MBHCC E-1
 西村 章

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スポーツ誌や一般誌、二輪誌はもちろん、マンガ誌や通信社、はては欧州のバイク誌等にも幅広くMotoGP関連記事を寄稿するジャーナリスト。訳書に『バレンティーノ・ロッシ自叙伝』『MotoGPパフォーマンスライディングテクニック』等。第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した『最後の王者 MotoGPライダー・青山博一の軌跡』は小学館から絶賛発売中(1680円)。
twitterアカウントは@akyranishimura

第66回 第6戦カタルニアGP「Homage to Catalonia」

 第6戦カタルーニャGPは、レースウィークの三日間を通じてカリッと晴れた好天に恵まれた。日曜日午後の気温は32度。やはりこれくらいの天気がカタルーニャらしくていい。ただし、気温が高くなると路面温度も上昇するわけで、MotoGPクラスの決勝レースが行われた午後2時には57度に達した。このような温度条件だと、当然ながらタイヤに厳しいレースになる。土曜の予選時でもすでに50度を上回る状態で、25周で争われる決勝は、タイヤマネジメントが勝敗の大きな鍵を握るであろうことがこの段階からすでに予想されていた。
 フロントタイヤに関しては、どの選手も総じて、ブレーキングの安定感にすぐれるハード側のコンパウンドを好んでいる様子だったが、リアタイヤに関しては、ハード側は一般的に耐久性に優れる一方、このカタルーニャサーキットは高速コーナー等で深いリーンアングルで旋回する時間が多く、このコース特性上、エッジグリップに秀でるソフト側のコンパウンドが良好なパフォーマンスを発揮していた。
 初日にトップタイムを記録したものの、土曜の予選で7番手に沈んだバレンティーノ・ロッシ(ヤマハ・ファクトリー・レーシング)がこの日の夕刻、「明日はおそらく皆が同じタイヤ選択になると思う。ただし、(リアタイヤのハード側コンパウンドとソフト側コンパウンドの)どちらを選ぶかは当日になってみないとなんともいえない」と述べると、これに対して、過去のファステストラップ記録を塗り替えて当コースでは前人未踏の1分40秒台という驚速でポールポジションを記録したダニ・ペドロサは、「まあおそらくいつものように、自分にいちばん合ったタイヤを選ぶことになると思う」と、いかにもこのヒトらしい淡々としたコメント。
 それを受けて、フロントロー2番グリッドのカル・クラッチロー(モンスター・ヤマハ Tech3)は、「ダニが選ぶタイヤを選ぶ」と答えて周囲を笑わせた。すると、3番グリッドのホルヘ・ロレンソがさらにそれを受けて「じゃあ、自分はカルの選択するタイヤを履くことにする」とコメント。きれいな<三段重ね>が成立した瞬間でありました。
 結果的に決勝レースのタイヤチョイスは、プロトタイプマシン勢は全員がフロントにハード側、リアにソフト側を選択。序盤から静謐な緊迫感の続く展開になった。最後はタイヤと自己を沈着冷静にマネジメントする能力に長けたロレンソが、ラスト数周でペドロサを引き離し、2年連続のカタルーニャ制覇。ペドロサも昨年同様の2位表彰台。3位にはマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)。
 予選では2列目6番手を獲得したマルケスは、「このコースは高速コーナーが多く、難しい。他の選手は今までに何度も走ってきてたくさんの経験があるけれども、ぼくはもっと速く走れるラインを学びとらなければならない。昨日よりもうまく走れるようになったけれども、まだ旋回速度を上げすぎる傾向があるし、他の選手からタイム的にも離されている」と話していたが、決勝レースが始まってみると序盤からロレンソとペドロサの背後にピタリとつけて、終盤にはペドロサをオーバーテイクしようとする動きも見せた。さすがに挙動を乱してしまい、2位浮上とはならなかったものの、それでも最後まで経験豊富な先輩ライダーに肉迫し続けたのだから、なんとも恐るべき20歳だ。
「ホルヘやダニについて走れるとは思っていなかった。セットアップもライディングも完璧ではなかったけれども、それでも彼らと一緒に走れて、自信を深めることができた。(終盤周回では)攻めどころを間違ったと思う。自分の得意なところで攻めたつもりだったけど、ダニのブレーキがとてもハードだった。クラッシュしそうになって離されてしまい、それでも最後まで攻めつづけた。ウイークを通じてMotoGPバイクの乗り方がわからなかったけど、決勝でダニの後ろについて走り、だいぶわかってきた。多くのことを学べたよ。正直なところ、タイヤをマネジメントする余裕はなく、限界で走っていたのでフロントは切れこんできたけれども、それでも最後までダニについていくことができた」
 というレース後のコメントを聞くにつれ、この才能の末恐ろしさはますます募る一方、である。

J.ロレンソ ダニ・ペドロサ
自分自身を冷静に保つ「不動の平常心」。さすがチャンピオン。 デビュー以来200戦。そして意外にもMotoGPの当地PPは今回が初。
V.ロッシ ステファン・ブラドル
今季2回目の4位。優勝したチームメイトとの差は5.874秒。 前回4位、今回は5位。確実に安定感を増しつつある。
マルク・マルケス マルク・マルケス
驚異の学習能力を今回も発揮。脅威の20歳。

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 また、今回のレースでは、日本人選手の青山博一(アヴィンティア・ブルセンス)が土曜のフリープラクティス3回目に5コーナーで転倒し、大怪我を負った。左手薬指の第一関節先端欠損と中指腱負傷でバルセロナの病院へ搬送され、この日の夕刻に緊急手術を実施した。48時間の入院を経て現在は休養中。一刻も早いレース復帰……というよりも、万全な状態で復活を果たすためにも、いまはまずしっかりとからだを休め、傷を癒やすことに専念してほしい。

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 日本人選手といえば、今回はMoto2クラスの中上貴晶が5位でフィニッシュを果たした。予選では高いパフォーマンスを披露する一方で、ここ数戦は決勝レースで転倒ノーポイントが続き、いまひとつ何かがうまく噛み合わない展開が続いた。第6戦での5位は、今後しっかりと優勝争いをするための重要な足がかり、といえるかもしれない。
「表彰台争いをしたかったけれども難しい状態だったので、走り方を切り換えました。現状のパッケージではベストを尽くせたと思います。今年はレース後半にペースを落とすことが多かったけど、今回はいろいろと探りながら走り、(終盤周回にラップタイムの)ペースを戻せたので、その点では収穫のあるレースでした。現状をしっかりとうけとめて5位でゴールできたことをまずはよろこび、(優勝するためには)まだ4つポジションをあげないといけないので、次のレースに向けてさらにがんばっていきたいと思います」
 というわけで、次戦は伝統のTTアッセン。決勝レースは土曜なのでお間違えなきよう。

中上貴晶 青山博一
決勝は水温上昇に苦戦したものの、その状況にキッチリ対応。 祈・快癒。
スズキ スズキ
レース翌日の居残りテストに参加。2015年からの復帰を発表。
カタルニア カタルニア
人気はますますうなぎ登り。関連グッズも大繁盛。 今回のタイトルにも援用した「カタロニア賛歌」(ジョージ・オーウェル)の一読をオススメいたします。
■第6戦 カタルニアGP

6月16日 カタルニア・サーキット 晴
順位 No. ライダー チーム名 車両

1 #99 Jorge Lorenzo Yamaha Factory Racing YAMAHA
2 #26 Dani Pedrosa Repsol Honda Team HONDA
3 #93 Marc Marquez Repsol Honda Team HONDA
4 #46 Valentino Rossi Yamaha Factory Racing YAMAHA
5 #6 Stefan Bradl LCR Honda MotoGP HONDA
6 #38 Bradley Smith Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA
7 #4 Andrea Dovizioso Ducati Team DUCATI
8 #41 Aleix Espargaro Power Electronics Aspar ART(CRT)
9 #5 Colin Edwards NGM Mobile Forward Racing FTR-Kawasaki(CRT)
10 #51 Michele Pirro Ducati Test Team DUCATI
11 #9 Danilo Petrucci Came IodaRacing Project Ioda-Suter(CRT)
12 #71 Claudio Corti NGM Mobile Forward Racing FTR Kawasaki(CRT)
13 #68 Yonny Hernandez Paul Bird Motorsport ART(CRT)
14 #67 Bryan Staring Go & Fun Honda Gresini FTR-HONDA(CRT)
15 #77 Javier Del Amor Avintia Blusens FTR(CRT)
16 #52 Lukas Pesek Came IodaRacing Project Ioda-Suter(CRT)
RT #8 Hector Barbera Avintia Blusens FTR(CRT)
RT #17 Karel Abraham Cardion AB Motoracing ART(CRT)
RT #35 Cal Crutchlow Monster Yamaha Tech 3 YAMAHA
RT #69 Nicky Hayden Ducati Team DUCATI
RT #29 Andrea Iannone Pramac Racing Team DUCATI
RT #14 Randy De Puniet Power Electronics Aspar ART(CRT)
RT #19 Alvaro Bautista Go & Fun Honda Gresini HONDA
RT #70 Michael Laverty Paul Bird Motorsport PBM(CRT)
※第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した西村 章さんの著書「最後の王者 MotoGPライダー 青山博一の軌跡」(小学館 1680円)は好評発売中。西村さんの発刊記念インタビューも引き続き掲載中です。どうぞご覧ください。

※話題の書籍「IL CAPOLAVORO」の日本語版「バレンティーノ・ロッシ 使命〜最速最強のストーリー〜」(ウィック・ビジュアル・ビューロウ 1995円)は西村さんが翻訳を担当。ヤマハ移籍、常勝、そしてドゥカティへの電撃移籍の舞台裏などバレンティーノ・ロッシファンならずとも必見。好評発売中です。

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