MBHCC E-1
西村 章

第81回 第8戦オランダGP WinnerTakesAll

 それにしてもまあよく勝つ選手である。21歳にしてすでに並の選手の一生分を軽く上回る勝利数を挙げている。晴れで良し雨で良し暑くても良し寒くても良しバトルして良しちぎって良し、とまったく死角ゼロの状態で、マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)は開幕以来8連勝。ちなみに開幕以来8連勝という記録は、1971年にジャコモ・アゴスチーニがMVアグスタで達成して以来、43年ぶり。その年はジャック・フィンドレーが9戦目に勝利して、アゴ連勝に待ったをかけたのだが、今年のMotoGPは、はたして誰かが彼にストップをかけることはできるのでしょうかね。
 オランダGPの会場TTサーキット・アッセンは伝統的にヤマハが強く、バレンティーノ・ロッシがここで勝ちまくった数々のレースを鮮明に憶えている人も多いだろう。ホンダは2012年にケーシー・ストーナーが勝っているのだが、このレースは優勝候補最右翼だったホルヘ・ロレンソが1周目の1コーナーでアルバロ・バウティスタにやっつけられてしまったため、ストーナーの独走劇になった。それ以前のホンダ勝利といえば2006年のニッキー・ヘイデンだが、この年はロッシがプラクティスで右腕を負傷し、一時は決勝出場も危ぶまれたものの最下位グリッドからスタートし、8位フィニッシュ。レースはコーリン・エドワーズとヘイデンの、子供が両手を振りまわしてぐーで殴り合うようなわりと身も蓋もないバトルの結果、ヘイデンが優勝した、という経緯がある。
 というわけで、ホンダがガチでアッセンの勝利を収めたレースは、2003年のセテ・ジベルナウにまで遡らなければならない。余談だが、この年のレースはビシャビシャの雨のなか行われた250ccクラス決勝で、当時アブルッツォ・レーシングに所属していたアンソニー・ウェストが突然ビックリするような速さを発揮して初優勝を飾ったことが非常に印象ぶかく、自分自身の記憶を辿ればジベルナウの優勝よりもむしろこの出来事のほうが鮮明であったりするくらいだ。
 つまりはそれくらいに、MotoGP時代のホンダはこのアッセンで苦戦を強いられていたわけで、マルケスを止めるとすれば、ヤマハにとってここは最大のチャンスだったはずなのだが、結果はご存知のとおり、寄らば斬るぞくらいの勢いで破竹の8連勝。ヤマハ陣営は、ロッシがフリープラクティスでいい速さを見せていたものの、予選あたりからどうも戦略が後手後手にまわり気味になり、決勝は5位。今季のロッシは本格的な復活の気配を見せ、表彰台にも連続して登壇してきたけれども、その記録も4戦でひとまず途切れてしまった。

#93 #93
200てんまんてん。

 一方、昨年のレースでプラクティス中に鎖骨を骨折し、手術を行った翌日にサーキットへ戻ってきて決勝を完走するという感動的なレースを見せたホルヘ・ロレンソは13位。近年珍しいくらいの低位に沈んでしまったが、その惨敗の理由はまさにその昨年のレースだった、とレース後に明らかにした。
「スリックタイヤで雨の中を走っていると、去年の出来事が脳裡に甦って怖くなり、攻めることができなかったんだ」
 レースを終え、チームウェアに着替えたロレンソは、淡々とした表情で敗因の責は自らにあったことを正直に認めた。この言葉は、怪我に対する恐怖心を素直に告白したという意味で、非常に勇気のある発言だとも思う。世界の頂点を競うアスリートならば、ふつうはそのような己の弱みを隠したくなるのが人情というものだろう。ある意味ではいかにもロレンソらしい、この〈フェアネス〉には、取材をさせてもらうひとりとして敬意を表したい。

#99 #99
今季は苦しいレースが続く。

 ちなみにロッシは、ロレンソのこの告白について、こんなふうに評している。
「今日のコンディションはとても危険で、とても難しかった。スリックタイヤなら、どのコーナーでも簡単に転べそうな状態だった。だから、ホルヘの言うことはよくわかるよ。今日のようなコンディションで、去年、彼は転んでいるわけだから。自分も脚を骨折したとき(2010年ムジェロ)は、タイヤが冷えた状態だったので、怪我から復帰してしばらくの間はニュータイヤでコースインするたびに、そのことがいつも頭の隅にひっかかっていた。(その恐怖心を)払拭しきるまでには、少し時間がかかったよ。でも、次のドイツGPでは、ホルヘはきっといつもの調子に戻っていると思う」
 とロッシはそんなふうに語るものの、次戦の会場ザクセンリンクサーキットは、どちらかといえばホンダが優勢で、ダニ・ペドロサとの相性が抜群なコースである。ペドロサは2010年から2012年まで三年連続優勝を飾ってるが、昨年は負傷等もあって決勝を走行せず、レースはマルケスが制した。今年も順当にいけば今年もこのふたりが優勝候補最右翼で、そこにロッシとロレンソがどう対抗していくか、というウィークの展開になるのだろう。

#46 #26
128ポイントでランキング2位。 128ポイントだがランキング3位。

 ところで、マルケスが快進撃を続ける開幕以来の連勝記録だが、ジャコモ・アゴスチーニは1969年と1970年に開幕10連勝、という記録を残している。マルケスが次のザクセンリンクで勝ったならば、夏休みを挟んで第10戦インディアナポリスでこのタイ記録並立に挑戦することになる。このままどんどん過去の記録を塗り替えていってほしい気もする一方で、これだけ一気に歴史を更新し続けていくと、そのあとにはもうペンペン草も生えないんじゃないか、という一抹の不安もおぼえないではない。とはいえ、滅多にない折角の機会なのだから、可能な限り行けるところまで行ってもらいましょうか。

#04 #41
あともうちょっとなのねー。 初PPを獲得。
#19 #07
ひらり、ひらり。 次戦で捲土重来。

 というわけで、今回は比較的ストレートなMotoGPクラスのレースレポートになりましたが、最後に日本人関連情報をばひとつ。
 ご存知のとおり、サポートレースのレッドブル・ルーキーズ・カップで、日本人選手の三原壮紫が第1レースで優勝。開幕戦ヘレス以来の今季2勝目を達成した。
 チーム監督の上田昇は愛弟子とともに勝利のよろこびを分かち合う一方で「レースによってはまだまだ波があって、トップから大きく引き離される展開になることもある。将来、もっと高い場所で戦うためには、もっと毎戦コンスタントに走れるようになることが必要」と気持ちを引き締め、「なぜ引き離されてしまうのか、それを自分の頭で考えなさい!」と三原を叱咤激励した。
 ともあれサーキットで君が代が流れるのは、やはり気持ちがいいものでありますね。
 では、また。

#ノビー #三原
師匠とその弟子。
#アッセン #アッセン
会場へのアクセスは至便。 これがダッチウェザー。
#おねーさん #おねーさん
#おねーさん #おねーさん
このサーキットでは、傘が実用面で役立ちます。
*   *   *   *   *


■第8戦 オランダGP

6月28日 TTサーキット・アッセン 曇

順位 No. ライダー チーム名 車両
1 #93 Marc Marquez Repsol Honda Team Honda
2 #04 Andrea Dovizioso Ducati Team Ducati
3 #26 Dani Pedrosa Repsol Honda Team Honda
4 #41 Aleix Espargaro NGM Mobile Forward Racing Forword Yamaha
5 #46 Valentino Rossi Yamaha Factory Racing Yamaha
6 #29 Andrea Iannone Pramac Racing Ducati
7 #19 Alvaro Bautista GO&FUN Honda Gresini Honda
8 #38 Bradley Smith Monster Yamaha Tech 3 Yamaha
9 #35 Cal Crutchlow Ducati Team Ducati
10 #06 Stefan Bradl LCR Honda MotoGP Honda
11 #23 Broc Parkes Paul Bird Motorsport PBM
12 #45 Scott Redding GO&FUN Honda Gresini Honda
13 #99 Jorge Lorenzo Yamaha Factory Racing Yamaha
14 #17 Karel Abraham Cardion AB Motoracin Honda
15 #09 Danilo Petrucci IodaRacing Project ATR
16 #07 青山博一 Drive M7 Aspar Honda
17 #69 Nicky Hayden Drive M7 Aspar Honda
18 #08 Hector Barbera Avintia Racing Avintia
19 #68 Yonny Hernandez Energy T.I. Pramac Racing Ducati
20 #63 Mike Di Meglio Avintia Racing Avintia
21 #70 Michael Laverty Paul Bird Motorsport PBM
22 #05 Colin Edwards NGM Mobile Forward Racing Forward Yamaha
RT Pol Espargaro Monster Yamaha Tech 3 Yamaha
※第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した西村 章さんの著書「最後の王者 MotoGPライダー 青山博一の軌跡」(小学館 1680円)は好評発売中。西村さんの発刊記念インタビューも引き続き掲載中です。どうぞご覧ください。

※話題の書籍「IL CAPOLAVORO」の日本語版「バレンティーノ・ロッシ 使命〜最速最強のストーリー〜」(ウィック・ビジュアル・ビューロウ 1995円)は西村さんが翻訳を担当。ヤマハ移籍、常勝、そしてドゥカティへの電撃移籍の舞台裏などバレンティーノ・ロッシファンならずとも必見。好評発売中です。

[第80回へ|第81回|第82回]
[MotoGPはいらんかねバックナンバー目次へ]
[バックナンバー目次へ]