし、他の製品も高性能でなければいけません。本当にいいものならば値段は高くてもかまわない、 というのも日本市場の特徴でしょう」と齋藤社長。
 このようにニーズがシビアな日本で売れる製品を作れば、逆に海外に持って行っても間違いないそうだ。そのため日本は販売数だけでなく製品開発の意味でも大切な市場。だからこそ、ホンダパワープロダクツジャパンのような会社を設立し、良いものを市場に届けその良さをアピールすること、そして逆に市場のニーズや可能性を リサーチしそれを本田技研工業に フィードバックすること、そしてそれを世界のホンダパワープロダクツの製品へとつなげていくことが必要だったのだ。



齋藤雅人さん
ホンダパワープロダクツジャパン社長 齋藤雅人さん
1981年ホンダに入社。国内二輪営業からスタートし、1980年代後半汎用事業の拡大期に汎用へ異動。イタリア、南アフリカ、フランス、タイ、中国など世界各国に駐在。昨年3月、実に30年ぶりに国内営業に復帰し、2017年10月に設立されたホンダパワープロダクツジャパン社長に就任。世界各国で汎用製品を見てきたまさにプロ中のプロである。「仕事が趣味」と語る齋藤社長だが、実はバイクも好きだそうで、赴任先でもCBR650などに乗っていた。現在は手放してしまったが、18歳で購入したCB750FOUR(K6)をずーっと保有していたそうだ。

変わったことと、変わらないこと

 ホンダパワープロダクツジャパンができて、何が変わったのだろうか。正直に書くと、我々ユーザーにとっては大きな違いをすぐに感じることは難しいだろう。というのも今までもホンダパワープロダクツは先述したように草の根的に販売網を広げ、確かなアフターサービスを提供してきたからだ。しかしホンダパワープロダクツジャパン設立により、これまで以上に販売店を対象にした研修会の充実や、ホームセンタースタッフへの商品情報提供を進めているのだ。
 特にホームセンターは様々な形態があり、どこでどんな製品を扱ってもらうか、ホームセンターの性質やレベルを見極めるというのはホンダにとって大切なことだ。ホームセンターと言ってもタネ屋さんから発展した造園系のものもあれば、農業に特化したものもある。そして我々が日用品を買いに行くような大チェーン店ももちろんある。これら多様なホームセンターの中からしっかりと継続してアフターサービスをやってくれるところ、しっかりと商品説明や接客をしてくれるところを見極め、一貫したホンダクオリティのサービスを求めていくのもホンダパワープロダクツジャパンの役割である。
「ホンダパワープロダクツジャパンが本田技研工業から分離したことで、よりパワープロダクツの使われ方や販売形態に合ったような仕事がしやすくなりましたね。販売に特化したことでパワープロダクツが売られているホームセンターなどにも商品説明会にホンダのスタッフが出向き、きめ細やかで小回りの利いた営業ができるようになりました。またホームセンター以外の販売店への目配り気配りがしやすくなり、現場任せではない、しっかりしたサポート体制ができるようになった。パワープロダクツは車やバイクに比べると特殊な世界ですから、フレキシビリティというのは重要なんです」
 ホンダパワープロダクツジャパン設立以降、製品に精通し最新の情報も持っている社員が現場により密着できるようになった。現場からも「ホンダさんは良く来てくれてありがたい」という声がさっそく上がっているそうだ。



HPJ


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埼玉県越谷市の国道4号線沿いに本社を構えるホンダパワープロダクツジャパン。マリンやOEM供給される汎用エンジンなどを除くホンダパワープロダクツの製品を扱う。敷地内にはピット棟もあり販売店などの講習会や研修などが行われている。ちなみに小売りはしていないので、ここに行っても直接製品を購入することはできません。

より小回りの利いた対応

 このように現場との関係がより密になると、フィードバックも多い。今までも販売店向けの商品説明会や、パワープロダクツ系のメカニックを集めての研修会などは行われていたが、現場の声がより反映されていけば、今後はどのような研修が必要とされているのかなどの情報も集まりやすくなり、ディストリビューターとして販売店へのサービスの充実が進む。そしてそれは我々ユーザーのためになる。バイクやクルマと違い、直売店がないパワープロダクツはこういった販売店との密な関係が大切なのだ。
「パワープロダクツの製品は比較的シンプルで壊れにくいものが多いと言えるでしょう。実用的であることが大前提ですから、そこはホンダの技術が目いっぱい詰まっいます。しかし販売の現場や、いざという時の修理、パーツ供給の体制など、購入いただいた後のサービスはとても大切なこと。お客さんをガッカリさせない販売、これが大切だと思います。そのためにもホンダパワープロダクツジャパンは販売現場との連携を強めていきます。それは販売員やメカニックのレベルを保つことだけでなく、修理で困っているメカニックには電話相談で対応するなど、小回りの利いたサービスを現場に提供してきたいですね」



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エネポEU9iGB


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1965年に発売した誰でも簡単に扱えるE300 によって、携帯用発電機を広く浸透させたホンダの発電機。現在もプロの現場作業用はもちろん、レジャー、非常用などの各種ニーズに応え、正弦波インバーター搭載でパソコンなどでも使えるタイプ、カセットガスで使えるエネポ、電気を貯めるリベイドなど各種をラインアップ。

パワープロダクツを手にする日も近い

 メーカーと販売店を繋げる卸営業会社とは、一般ユーザーにとってはあまりなじみのない部分ではある。だが、製品を市場にアピールし、魅力的な販売網を維持・発展させ、市場からのフィードバックをしっかりとメーカーに戻していく、という作業は、少なくとも昔のように手弁当でできるような仕事ではもはやない。専属の部署があり、専属の人がいてこそ高いレベルになるのだ。
「パワープロダクツはホンダといえどもやはり特殊な業界です。ホンダ内ではパワープロダクツと事業を跨いで四輪、二輪と業種を越えて異動することもあるわけですが、ホンダパワープロダクツジャパン設立はこういったことを超えたパワープロダクツのスペシャリストを育てる、という意味も含まれています。やはり地域に根差した担当者が必要ですし、細かなニーズを汲んで製品に、つなげていかなければいけません」
 なるほどそうである。バイクやクルマも地域ごとに多少の違いが求められるだろうが、パワープロダクツは本当に地域密着のもの。 ホンダパワープロダクツジャパンとしては長くパワープロダクツに従事し、例えば除雪機に非常に詳しい北海道/東北担当のプロを育てるといったことを目指している。特殊な用途、想定外の使われ方が当たり前のパワープロダクツにおいて、担当者がずっと変わらず、その地域の特徴や販売店、人々と「あ・うん」で分かり合える人材は、バイクやクルマ以上に大切だろう。
 ホンダパワープロダクツジャパンが設立されてまだ日は浅いが、すでに販売の現場には変化が表れている。パワープロダクツに縁はないな、と思っている読者がいたとしても、ホームセンターでホンダのジャケットを着たスタッフを見かける日もあるかもしれない。
 筆者はホンダの4ストローク刈払機を使ってみたくて仕方がないのだが、今のところその機会に巡り会えていない。ホンダパワープロダクツジャパンが設立された今、きっと4ストロークの刈払機を初体験できる日は近い。


[第5回 模型が出ることで集める視線|第6回|]