MBHCC E-1
西村 章

第89回 第4戦スペインGP SomeLikeitHot

 シーズン18戦のなかでも最も盛り上がるレースのひとつが、イベリア半島南部アンダルシア地方のヘレスサーキットで開催されるスペインGPだ。今年の観客動員は、三日間総計で24万3570人。決勝日だけでも12万2551人。これだけの人数が、ごく当たり前のように集まるのだから、いつものことながらスペインのMotoGP人気は本当にたいしたもんである。
 毎年この時期に開催される当大会は、ごくわずかな例外を除いてこの十年ほどは毎回、強く明るい陽射しのもとでレースが行われてきた。なかでも今年の天候は例年の1.5倍増し、くらいの晴天で、予選が行われた土曜の午後には路面が50℃を超える状況になった。
 午前はまだ穏やかな気温で推移するものの、路面温度が大きく上昇する午後になると、路面が滑りやすくなってタイヤのグリップ力が低下する……という状況になると、えてしてタイヤサプライヤーに不満が集中する展開になりがちなのだが、今回のレースでブリヂストンの供給したタイヤアロケーションはファクトリーオプション・オープンカテゴリーともにハード側ソフト側が非常に良好に作動をした様子。タイヤパフォーマンスに対する選手たちのコンプレインは、(少なくとも我々メディアに対しては)一切なく、彼らの話は、その選択肢のどちらが自分たちのバイク性能をより発揮できるのか、という模索に終始していた。
 そこのところを最もうまく合わせこんだのがホルヘ・ロレンソ(モビスター・ヤマハ MotoGP)で、予選までのほぼ全セッションでトップタイム。予選でもコースレコードを更新してポールポジションを獲得し、日曜の決勝レースはレース中ベストラップタイムを塗り替えしながら、一気に後続を引き離してポールトゥウィン。終わってみれば総レースタイムも過去の記録を20秒も更新しており、「ごめんなさいホルヘさんおねがいですもうかんべんしてください」というくらいの圧倒的な強さを見せつけた。シーズン4戦目の今季初勝利とはいえ、己の持ち味を存分に披露した鉄壁の勝ちパターンで、序盤3戦の微妙な苦戦は完全に払拭しきった感がある。いやあ、圧巻でした。

#ヘレスサーキット #99
満員御礼。 問答無用驚速圧勝天下御免。

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 2位はマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)。レースウィークの前週土曜日のダートトラックトレーニングで左手小指を骨折。即座に手術を実施し、医師からレース参戦OKの許可も得たものの、果たしてどこまで走れるのかは本人にとってもかなりの未知数であった様子。初日の走行を終えた際、骨折した具体的な場所について、「ここ」と第二関節近くのテーピングを施したあたりを指さしながら
「こういうふうに、内側にこう折れ曲がっちゃってね、それでね」
 と、いつものかろやかな口調で説明しながら
「今日は痛み止めを服用しなかった。明日も使わずに、決勝レースだけで使うことにするつもり」
 と話した。決勝前には
「体力を温存するためにロングランをやってないのでどれだけ走れるかわからない。決勝ではまずポイント獲得を目指そうと思う。勝てそうなら狙いたいけど、明日はホルヘが行っちゃうだろうね」
 という予測どおりの結果になったのは前述のとおり。今回の2位20ポイントにより前戦アルゼンチンGPのノーポイントをある程度カバーできたので、まずは当初の狙いどおり、という結果でしょうか。

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 3位はバレンティーノ・ロッシ(モビスター・ヤマハ MotoGP)で、このリザルトにより200表彰台を達成し、ランキング首位の座を36歳という年齢でしっかりと維持、という事実もすごいのだが、今回のレースウィークでは、前戦アルゼンチンGPでトップ争いを繰り広げている最中にマルケスが転倒した出来事に話題が集中した。こういう「おいしい」事態が出来すると、両者の関係を一気に遺恨化させようと躍起になる人々もいるのだが、メディア側からのそのような挑発にもロッシは一切乗らず、またマルケスも22歳という年齢以上に大人な態度でそれらの質問を上手に躱す穏やかな対応が結果的に際立つことになった。
 じっさい、ロッシはマルケスとの関係悪化を望んではいない様子で、そのあたりは、彼が標的にし、様々な手練手管を弄して心理的な駆け引きを仕掛けた過去の宿敵たちとの事情とはやや様相を異にしている、というのが実際のところのようだ。とはいっても、シーズンが進んで両者の間でチャンピオン争いが熾烈になれば、現在の「歳の離れた天才兄弟」のような関係がある程度の緊張をはらんでくる可能性は大いにあり得るし、今回のレースにその予兆を見るかどうかもまた、意見の分かれるところかもしれない。ま、そうやっていろいろとゴシップの話題に花が咲くのは、この競技がそれだけイタリアやスペインでメジャースポーツであることのあらわれともいえるのだろうけれども。

#93 #46
小指骨折はハンディのうちにはいりません。 まさに史上最強最速の36歳。

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 開幕以降の3戦でアンドレア・ドヴィツィオーゾが連続2位表彰台を獲得して、ここ数年の迷走から抜け出しつつあることを大きくアピールしたドゥカティファクトリーだが、今回はアンドレア・イアンノーネが前戦同様フロントロー3番グリッドを獲得し、相変わらずの意気軒昂さを披露するかにも見えた。
 だが、決勝レースではスタート直後に誤ってウェットマッピングに入れてしまい、1周目で大きく順位を落とした。そこから懸命に追い上げて、最後は6位フィニッシュ。ドヴィツィオーゾも2周目のブレーキングでグラベルへ飛び出して、最後尾へと大きく順位を落とす。そこからシャカリキになって前の選手をちぎっては投げちぎっては投げ、という勢いで猛追し、9位に復帰してゴールしたのはたいしたものなのだが、レースリザルトだけを見ると、過去3戦ほどの華々しさにはやや欠ける内容になってしまった感は否めない。
 とはいえ、数年前の低迷を思えば、今年の彼らの走りは本格的な復調を充分に感じさせる内容だ。

 その原動力がジジ・ダッリーニャの陣頭指揮にあることは間違いないのだが、ドヴィツィオーゾとイアンノーネ、というライダーの組み合わせの妙も指摘しておきたい。
 ドヴィツィオーゾは、知る人ぞ知る神経質な選手だ。セットアップにも敏感で、装具の取り扱いも几帳面だ。一方のイアンノーネは、典型的なフィーリングの人である。今回のレースウィークでも、イアンノーネは金曜日の走行後に「二台のバイクはそれぞれ違うセッティングで走った」と話していたので、ではそれらのセッティングが具体的にどう違うのかと質問してみた。ドヴィツィオーゾなら、この手の質問に対してある程度テクニカルな説明もしてくれるのだが、イアンノーネは
「いや、僕はエンジニアじゃないんで細かいことはわからないんだけどね、一台は高速コーナーがいい感じで、もう一台はブレーキングが安定してるんだ」
 と、このようにフィーリング重視のインプレッションが返ってくる。
 このように対照的なタイプの選手を揃えていることは、バイクの全方向的な開発という点でも非常に寄与するところが大きいだろうし、それが今のドゥカティの勢いを象徴している感もある。じっさい、他の陣営を見てみても、ヤマハのロレンソとロッシはある意味で非常に対照的なスタイルだし、それはホンダのマルケスとペドロサにしても同様だ。


#04

#29

#ジジ・ダッリーニャ
2015年の「赤い台風の目」

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 では、スズキの両選手、アレイシ・エスパルガロとマーヴェリック・ヴィニャーレスが対照的なスタイルの持ち主なのかというと、そこはちょっとよくわからない、というのが今の正直な印象ではある。とはいえ、この両選手も今回のレースではなかなかの健闘を見せた。兄エスパルガロは、レース前に
「今の目標は、トップとの差を詰めること。9秒以内でゴールできれば自分たちにとってはレースに勝利したのと同じ」と話した。
 日曜日に全27周のレースを終えてみると、順位は7位、と前戦同様の今季ベストタイだったものの、35秒というタイムギャップについては、まだまだ課題山積、というのが正直な感触のようだ。レース直後に汗をぬぐいながら
「そういう意味では、今日は最悪のレースだったよ。ホルヘが素晴らしく速くて、彼と2位の差が6、7秒あったみたいで(正確には5.576秒)、バレとも12秒(11.586秒)開いていたよね。僕は7位だったけど、今日はホルヘがずばぬけていたとはいえ、差はちょっと大きかったね……」
 と残念そうな表情で話した。しかし、その一方では
「僕たちは充分に速かったわけじゃないけど、ミスをしなかったし、ここまで毎戦ポイントを獲得してきている。チームはいい雰囲気だし、スタッフは優秀。今の場所が自分たちの望むところではないので、がんばってもっと上を目指したい」
 と今後の戦いに意欲的な姿勢を見せた。
 MotoGPルーキーのヴィニャーレスは14番グリッドスタートの11位フィニッシュ。
「前に出ようと頑張るあまりブレーキングで無理をして、スロットルも早く開けていたので、3周目以降はタイヤがかなり厳しくなってしまった。予選でいいグリッドを獲得できていれば、もっといいレースができたと思う」
 なかなかにクレバーなコメントだ。ならばと思い、ここまでの4戦の走りを自分ではどう捉えているのか、という問いを投げかけてみた。
「いいと思うよ。僕の目標は、できるだけたくさんポイントを稼ぎ、トップテンに近づくこと。予選がうまくいけばトップテンは狙えていると思うから、予選では最低でも3列目に収まるようになりたい。バイクも僕も少しずつよくなっているけど、吸収するべきことはまだまだたくさんあって、予選でのソフトタイヤの使い方はもっと学んでいかないといけない。それができれば、トップエイトも夢じゃないと思うんだ」

#25 #41
日々是学習。日々是前進。

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 ダニ・ペドロサ(レプソル・ホンダ・チーム)の腕上がり手術に伴い、第2戦アメリカズGPからここまで代役参戦をしてきたHRCテストライダーの青山博一は、15周目に5コーナーで転倒し、残念ながらリタイアとなった。
「皆はリアがソフト側のタイヤだったので、自分はハードで勝負をかけてみた。今日は思ったほど暑くならなかったのでレース序盤は順位を上げられなかったけど、少しずつ前においついて、ハードタイヤのいいところを出せる後半に勝負をしたいと思っていたのですが、その前に転んでしまった……、自分のミスです」
 かなりの悔しさを隠しきれない様子だったが、
「この3戦で、毎回学ぶことがありました。結果に結びつけられなかったのは残念ですが、いい経験をさせてもらったレプソル・ホンダ・チームとホンダに感謝しています」
 と潔く締めくくった。

#7 #7
「ルマンはダニが帰ってくると思います」とヒロシ。

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 Moto2クラスでは、中上貴晶(IDEMITSUホンダ・チームアジア)が予選で5番グリッドを獲得。決勝はスタートを決めて3番手で1コーナーに入っていったものの、そこから順位をえぐるように落としていき、最後はポイント圏外の17位でチェッカー。うーむ……、というほかない内容である。うーむ。
 Moto3クラスの日本人選手は、14番グリッドスタートの尾野弘樹が周回ごとに少しずつ順位を上げて、セカンドグループで争っていた15周目のバックストレートエンドで転倒。直後にいたヤコブ・コーンフェイルが巻き込まれて転倒。ひと昔前にいうところの、クールポコ状態、というやつである。コーンフェイルばば怒り、尾野だだへこみ。レーシングアクシデントではあるものの、コーンフェイルにしてみれば不運というほかない。尾野は今回の反省を次のフランスGPで活かし、今季自己ベストを目指してほしい。
 一方、高校生ライダーの鈴木竜生は23位で完走。
「ウィークの流れとしては、今回が一番良かったと思います。ただ、レース序盤のペースアップは、もっとしっかりとやらなければいけないし、ラスト2周で自分のポジションをキープをできていればもっとよかったと思います。タイヤの上手な使い方を、からだにしみこませないとだめだと思いました」
と振り返った。

#30
水木はアラゴンでテストを実施。
#76
やっちまったなァ……。
#24
次戦はチームのホームGP。

 そんなこんなで、毎度のことながらレースはつねに悲喜こもごもである。では、また。

#ヘレスサーキット #ヘレス
おいらの名は保積てぃおぺぺ。 わたしの名はバレンティーナ(生後六ヶ月)。
#ヘレスサーキット #ヘレス
表紙モデルになっても絵になります。 選手たちの戦いをしずかに見守るフラミンゴ像。
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■2015年 第4戦 スペインGP

5月3日 ヘレス・サーキット


順位 No. ライダー チーム名 車両
1 #99 Jorge Lorenzo Yamaha Factory Racing Yamaha
2 #93 Marc Marquez Repsol Honda Team Honda
3 #46 Valentino Rossi Yamaha Factory Racing Yamaha
4 #35 Cal Crutchlow CWM LCR Honda Honda
5 #44 Pol Espargaro Monster Yamaha Tech 3 Yamaha
6 #29 Andrea Iannone Ducati Team Ducati
7 #41 Aleix Espargaro Team Suzuki MotoGP Suzuki
8 #38 Bradley Smith Monster Yamaha Tech 3 Yamaha
9 #04 Andrea Dovizioso Ducati Team Ducati
10 #68 Yonny Hernandez Pramac Racing Ducati
11 #25 Maverick Viñales Team Suzuki MotoGP SUZUKI
12 #09 Danilo Petrucci Pramac Racing Ducati
13 #45 Scott Redding Estrella Galicia 0,0 Marc VDS Honda
14 #08 Hector Barbera Avintia Racing Ducati
15 #19 Alvaro Bautista Aprilia Racing Team Gresini Aprilia
16 #06 Stefan Bradl Forward Racing Forward Yamaha
17 #69 Nicky HAYDEN Drive M7 Aspar Honda
18 #50 Eugene Laverty
Drive M7 Aspar Honda
19 #33 Marco Melandri Aprilia Racing Team Gresini Aprilia
20 #43 Jack Miller CWM LCR Honda Honda
21 #15 Alex De Angelis Octo IodaRacing Team ART
22 #63 Mike Di Meglio Avintia Racing Ducati
RT #07 青山 博一 Repsol Honda Team Honda
RT #76 Loris Baz Forward Racing Forward Yamaha
RT #17 Karel Abraham AB Motoracin Honda
※第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞と、2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞した西村 章さんの著書「最後の王者 MotoGPライダー 青山博一の軌跡」(小学館 1680円)は好評発売中。西村さんの発刊記念インタビューも引き続き掲載中です。どうぞご覧ください。

※話題の書籍「IL CAPOLAVORO」の日本語版「バレンティーノ・ロッシ 使命〜最速最強のストーリー〜」(ウィック・ビジュアル・ビューロウ 1995円)は西村さんが翻訳を担当。ヤマハ移籍、常勝、そしてドゥカティへの電撃移籍の舞台裏などバレンティーノ・ロッシファンならずとも必見。好評発売中です。

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