MBHCC E-1
西村 章

第78回 第2回セパンテスト「OPEN ARMS」

 前回の当欄でもお伝えしたとおり、セパンサーキットで行われた2回目のプレシーズンテストを終えたドゥカティは、自陣営の4選手全員を〈オープンカテゴリー〉で参戦させると発表した。当初のラインナップは、サテライトチームであるプラマックレーシングのヨニー・ヘルナンデスのみがオープンカテゴリーで、ファクトリーチームであるドゥカティ・チーム2名(アンドレア・ドヴィツィオーゾ、カル・クラッチロー)とプラマックレーシングのアンドレア・イアンノーネは〈ファクトリー・オプション〉の車輌でテストを行っていた。
 ここで〈オープンカテゴリー〉と〈ファクトリー・オプション〉について簡単に整理をしておくと、両仕様の主な違いはざっくりと以下のようにまとめることができる。

〈オープンカテゴリー〉……公式ECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)使用(ハードウェア+ソフトウェア)、エンジン年間使用基数12(シーズン中の逐次改良可)、燃料容量24リットル
〈ファクトリーオプション〉……公式ECU使用(ハードウェアのみ、ソフトウェアは独自に記述)、エンジン年間使用基数5(開幕後は改良禁止)、燃料容量20リットル
 オープンとファクトリーにはそれぞれの短所と長所がある。
 ファクトリーは電子制御ソフトを自由に開発できる代わりに、エンジンの改良は年間を通じて禁止され、高い燃費効率や耐久性能も要求される。いっぽう、オープンは自由度の低い公式ECUソフトウェアが必須となる代わりにエンジンを自由に改良でき、燃費効率やエンジン耐久性の制限も、より緩やかなものになっている。
 また、タイヤ割り当てについては、ファクトリーに対してオープンはリアタイヤに一段階柔らかいコンパウンドを使用する(たとえばファクトリーがハード&ミディアムを使用する場合、オープンはミディアム&ソフトを使用する)。さらに、シーズン中のテスト回数についても、オープンカテゴリーには多くの実施回数が許可されている。
 今回のセパンテストでは、アンドレア・ドヴィツィオーゾとアンドレア・イアンノーネが二日目にオープン仕様の車輌を走行。以前から囁かれていたドゥカティのオープン化移行の噂が、この日、現実のものとなった。
 オープン仕様を走行したドヴィツィオーゾは、ファクトリーの電子制御との相違点をこんなふうに説明した。
「ファクトリーよりは少し悪い。改善していくために何をできるか今晩これから皆で相談して詰めなきゃいけないけど、そんなに悪くもない。アンチウィリーやトラクションコントロールも含め、全般的に少しずつ(パフォーマンスが)低くてたしかに違いはあるんだけど、でも、そんなに大きな違いじゃないよ」
 最終日には、クラッチローもオープン仕様を走行し、「ノーマルバイク(ファクトリー仕様)と同様なラップタイムを刻めた」と、パフォーマンスの高さを強調した。

#04
テスト二日目から、オープン仕様を走行。
#35
テスト最終日にオープン仕様を走行。
#68
第1回セパンテストからオープン仕様で走行。
#29
ファクトリー契約でチームはプラマックに在籍。
#41
今回のテストでも、卓越した速さを披露。

 オープンカテゴリーといえば、NGMモバイル・フォワードレーシングの兄エスパルガロ(FTRヤマハ:現状のスペックは昨年のサテライト仕様YZR-M1に共通ECUを搭載し、FTR製カウルを被せたものと推測される)が非常に速いタイムを連発して、大きな注目を集めている。今回のテストでドゥカティもオープン仕様を走らせたとはいえ、タイヤ割り当てはファクトリー用であったため、オープン用のソフト側タイヤは供給されていない。したがって、今回のリザルトだけで兄エスパルガロとの厳密な比較はできないものの、今後、オープン用タイヤを装着したドゥカティのデスモセディチGP14がいったいどれほどのパフォーマンスを発揮するのかは、非常に気になるところだ。
 今回のテストでドヴィツィオーゾのベストタイムは2分00秒067で、トップのバレンティーノ・ロッシとダニ・ペドロサから0.068秒という僅差だったが、このタイムはあくまでファクトリー仕様で走行したタイムアタックで記録したもの(ちなみに、オープン仕様での最速選手は例によって兄エスパルガロ。トップから0.102秒差)。オープン仕様でのドヴィツィオーゾはミニロングランを実施し、2分01秒台後半から02秒台というペースだった。また、今回の全般的なテスト成果としては、ブレーキングの改善を挙げた。
「コーナーの奥までハードブレーキングできるようになったんだ。ブレーキに関して自分はアグレッシブなライダーなので、限界まで攻められるようになったのはうれしいね。去年はリアが浮くとフロントがロックしてしまうので、(ブレーキを)リリースしなければならなかった。今はホンダやヤマハのように強いブレーキができる。ただ、旋回性は未だに問題が大きくて、限界が低い。ここはかなりよくしていかないと、レースでもかなり不利になると思う。でも、これはいつものことだから、アンダーステアの改善にはまだまだ時間がかかるだろうね」

        

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