幻立喰・ソ

第28回 ソ・レボリューション

 インターネット便利ですね、今更ですが。ホームページからブログにミクシィ、最近はツイッターにフェイスブックと流行は変われどみなさんさらっと使っています。未だに未体験なのでイマイチ理解していないアナログおやじでも、日々検索しています。解らないことがあればすぐにクリック。するとたいていのことは出ています。しかも無料で。よくもまあという情報を無償で提供してくれる諸兄諸姉に感謝です。が、得られる情報を鵜呑みすると……使う側の力量も試されるのです。と、どこかで誰かが言ってました。
 遡ること今から10年前……は、もう普通にパソコンがありました。だから20年前、パソコンが一般家庭に普及し始めた頃です。常時接続の光やADSLなどブロードバンドはあるはずもなく、私の通信初体験はMacintosh LC630に外付けモデムを付け分岐器で電話回線を切り換えアクセスポイントにダイヤルアップ、「ぴーひょろろろっ〜んっがぁ、んがぁ」という変な音と共につながるニフティサーブのパソコン通信でした。そういえば最初の頃は「今、メール送ったから見てくれる?」なんて電話してました。間抜けです。
 そんなインターネット昔話は電気先生にリクエスト。黒電話の受話器に音響カプラを付ける時代(今でも電話線くらいはある未開の国からの通信には使われているそうです)からの人で、テレタイプを分解清掃したこともある強者ですからたっぷり書いてくれると思います。



 ネットが一般的になる以前の情報収集といえば書籍や雑誌。ネット時代のちょっとだけ前、立喰・ソのレボリューションが今回のお題です。レボといってもビートルズや渡辺美里さんの話ではありません。革命というより開化です。タイトルはなんとなく付けただけです。ええ、そうですとも。

 立喰・ソの歴史は江戸時代まで遡ります。年末のお約束、忠臣蔵の夜泣きそば屋に化けた杉野十兵次(でしたっけ?)が有名です。その後、明治維新、大正モダニズム、日華事変から太平洋戦争に至る戦乱の昭和初期と戦後混乱期、そして高度経済成長、バブル、昭和の終焉と新時代平成を経て今日に至る立喰・ソの歴史は各自検索してもらうとして、長い歴史の立喰・ソにもかかわらず特化した書籍はほぼ皆無でした。立喰・ソ研究に邁進し続ける先達もいらっしゃるのですが、その成果が一般書籍化されることはなく、出るのは蕎麦文化や、格式高い本格的蕎麦屋の紹介本ばっかり。情報化時代という言葉が死語になりつつあった1990年後半ですら私の知る限り皆無でした。
 同じ麺類でも、ラ本(=ラーメン関連の本)はそこそこありましたし、ソと対になっているようで実は似て異なるウ(=もちろんうどんのこと)も、1988年香川のタウン誌に連載された「ゲリラうどん通ごっこ」を発端として、1993年には名著「恐るべきさぬきうどん」が発刊され、地元の人しか行かない(行けない)怪しいうどん屋さんが全国的に知れわたりました。これは麺通団の田尾団長という名プロデューサーあればこそ。ウはソの2,000,000,000歩くらい先を走りまくり2006年にはUDONという映画も公開されました。が、どこぞの広告代理店にでも言いくるめられたのか、現在は100人中58人は失笑しているのではないかと懸念されるうどん県にうどん駅という大迷走っぷりを披露しています。

 名プロデューサーに恵まれなかった立喰・ソですが、2000年やっとこさ「旨い 立ち食いそばうどん」という単行本が出版されました。
 興味のない人にとってはどうでもいいような小さな一冊ですが、立喰・ソメジャー化にはとてつもなく大きな第一歩でした。例えるならば「プラハの春」(←失敗)「文化大革命」(←大失敗)「ペレストロイカ」(←藤田巨人のトロイカ体制とは違います)「三公社の分割民営化」(←三公社五現業言えますか?)「ソがないならケーキを食べればいいのに」(←誰が言ったの?)「立喰・ソの夜明けぜよ」(←やはり日本人ならこれが一番解りやすいですね)ということです。

 情報不足時代の立喰・ソ巡りは行き当たりばったりでした。おつゆや天ぷらの香りのしそうな路地をひたすらうろうろする、時間と資金と体力を奪う難行苦行。例えれば、どうにも調子のでない自己流キャブセッティングの泥沼にはまり、ぶん投げようと思っていたところ「キャブレターノート」(バイカーズステーション監修 モーターマガジン社刊 1900円)を見て目からウロコみたいなもんです。
 122店もの情報がわずか480円。一件当たりにすれば4円弱。半分くらいはすでに訪問済みでしたから8円か。それはともかく、アバウトながら地図も付いており、へ〜えっ、こんなところに! と立喰・ソマニアは大喜び(推定)。この本が出てから週刊誌などでも立喰・ソを取り上げる頻度が上昇したのではないかと思います(これも推定)。
 ちなみにこの本では立喰・ソを路麺(ろめん)と表記しています。ぼちぼちこの表記も目にしますが、オシャレっぽい路麺という呼び方に抵抗があるのか残念ながらそれほどメジャーにはなっていません。まあ、私ひとりだけが叫び続けている「立喰・ソ」と比べれば、月と緑ガメの爪先にひっかかったコケ以上の差であることは間違いありませんが。

旨い 立ち食いそばうどん
■「旨い!立ち食いそば・うどん 東京・駅別大調査」 (2000年)小学館文庫 東京路傍の麺党著 476円(税別)
店舗情報だけでなく関係者インタビューとか女性客などの読み物もためになりました。当時掲載された立喰・ソにはこの本の宣伝POPが貼られていました。最近は自店が掲載された雑誌の切り抜きをパウチッ子して貼っている立喰・ソも珍しくありませんが、発祥はこの本でしょう。北海道編や関西編など続々発刊かと期待していましたが……公式サイトも閉鎖になったようです。なにかあったのでしょうか?

 2000年当時の首相は“Who are you?” “I’m Hillary’s husband” “Me too! ”でおなじみ森喜朗氏。森さん同様すっかり忘却の彼方の「2000年問題」の年でした。地球最後的大騒ぎ報道でしたが、結果は「大山鳴動して鼠一匹」(←正しく読めますか?)。何も起きず、ああよかったよかった“The danger past, and God forgotten. ”の例え通り(意味とか語源については、「バイクの英語」にリクエストしましょう)次に控える2038年問題についてはあまり語られません。「32ビットの符号付二進数の桁あふれ」で(詳しく知りたい貴方、さっそく電気先生にリクエストを)、2000年問題より深刻な問題のようですが、「まだ26年あるから、なんとかなるだろう(してくれるだろう)」です。騒いだところで私にできることなどありゃしませんし、そもそも26年後に生きているかどうか……

 
 あれから早12年、「旨い 立ち食いそばうどん」はすでに幻本(=絶版本)になっています(だから紹介しても大丈夫!)。先日オシャレ古本屋で500円といい値段がついていました。昔ながらのおじいちゃんおばあちゃんの古本屋なら3冊100円の文庫本でも、Bとかのチェーン店ではなくてオシャレ古本屋だとビニ本にして(←なつかしのあれではなく、ビニールパックの状態)びっくりするような(もちろん高い方で)値段が付けてあり、さらにびっくりします。
 最近の立喰・ソの価格設定も同様の幅が見られます。古本屋さんと同様、自己物件で父ちゃん母ちゃんの2ちゃん(掲示版の方ではなく、3ちゃん農業の2人版)立喰・ソはかけ180〜240円くらい。チェーン店系なら230〜290円あたり。これが最近流行のパリッとした生そば(なまそばではなく、きそばです)+さくさく揚げたて天ぷら+黒系揃いTシャツユニフォームに頭タオル(否目隠し寸前おでこ巻系統)+元気なあいさつな新進気鋭系立喰・ソのもり(V9戦士の8番キャッチャー森→後の西武監督で、最後は堤オーナーに「やりたいんならおやりなさい」と、さんざん貢いで、さあいざ鎌倉の寸前にものすごく怖い顔、または無表情で言われるような最上級捨て台詞を言われちゃった森さんではなく、もちろんもりそばのこと)は低価格邁進店舗(250〜280円)と、もりではなくつけそばと呼ぶオシャレ系の500円台という極端化傾向が見られます。
 低価格の方が優勢かと思えば、高価格組は内装に凝ったり、器に凝ったり、メニューに凝ったり、お酒も出したり(否ワンカップ&缶ビール)とプレミアム感を演出し、在来型立喰・ソ人より非立喰・ソ人をターゲットにした戦略で着実に勢力を伸ばしています。と、裏をまったく取っていない知ったかぶりです。
 話が進みません。ズバリ本題に入ります。本の話だけにね。
 ただ本を紹介するだけでは申し訳ないので調べました。件の本で紹介された掲載122店の行く末を。
 2012年10月現在、46店が幻立喰・ソ入り(違う店になったものも含む)。現在も営業中は61店。移転が1店。不明14店という結果になりました。12年前と相変わらず限られた時間と予算と体力で現地に赴き、この目で確認したのは91店。時間も予算も体力も尽き果てたので残りはネットなどの情報で確認しました。確認できなかった14店は12年の月日が人の心も町の姿さえも変えてしまうのでどうにもこうにも特定ができず、ネットで情報も発見出来なかったのでほぼ幻立喰・ソになってしまったのではないかと思われます。
 12年でほぼ46店が幻立喰・ソになっているというこの事実。多いのか少ないのか、いづれにしてもこのコーナーのネタも尽きないわけです。残念ながら。



 私の立喰・ソ道に多大なる影響を与えたこの一冊。今更わざわざ古本を買っても半分くらいは役に立ちません。しかし、あなたの人生を変えた一冊があるはずです。と、相も変わらず懲りもせず意味のない締めで終わるのもなんですから、立喰・ソ関連の書物を紹介させていただきます。みなさまの立喰・ソ道の一助になりますようにとの願いを込めて、かなり早いですがクリスマスプレゼントということで(いらね〜よなんて言わないで)。
 あっ、肝心なこと忘れていました。このコラムの書籍化をご希望の出版社のみなさま、ぜひ私にもクリスマスプレゼントを!(やらね〜よと言いますよね)。

偉いぞ立ち食いそば ■「偉いぞ! 立ち食いそば」 文庫版(2009年)
東海林さだお著 文春文庫 562円(税抜)
秀逸のタイトルです。情報系ガイドブックではなく立ち食いそばをすすって綴る文学です。名エッセイ集「まるかじりシリーズ」の流れを汲む作品です。東海林さだお大先生が一念発起し富士そばを一日一食づつ食べて全メニュー制覇に挑む日々を食に関して一家言ある先生の独特の考察で描きます。そして意外な結末へ……。富士そば社長との対談も必見。立喰・ソだけではなく駅弁や宝塚などのエッセイも収録。立喰・ソファンならばハードカバー(2006年)の初版本を書棚に揃えたいです。
■そばづくし汽車の旅(1991年)
種村直樹著 徳間書店刊 1262円(税抜) 
レールウエイライターという言葉を最初に使った鉄道出版界の大御所、種村直樹先生が1990年暮れに広島県の加計駅から北海道の森駅まで(もちろん「かけ」と「もり」にかけて)ジグザグに8日間4500キロも鉄道にゆられながらも食べるのはそばのみという旅を綴った本書は「旨い〜」より前の1991年に出ていますが、残念ながら駅そばはおまけ扱いで、メインは普通のそば屋さんです。道中食べたそばは29食で、駅そばは米原、山形、新得、北見、旭川の5軒を実食(他に食べていないが出てくる駅そばもあります)。ちなみに米原と新得は現在も営業中。山形と旭川は形態が替わったものの存在。北見は幻立喰・ソになってしまいました。旅の起点加計駅があった可部線の可部-三段峡間は2003年に廃止され再現も幻に……
そばづくくし汽車の旅
「立ちそば大全」 ■「立ちそば大全」(2010年)
今柊二著 竹書房文庫刊 762円(税抜)
世界初の定食評論家というだけのことはあり、大衆食堂系の定食や丼もの方面の著書が多数あります。本書に掲載の写真は本人がデジカメでパチパチ撮っている素人写真ですが、それが妙にリアルで、平易で大変読みやすい文章と共にB級空間を構築し、読み進めば進むほどストマックをくすぐるでしょう。大全の名の通り北海道から九州まで紹介しているのはさすがです。見るのもつらくなる小さな字がびっしり詰め込まれているのもお得感倍増。店舗紹介だけではなく、立ち食いそばの歴史や大チェーン店食べ歩きなどのコラムも充実しています。
■鉄道グルメの「駅めん」ノート(2009年)
百舌鳥伶人著 中経の文庫刊 600円 (税抜)
駅の立ち食いに特化した初の本(タイトルにも「本邦初」と書いてありますし)で、JRだけではなく私鉄や第三セクター、そして穴場中の穴場と言われているJRバスの直営店まで、沖縄を除く日本四島のおもしろ、名物系駅そばをメインに82食(ラーメンやうどんも混じってますが)を写真付きで紹介しています。この本に掲載された立ち食いそばを全部食べるだけで、かなりの駅そば通を語れます。駅そば入門者にもお勧めです。
「駅めん」ノート
駅そば読本 ■ご当地「駅そば」劇場 (2010年)
鈴木弘毅著 交通新聞新書刊 800円(税抜)
こちらも駅そばに特化しています。しかも著者の鈴木弘毅氏は1万杯の駅そばを食べ、さらに記録を更新中の駅そば猛者ですから、駅そば研究家と名乗っても異論などあろうはずもございません。内容は押して知るべし、日本全国48の駅そばをタイトルの紹介だけではなく、関係者の証言をストーリーとして綴った日本初(たぶん)の駅そばドキュメンタリーでもあるのです。4章の構成でうどんは第4章にまとめてある気配りもそば専にはウレシイ構成です。
■駅そば読本(2012年)
鈴木弘毅著 交通新聞新書刊 800円(税抜)
1万杯の猛者、「駅そば」のエキスパート、駅そば研究家の面目躍如な集大成本です。最近では一般にも知られるようになった関東風と関西風の境界線や歴史は言うに及ばず、支払い方法、店舗の設置状況やレイアウト、どんぶりや箸まで、よくもまあここまで調べた人はというB級グルメとか旅情といった初期段階を卒業した駅そば中上級者?向けです。駅そばを学問に昇華させた一冊でしょう。氏のWebサイト「駅そば選手権」もあわせてぜひご覧下さい。
駅そば読本
噂の東京グルメ ~ 美味しい立食いそば屋編 ■噂の東京グルメ ~ 美味しい立食いそば屋編(2011年)
TBS SERVICE 1300円(税抜)
意外と今まで紹介されていない立ち食い店や、最近出来た店舗を素早く掲載しているのはさすはTV系の本。無愛想(に見える。というか怖い)な御主人や、職人気質でカメラを向けると塩をまかれそうなダンナさんなど写真に納めているのはさすがTV系。カラーページが多く、店舗情報に地図、営業時間、定休日もきっちりと抑えているのはさすがTV系。ちょっと高めの本ですが情報は価格相応でしょう。タレント押しじゃない情報本にして、300円安くしてくれたらもっとよかった……よけいなお世話ですか。
■なぎら健壱のずるり!立ち食いソバの旅
EXPRESS刊 3800円(税抜)
なぎら健壱さんと有名でないお笑いコンビ&女性タレントが立ち食いそば屋を巡るCS番組のDVD版です。「タモリ倶楽部」+「アド街ック天国」!?という広告コピーはちょっと……内容はあなたが思い描く低予算CS番組そのものと思えばハズれはありません。今はなき旧歌舞伎そばの映像が見られるますし、何十年か後には貴重な映像記録になります。そうです、なにを求めるのかで評価は分かれるのです。しかし特典映像がなぜもんじゃ? 本編82分+特典13分
なぎら健壱のずるり!たちぐいそばの旅

■立喰・ソNEWS

●テレビを見ながらごはんを食べると怒られた、ああ、あのころに戻りたい!

 悪評高き、通称緑のおじさん(又はミドリムシ)。疾風のように現われて、写真を撮ってシールを貼って去って行く。貼られる前ならセーフですが、ぺったんされたら問答無用の一丁上がり。

 そんな状況で打撃を受ける立喰・ソは数知れず。東京都練馬区某所の某立喰・ソでは、バイク客が来たときは妻に厨房を預け、主が自らバイクの見張りをしているとか……そんな自己防衛も最近はハイテク化が進み、店の前を監視するモニターを設置してある立喰・ソがぼちぼちあります。
 緑のおっさんが寄ってきたらどんぶり放り出して愛車へ駆け込む、底抜け脱線ゲームでよくあった模型機関車が風船を割るゲームじゃないんだから……本当に国民の生活が第一ならば、せめて立喰・ソくらい落ち着いて喰わせて欲しいものです。

 

監視モニター
臨戦態勢で画面を睨みながら急いで食べる昼飯、旨いと思いますか? ねえ先生方。

 次の選挙で「立喰・ソ食べてる間はセーフ」をマニフェストに掲げてくれる党はないですか? ないでしょうね。新党作っちゃいますか?


バソ
バ☆ソ
日本全国立ち喰いそば全店制覇を目論む立ち喰いそば人。現在600店以上のデータを収集したものの、ただ行って食べただけではたいして役に立たない。立ち喰いそば屋経営を目論むも、先立つものも腕も知識も人望もなく断念。で、立ち喰いそば屋を経営ではなく、立ち喰いそば屋そのものになろうとしたが「妖怪・立ち喰いそば屋人間」になってしまうので泣く泣く断念。世間的には3本くらいネジがたりない人と評価されている。一番の心配事はそばアレルギーになったらどうしよう……。


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