MBHCC E-1
西村 章

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スポーツ誌や一般誌、二輪誌はもちろん、通信社、はては欧州のバイク誌等にも幅広くMotoGP関連記事を寄稿するジャーナリスト。訳書に『バレンティーノ・ロッシ自叙伝』『MotoGPパフォーマンスライディングテクニック』等。第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した『最後の王者 MotoGPライダー・青山博一の軌跡』は小学館から絶賛発売中(1680円)。
twitterアカウントは@akyranishimura

Here we go again−第2回セパンテスト篇

 はいみなさんどうもこんにちわ。第二回目のプレシーズンテストを見物に、マレーシア・セパンサーキットへ行ってまいりました。
 さて、プレシーズンとはいえ二回目ともなれば、全選手が初めて一同に会する第一回目テストと比較すると、どうしても派手さに欠ける。初回テストでは、選手同様に各陣営の2013年仕様マシンもお披露目されて見どころも盛りだくさんだが、二週間の間隔を置いて行われる二回目のテストでは、初回テストのデータをもとに大がかりなアップデートパーツが投入される……、というようなことは時間の関係などもあって通常はあり得ず、たいていは細かなセッティングの煮詰めに終始し、パーツ投入があったとしても外見上からは判断できないようなものがほとんどだ。
 では、第二回目のテストは内容も地味で印象が薄いのか、というとけっしてそんなことはなくて、選手たちの話を収集してみると、むしろ非常に充実したことばを聞くことができる。充実した、とはいってもその中身は様々で、気魄の横溢したコメントを発するのは、開幕に向けて着々と良い手ごたえをつかんでいる選手たちで、いまひとつ手ごたえの芳しくない選手や陣営は、いきおいその苦労がはっきりと窺えるような話しぶりになる。
 今回の場合、前者の典型が、ホルヘ・ロレンソ(ヤマハ・ファクトリー・レーシング)とマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)。後者の例はドゥカティや、CRTで復帰した日本人選手の青山博一、といったあたりだろうか。


Jorge Lorenzo
Jorge Lorenzo
最大のライバル、ペドロサについて「現状では似たようなレベル」と警戒を怠らない。


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 ロレンソといえば、ずば抜けたハイレベルの安定感が持ち味の選手だけれども、今回もその特徴が存分に発揮された。テスト初日は15時頃に30分程度雨が振り、その後もすっきりしない曇天で推移したが、二日目は終日赤道直下の典型的な好天。ロレンソは、午前10時の走り出しからさっそく、2分00秒台を連発した。
「今日はサスペンションや電子制御などのセッティングに集中した。バイクのいいところが見つかって、ラップタイムも良かったのでハッピー」と充実した内容に満足げな様子。
 チームメイトのバレンティーノ・ロッシも、この日最も印象的だったのはホルヘの走り、と認めた。「00秒2というベストタイムも立派だけど、なにより印象深いのは(安定した)ペース。00、00、00、00、00、00……(笑)」この走りは、自分に対しても強烈なモチベーションになる、と付け加えた。昨年ヤマハに在籍したアンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ)も「ホルヘはもともと安定感の高い選手だけど、ここセパンでは勝っていない。それがこの走りなんだから、今年はさらに強さを増している、といわざるをえないね」とエールを送った。
 ちなみに、このコースでは昨年のセパンテストでケーシー・ストーナーが1分59秒607という非公式記録をマークしている。三日目にそのタイムを更新できるかどうかと訊ねられると、ロレンソは「やってみないとわからないけど、朝早めの時間にコンディションが良ければ、59秒台は出せると思うよ。59秒前半か後半かはともかくとしてもね。でも、それはべつに重要なことではなくて、明日いちばん大事なのはレースを想定したロングラン。00秒台を安定して出せると思う」と話した。じっさいには、三日目は早朝から雨が降ってコンディションがやや悪化してしまったために、ロングランのタイムは2分01秒台に終始した。「もうちょっといいタイムを出せると思っていたけど、残念ながらフロントタイヤに違和感があって、周回序盤から切れ込み気味だったのでペースを落とさなければならなかった。(切れ込みの原因は)このコンディションに合わせたセッティングが、完璧ではなかったからだと思う」
 それでも、この難しいコンディションでレース周回を走ったのは自分だけじゃないかな、と満足げな様子で三日間のテストを締めくくった。

Valentino Rossi Valentino Rossi
「ヤマハのバイクは非常に素性がいいけれども、この三日間では細かいところを詰めきれなかった」とも。

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 マルケスも、予想に違わぬ能力の高さを見せた。前回のセパンテストでは、マシンに対する理解を深めるために電子制御をほとんど用いなかった、と話したが、今回のテストではその部分に関して「正直なことを言って、どれくらいのレベルで電子制御を使っているのか、自分ではわからないんだ」と、少し照れたような笑顔で説明した。「でも、(チーム曰く)ケーシーのレベルと同じ程度だと言ってるよ」ということなので、おそらくはあまり制御をかけない方向でマシンへの習熟を重ねているのだろうと推測できる。それにしても、習熟とはいいながら三日間の総合タイムでトップのロレンソからわずか0.361秒差の総合三番手なのだから、まさに末恐るべしというほかない才能である。
 三日間のテストを終えたマルケスは、「(昨年のルーキーテスト三日間を含めて)セパンで九日走ってだいぶ慣れてきたけど、バイクについて知らなければいけないことがまだたくさんある。Moto2なら、乗ったとたんにどう走らせればいいかとか、状態がどんなふうに変化していくかとかを即座に理解できるけど、このバイクの場合はまだ判断がつかない。中古タイヤでもっとコンスタントに走らなければならないし、コーナー進入のフィーリングも改善していきたい。でも、立ち上がりはだいぶ良くなってきた」と、成果や課題を列挙した。そして、これは速い選手全員に共通することだけれども、とにかくその聡明さと自らを客観的に分析する冷静な能力には、つくづく感心する。
「体力的にはベリーベリーベリーグッドな状態。前回のテストのときはすごく疲れたけど、いまはとても調子がいいんだ」
 と話したことも、付け加えておこう。

Marc Marquez Marc Marquez
「初走行のオースティンと、こことまったくタイプの異なるヘレスで、自分たちのレベルを確認したい」

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 彼らと対照的に苦労続きなのがドゥカティ陣営である。今回のテスト初日に、移籍初年度のドヴィツィオーゾは現下最大の問題点として旋回性を指摘した。
「進入や立ち上がりは、ベストではないけど自分たちはそんなに損をしていない。(他陣営との)違いは旋回。曲がらないんだ。旋回性についてバイクのどこが問題なのかを見極めていかなければならないと思う。ブレーキングもアンチウィリーも良くなったので、旋回さえよくなればタイムもよくなると思う」
 ドヴィツィオーゾはドゥカティ一年目だが、上記の科白はこの陣営のマシンを操る他の選手たちが過去に何度も発してきたことばだ。じっさいに、ニッキー・ヘイデンはこの日、「旋回に関しては、まあ、いつものことで慣れっこなんだけどね……」とも述べている。
 そして、テスト三日目を終了しても、旋回性の改善について彼らの口からはなにもそれらしいことばは聞かれなかった。
 また、CRT勢の青山は、今回のテストでも手首の負傷は完全に癒えきらず、さらに原因不明のチャタリングに終始悩まされ続けたために、かなりフラストレーションのたまる三日間になったようだ。
「規則的にチャタが出ればまだいいんですけど、まったく規則性がない。ブレーキを優しくかけるとかフロント荷重が抜けないようにするとか、走り方で工夫をすると多少はよくなるけど、このチャタのためにコーナーでは外に跳ねて出て行ってしまうので、ラインにのっていられないんですよ。スピードを制限して対応するしかなくて、あるいは外に跳ねることを予想して、もう少し内側から入っていくか……。でも、内側から入っていくとよけいタイトになるので、さらに跳ねが出ちゃうんですよね……」
 渋い表情ながら青山は、次のテストまでにチームとともに打開策の糸口を見いだしたい、と唇を引き締めた。

Andrea Dovizioso Nicky Hayden
悩みの深いひとそのいち。 悩みの深いひとそのに。


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 さて、二回のセパンテストを終えて、来月中旬にホンダとヤマハは新開催地のオースティンでプライベートテストを実施する。その後、スペイン・ヘレスで開幕前の最終テストが行われ、四月第一週に開幕戦、という流れ。次回レポートは、ヘレス最終テストの模様をお送りいたします。というわけで、ではまた。

青山博一 Cal Crutchlow Stefan Bradl
ヒロシ史上最悪のチャタかも……。 「お、写真とってんのか、おまえ!?」 「……、あついっす」
※第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した西村 章さんの著書「最後の王者 MotoGPライダー 青山博一の軌跡」(小学館 1680円)は好評発売中。西村さんの発刊記念インタビューも引き続き掲載中です。どうぞご覧ください。

※話題の書籍「IL CAPOLAVORO」の日本語版「バレンティーノ・ロッシ 使命〜最速最強のストーリー〜」(ウィック・ビジュアル・ビューロウ 1995円)は西村さんが翻訳を担当。ヤマハ移籍、常勝、そしてドゥカティへの電撃移籍の舞台裏などバレンティーノ・ロッシファンならずとも必見。好評発売中です。電子書籍化されました。Amazon Kindle Storeや各電子書籍サイトで購入できます。

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