MBHCC E-1

 西村 章

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スポーツ誌や一般誌、二輪誌はもちろん、マンガ誌や通信社、はては欧州のバイク誌等にも幅広くMotoGP関連記事を寄稿するジャーナリスト。訳書に『バレンティーノ・ロッシ自叙伝』『MotoGPパフォーマンスライディングテクニック』等。第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した『最後の王者 MotoGPライダー・青山博一の軌跡』は小学館から絶賛発売中(1680円)。
twitterアカウントは@akyranishimura

第12戦チェコGP「ブルノ発・スメタナ作曲交響詩『わが祖国』」

 チェコGPが行われるブルノサーキットには、毎年大勢の観客が詰めかける。今年も、三日間総計の来場者数が21万2303人(金:1万7624、土:5万5447、日:13万9232)を記録した。日曜日単独の観客数だけでも、前回インディアナポリス三日間分(13万4795)の実績を上回っている。ちなみに去年のブルノを見てみると、三日間の総数は23万8000人(日:15万5400)。
 それだけの大人数が押し寄せるだけあって、日曜の朝は結構な渋滞が発生する。こちらとしてもそれくらいは想定済みだから決勝日は早めにサーキットへ到着するべくさっさとホテルを出発するのだが、それでも多少の混み合いには遭遇してしまう。特にこのサーキットの場合は、ブルノ市郊外の森の中に建設されているので、ゲートに向かう途中が舗装林道みたいな状態になっていて、その細い道を、あちらこちらから集まってくるたくさんの人たちが、行き交うクルマなんぞには頓着せずわらわらと歩くものだから、混雑の度合いはいっそうひどくなる。とはいえ、これも慣れてしまえば一興、というか現地ならではの風物詩である。
 その大観衆が、たとえばチェコ人選手のルーカス・ペセックが125ccクラスで活躍していた2007年に、会場のあちらこちらでフラッグを掲げキャラクターTシャツを着て応援する姿は、それはもう一見の価値アリ、という熱烈さだった。ホームGPで地元出身選手が活躍する姿はいつ眺めてもいいもので、こちらとしてもなんとなく情が移ってしまい、つい応援したい気持ちにもなってくる。
 今年も、チェコ出身選手が大勢のチェコファンを魅了した。Moto3クラスでマヒンドラに所属する選手の負傷代役として参戦したミロスラフ・ポポフが、決勝レースで数周とはいえ表彰台圏内を走り、会場を驚愕させたのだ。ポポフは、昨年125ccクラスに3回スポット参戦した経験を持つ17歳の選手で、サンマリノGPでは13位に入っている。そのあたりの実績を評価されて今回の起用となったのだろうが、それでもよっぽど熱心なファンですら彼の名前は初耳、という人が多いのではないだろうか。今回のレースでは、予選を終えて10列目29番グリッドからのスタート。こう言っては悪いが、マヒンドラのマシンである。トップスピードでは他のMoto3勢に大きく劣る(最高速比較:KTM−216.9km/h、マヒンドラ−205.0km/h)し、トラブルによるリタイアもしょっちゅう、というマシンポテンシャルなので、この位置はまあ、順当なところだろう。
 ところが、だ。決勝でポポフは1周目で6番手にまで一気に23人をごぼう抜きにしてトップグループに食い込み、8周目にはついに3番手に浮上した。地元のファンにしてみれば、狂喜するというよりも何が起こっているのかよくわからず唖然とする、という状態に近かったのではないだろうか。
 とはいえ、何度も繰り返して失礼だが、マヒンドラである。いい状態は長く続かない。やがて周回ごとにえぐるような勢いで順位を下げてゆき、14周目には16番手。そして次の周回の最終コーナーで他車と接触して転倒、リタイアに終わった。結果こそ残らなかったけれども、ライダーの資質を垣間見せる走りは充分に披露した、といっていいだろう。ミロスラフ・ポポフ、という名前は、今後、ちょっと頭の隅に置いておいてもいいかもしれない。で、正直なところ彼の活躍をまったく想像していなかったんで、写真は一枚もない。ごめんなさい。次に彼がどこかのレースに登場したときは、ちょっとチェックをしておこうと思う。

第12戦 チェコGP 第12戦 チェコGP 第12戦 チェコGP
時間帯を誤れば、この車列に1時間以上ハマる羽目になる。 で、中欧独特の緑が濃い植生の森を抜けてこのゲートに至る、と。 当然、K・アブラハムをフィーチュア。文字どおり、ここは庭だし。

 今回のレースウィークでは、スズキのエンジニア数名がブルノサーキットへやってきたことも一部で注目を集めた。彼らは昨年いっぱいでMotoGP活動を一時休止し、2014年の復帰を目標に開発を続けているのは周知のとおりだが、今年初夏にはインライン4とおぼしき開発マシンの写真が欧州で流布し、ちょっとした話題にもなった。
 今回、現場へやってきたのは、同社のレース活動を取り仕切る寺田覚氏と、昨年技術監督を務めた河内健氏たち計3名。
「復帰を目指して懸命に開発を進めているけれども、2014年に確実に復帰します、と発表できるような段階ではまだないんです」と寺田氏。「2013年にワイルドカードで参戦する予定も今のところないし、選手やチーム構成についても、まったくの白紙状態。今の段階では、お話しできることはほとんどないんですよ」とやや苦笑気味に語る口調は、おそらく現状での本音なのだろう。とはいえ、彼らの動向に注目が集まるのは、それだけ皆が期待をしているからだ。日本のファンだけではなく、欧州のファンや関係者も、スズキがパドックに戻ってくる日を皆が心待ちにしている。浜松の皆様、我々は本当に待っています。

 それにしても、最終ラップ最終コーナーまで激しいバトルが続いたMotoGPクラス決勝はじつに素晴らしいレース内容だった。ここまで緊張感と爽快さが共存する戦いも、最近では珍しい。語り出せばきりがない反面、おそらく誰しも思うことは共通しているだろうから、これに関しては今はひとまずこれくらいで。
 さて、2週間のブランクを置いて、次の第13戦はミザノのサンマリノGP。来季のライダー情報が交錯するグレジーニも、サーキットとワークショップは指呼の間で文字どおりのホームGPなので、おそらくはこのタイミングで何らかの発表があるのではないかという気もする。では、3週間後にお会いしましょう。

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今回の勝ちっぷりで男っぷりも挙げたのだ。 「なんかこう、切れ込むんだよね」と相談中? 最高峰では12年ぶりの英国人選手表彰台。
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主のいない椅子は、やはり寂しさが漂う。 今季3回目の5位。やるやん! 決勝はオイルを噴くわ追い下がるわ、と散々な展開……。
■第12戦 チェコGP
8月26日 ブルノ・サーキット 雨のち曇
順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #26 ダニ・ペドロサ レプソル・ホンダ・チーム HONDA
2 #99 ホルヘ・ロレンソ ヤマハ・ファクトリーレーシング YAMAHA
3 #35 カル・クラッチロー ヤマハ・テック3 YAMAHA
4 #4 アンドレア・ドヴィツィオーゾ ヤマハ・テック3 YAMAHA
5 #6 ステファン・ブラドル LCRホンダ HONDA
6 #19 アルバロ・バウティスタ ホンダ・グレッシーニ HONDA
7 #46 バレンティーノ・ロッシ ドゥカティ・チーム DUCATI
8 #14 ランディ・デ・ピュニエ アスパーチームMotoGP ART(CRT)
9 #17 カレル・アブラハム カルディオンABモトレーシング DUCATI
10 #41 アレックス・エスパロガロ アスパーチームMotoGP ART(CRT)
11 #24 トニー・エリアス プラマック・レーシングチーム DUCATI
12 #68 ヨニー・エルナンデス BQR BQR-FTR(CRT)
13 #5 コーリン・エドワーズ フォワードレーシング SUTER(CRT)
14 #51 ミケーレ・ピロ ホンダ・グレッシーニ FTR(CRT)
15 #77 ジェームス・エリソン ポール・バード・レーシング ART(CRT)
16 #54 マティア・パシーニ スピード・マスター ART(CRT)
17 #9 ダニロ・ペトルッチ イオダ・レーシングプロジェクト IODA(CRT)
RT #22 イバン・シルバ BQR BQR-FTR(CRT)
RT #11 ベン・スピース ヤマハ・ファクトリーレーシング YAMAHA
※第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した西村 章さんの著書「最後の王者 MotoGPライダー 青山博一の軌跡」(小学館 1680円)は好評発売中。西村さんの発刊記念インタビューも引き続き掲載中です。どうぞご覧ください。

※話題の書籍「IL CAPOLAVORO」の日本語版「バレンティーノ・ロッシ 使命〜最速最強のストーリー〜」(ウィック・ビジュアル・ビューロウ 1995円)は西村さんが翻訳を担当。ヤマハ移籍、常勝、そしてドゥカティへの電撃移籍の舞台裏などバレンティーノ・ロッシファンならずとも必見。好評発売中です。

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