幻立喰・ソ

第56回 臨ソ、桜と共にちりぬるをはかよたれそつねならむうゐのおくやまけふこえてあさきゆめみしゑひもせす(←暗号ではありません)

「臨時ニュースを申し上げます」
 まじめそうなアナウンサーが、緊迫しながらも冷静な声で繰り返す。映画でよく見た昔の臨時ニュースはこうでした。だいたいは、ゴジラが上陸したとか、火星人が来襲したとか、大本営陸海軍部12月8日午前6時発表〜とか、中身はほぼバッドニュースです。
 現在はニュース速報のテロップになりましたが、「番組の途中ですが〜」と画面が報道局に切り替わるあの一瞬は心臓によくありません。

 心臓によくないといえば、悲しいお知らせがあります。前回、坂崎師匠からの定期便に記されていたのですが、休業が続いていた神田ガード下の名店、神田そばが閉店してしまったとのこと。とても優しいおやっさんとおばちゃんの笑顔に癒やされたソ人は数知れず。いかに素敵な空間であったか、わたしのような最末端ソ人が書くのは、はばかられます。作家の平松洋子姉弟子(坂崎師匠のお弟子さんだそうです。ということは坂崎師匠の自称弟子のわたしの姉弟子様に当たります。と、わたしが勝手に思っているだけです)が週刊文春3月19日号のコラム「この味」で泣かせるコラムを書かれております。未読な罰当たり者は、床屋さんとかお医者さんの待合室で探してじっくり読んでください。

 


神田そば

神田そば
在りし日の神田ガード下の偉大なる名店、神田そば。狭いながらも癒やしの立喰・ソでした。(2011年10月撮影) 野菜天そば。いくつかのタネからチョイスできました。骨折したと聞くおばちゃんの一日も早いご回復を願って止みません。(2011年10月撮影)

神田そば

神田そば
坂崎師匠いわく「残ってもらいたいものに限ってなくなっていく」。青いのれんが掛かることはもうないのでしょうか。(2015年3月撮影) 神田そばの青いシート看板の裏に、こんな文字が書かれていたことは案外知られていないかもしれません。(2015年3月撮影)

 悲しいニュースといえば、先日どこかの国で起きた最友好国の大使を自称愛国者が切りつけた事件。どこかの国の大統領様は青くなって大使にお見舞いの電話をなさったそうです。
「わたしも選挙運動中に切りつけられたことがありますから、その痛みはよくわかります」と。
「Jesus Christ!」きっと大使は嘆いたことでしょう。「大使だろうが、大統領候補だろうが簡単に切りつけられるどえらい国に赴任した」と。大使の一日も早いご回復をお祈りいたします。
 などと、国際情勢(というほどのものでもない)を知ったかぶりして自己満足したので、次の話題です。だんだん本題に近づいていくはずですから、がまんしてください。わたしもがまんしますから(なにかを)。

 3月13日、定期列車としての北斗星ラストランは大きなニュースになりました。「さよなら〜」「ありがと〜」と見送る葬式鉄ではないのですが、1956年のあさかぜ以来、未来永劫続くと思っていた定期運行の、客車列車の、寝台特急の、終焉という一大事でありました。ゆえに某踏切でお見送りをしました。犬を連れた近所のおばちゃんや、カメラ片手にやってきた近所のおじちゃんなど、非鉄のみなさんも多数見受けられました。おまわりさんやJR職員の方が数名監視? に来ていらっしゃいましたが、怒号も混乱もなく静かなお見送りでした。

 とはいえ、実は4月から8月にかけて臨時列車としてほぼ隔日で走ります。事情を知らない善良なみなさんは、北斗星を目撃して亡霊だと恐れおののくかもしれません。しかし幻北斗星でもありませんからご安心ください(運転日はこちらでご確認を)。くだんの踏切で犬を連れて見に来ていたおとうさんに「実はこれからも走るんですよ」と、教えたがり鉄人がレクチャーすると「じゃあ、今日はいいか」と帰ってしまいました。そりゃそうですね。

 臨時列車の北斗星は運転時間が変わって、編成も半室だったロビーカーがまるまる1両になったり、豪華個室のロイヤルが増えたりと、ちょっと豪華になります。廃止後の方が豪華になるのも変な話ですが、有終の美を飾るということでしょうか。ぜひロイヤルに乗ってみたいものです。その時は40時間くらい遅れてくれるとこのうえない幸せです。「おまえ、さっきから、なに言ってんの?」という空耳が鳴り止みませんので、このくらいにしておきます。

 


上野

田端
3月6日、北斗星入線前の上野駅13番線。「警視庁」の腕章を巻いた人が数名。写真のおっちゃんは「ふたりはつきあってんだろ?」とからんでいました。何があったんでしょう?(2015年3月撮影) ダイヤ改正前日、3月13日の某踏切。そこそこの人で賑わっていましたが、怒号もヤジもなく粛々としたお見送り。写真の中央のおっちゃんは、帰ったおっちゃんではありません。(2015年3月撮影)

 ということで、臨時の意味をあらぬところに赤線だらけの岩波国語辞典第四版(1986年)で再確認しました。

りんじ【臨時】①定時ではなく、その時その時に(状況に応じて)行うこと。きまった時でないこと。「ー休業」②一時的であること「ー職員」

 
 意味が分かったら下の写真を見てください。臨時そば店です。貴重な報告をしてくれたのは、立喰・ソも大好きなピンキー大統領閣下です。Dio110のインプレを取るため、わざわざ三浦半島まで走りました(大統領は最低でも300キロは走らないとインプレを書く気がおきない本格派です)。すると三浦海岸で河津桜まつりが開催されていたのです。桜は見頃、立ち寄らない理由はありません。桜を愛でつつ歩いていると、ふと目に入ったのがこの看板だったという訳です。

 しかし臨時そば店とはなんでしょうか。普通に考えると、その時その時に(状況に応じて)営業するそば店。または、一時的なそば店ということになります。もう一つの可能性は、「臨時」という店名の場合。某所には「立ち喰いそば」という店名ながら、限りなく一般店にちかいそば屋さんもありますから、その可能性も捨てきれません。

 

 ここは鼻と耳と目からソを出しながらソをすすったあの立喰・ソに間違いないのです。忘れたいけれど忘れません。いや、忘れたくない、忘れられない、忘れてはいけない、忘れ物ない? もう一度ちゃんと確認してから学校行きなさいよ。的な、由緒正しい昭和スタンド型立喰・ソを、現代に伝える貴重なえきめんや三浦海岸駅店のはずです。ひょっとして幻立喰・ソになってしまったのでしょうか。

 たった一杯の立喰・ソを食べるというか、確認するためにわざわざ三浦海岸くんだりまで行くのもかなりめんどくさいのですが、前回多大なる後悔を公開したばかりで、安易に後悔すると、あまりに狡獪なので、やっこらせと重い腰を上げ、ふわり軽い財布を持って、赤い電車の黄色い電車に乗って行って参りました。

 三浦海岸駅前は河津桜が満開、平日でも賑わっていました。お目当ての臨時そば店は、えきめんや三浦海岸店駅時代そのままの位置で、シブイ店構えのままでした。当たりまえです。しかしお客さんはいません。お花見に来て立喰・ソをすする人はあまりいないのかもしれませんが、空いていればお話も聞けてラッキーです。ありがとう黄色い電車! さっそく幸せがやってきたとカウンターに立ちましたが、お客どころかお店の人もいません。いつもぼんやりしていますが、同じようにぼんやりしていると「おまたせ〜」とおばちゃんが小走りで戻ってきました。初鰹やホトトギスや青葉よりもまぶしい蛍光オレンジのTシャツには、くっきりとえきめんやのロゴが。
 事情聴取の前にまずは注文です。券売機はカバーがかけられて現金取引です。かつてあったセットメニューやらカツ丼やらビールやらはなく、絞ったラインアップです。かき揚げそばを注文し、おばちゃんに「臨時ですか?」と訪ねると「あらやだ、臨月じゃないわよ」と返されるかと思いましたが「そうねえ、よくわからないけど、桜の間はやるんじゃない?」と、ソをゆでながら答えてくれました。予想どおりのお答え。「えきめんやは、もうやめちゃったんですか?」と肝心の質問に「ここ、吹きさらしで寒いじゃないの(笑)。はい、おまちどうさま」と、はぐらかし気味の回答と共に、手慣れた手つきであっという間にソができました。心なしかネギを大盛りにしてくれたような。口止め料でしょうか(なにかの)。
 まだまだ聞いておかなくてはならないことだらけですが、出来たてのソをいただかないと。いただきます。ん〜おいしい。えきめんや時代と味は変わったのかな? ん〜どうだったかな? バカ舌でよく分かりません。おいしいです。

 

 私がおいしそうにずるずるとソをすすっていたからか、それとも桜の精の悪戯か、誰もいなかったカウンターがあっという間に埋まってしまいました。こういうことよくあります。当然おばちゃんにわかに忙しくなり、わたしもだらだらすすっていられる状況ではありません。立喰・ソでだらだらすることほどみっともないことはございません。あわてて流し込み、そそくさと退場するしかありませんでした。

 


黄色い電車
なんとまあ一本しかないイエローハッピートレインに乗れてしました。昔は黄色い救急車が迎えにくるといわれたものですが……(2015年3月撮影)

えきめんや
えきめんや三浦海岸駅店。(2010年10月撮影)

臨時そば
臨時そば店。(2015年3月撮影)

臨時そば
かつてと同じ、あざやかなオレンジ色のえきめんやのユニフォーム。メニューは少ないものの、おしるこなんてものがあるあたりに、えきめんやの反骨精神? が見え隠れ。(2015年3月撮影)

臨時そば
肉厚のかき揚げに多めのネギ。素敵です。おいしゅうごさいました。(2015年3月撮影)

 振り返れば満開の桜。お花見を楽しむたくさんの人たちのなかで、桜の花が散る頃、共に姿を消すであろう臨時そば店。来年も河津桜を愛でながら、すすれるのか否かは、散りゆく桜の花びらさえ、きっとご存じありません(←例え知っていても教えてくれない。だって桜の花びらはしゃべらないから。しゃべったらかなりうるさい)。

  
 華やかであればあるほどば、賑やかであればあるほど、祭りの後の静寂は寂しいものです。河津桜とともに臨時そば店も散ったのか否か。それは桜の精のみぞ知ることです(←もう一度確認しに行くのがめんどくさいときの、意味のまったく分からないけれど、なんとなく、まるく収まる便利な言い訳)。

 


桜

●立喰・ソNEWS 2015

鶴見店よ、おまえもか!

 えきめんや京急鶴見駅店が、耐震構造工事のため2015年3月31日をもって閉店するそうです。個性派揃いのえきめんやの中でも、ここだけのオリジナルメニュー、こだわり有機野菜天も3月31日をもって幻こ有天になってしまうのです。ご賞味はお早めに。

 ちなみに前回の調査(2011年2月)から組織改編があったのか、それとも単に勘違いor気がつかなかったのか、公式サイトで確認したところ、京急フードサービスのページに品川店、黄金町店、北久里浜店、YRP野比店が掲載されていました。確か前回は北久里浜店だけだったはずですが。一方、京急ステーションコマースのサイトには、品川駅店、川崎駅店、鶴見駅店、横浜駅店、黄金町駅店、弘明寺駅店、金沢文庫駅店、追浜駅店、横須賀中央駅店、浪子そば(旧新逗子店)、久里浜駅店、YRP野比駅店、三崎口駅店が掲載されています。
 京急フードサービスの方は〜店、ステーションコマースは〜駅店と表記が微妙に違います。品川、黄金町、YRP野比にふたつのえきめんやがあるのか? ありません。
 いったいどういうことでしょう? 賃貸だ、フランチャイズだと、いろいろと理由は考えられるのですが、わたしは頭が悪いし、めんどくさいので考えません。どちらも京急100%出資ですし、個性派だらけのえきめんやですから、どうでもいいじゃないですか。わははは。
 ちなみに新逗子店は名前が変わって浪子そばに。前回調査時はなかった三崎口にえきめん茶屋三崎口駅店。黄金町店には場所柄からか「えきめんや/えき缶酒場 黄金町駅店」。YRP野比店は「えきめんや×浪花ひとくち餃子 餃々(チャオチャオ) 」が新たに加わりました。餃子? なんで? というコラボを魅せ、独自路線を邁進するえきめんから目が離せません。



稚内


稚内
改札面にでんとした店構えが自信のほどを表すかのような鶴見店。そばもおつゆも自家製がウリでした(2015年3月撮影) いつ見ても悲しい貼り紙。耐震構造工事ならばしょうがないとはいえ、終わったら忘れずに復活してください。(2015年3月撮影)

バソ
バ☆ソ
日本全国立ち喰いそば全店制覇を目論む立ち喰いそば人。現在600店以上のデータを収集したものの、ただ行って食べるだけで、たいして役に立たない。立ち喰いそば屋経営を目論むも、先立つものも腕も知識も人望もなく断念。で、立ち喰いそば屋を経営ではなく、立ち喰いそば屋そのものになろうとしたが「妖怪・立ち喰いそば屋人間」になってしまうので泣く泣く断念。世間的には3本くらいネジがたりない人と評価されている。一番の心配事はそばアレルギーになったらどうしよう……。


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