ところで、オープン化への移行を決断したのは今日(テスト最終日)、とダッリーニャは上記でも述べてはいるが、前回の当欄でも紹介したとおり、彼らのこの動きは以前からも知る人ぞ知るところで、一説には昨年のうちに、すでにこの路線が決定していた、という話もある。その真偽はともかくとしても、今回のテストでオープン車輌を走らせることは既定路線であったようだ。
そうはいっても、ファクトリーオプションとオープンカテゴリーのマシンは様々な点で異なる。ECUソフトウェアを上書きしてタンクを乗せ換えればあっというまにファクトリーバイクがオープン仕様になる、というような、そんな単純なものでもないだろう。
たとえば、ホンダRC213VやヤマハYZR-M1は、各種マッピングのモード切替スイッチ類がハンドルバー左側に装備されている。
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ペドロサ車の左ハンドルバー。
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ロッシ車の左ハンドルバー。
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一方、オープンカテゴリーの車輌にはすべて、マニエッティ・マレッリ社製の制御スイッチが装備されている。
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RCV1000R。青ボタンの隣にマレッリのロゴを確認できる。
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C・エドワーズ車の左ハンドルバー。
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さて、今回のテストで走行したドゥカティのデスモセディチGP14だが、テスト二日目にオープン仕様で走行したドヴィツィオーゾ車と、同日にファクトリーオプション仕様のみで走行していたというクラッチロー車の左ハンドルバーは、ともに、このマレッリ社製スイッチが装備されていた。
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マレッリ製オープン車用ボタンが装備されたドビの車輌。
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ファクトリー仕様で走行した、というマシンの左ハンドルバー。
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ちなみに、デスモセディチGP13の左ハンドルバー(バレンシア最終戦事後テスト時)は、現在のGP14とはかなり異なっているものだった。
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最終戦事後テスト時のデスモセディチ。
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左写真を拡大したもの
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また、今回のテストでも、イアンノーネ車の左ハンドルバーには従来型のファクトリー仕様のものがあった。
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これらの写真からは様々な推測が可能だが、ファクトリー仕様で走ったというクラッチローのスイッチがオープン仕様のマレッリ製だったということは、昔からマレッリ社との関係が深いドゥカティは、今回のテストに備えて共通ECU用スイッチでオープン用標準ソフトウェアだけではなく、ファクトリー独自ソフトウェアも制御できるようにかなり周到な準備を進めてきた、ということなのだろうか?
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これが本来の「ファクトリー仕様」の左ハンドルバー?
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ドゥカティ関連で、さらに話題をもうひとつ。今回のテストでドゥカティ陣営は、フル参戦選手に加えてテストライダーのミケーレ・ピッロも参加していたのだが、そのピッロ車にちょっと面白そうなものが装備されていた。エキパイの集合部左右に配置されているこれは、なんというか、マスダンパーのようなものに見えなくもない。
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なんですかこれは。
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マスダンパーといえば、7〜8年ほど前にF1ですったもんだして、たしか使用禁止になった部品だと思うが、MotoGPでは技術規則で特に禁止されていない。この部品がマスダンパーだとして、それがデスモセディチの挙動補正や戦闘力向上にどこまで貢献できるのかは不明だが、こんなところにも、ダッリーニャのドゥカティ復活に賭ける真摯な思いとユニークな発想が見え隠れしているように思う。
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今回のテストで大きな話題になったもうひとつの出来事は、ブリヂストンが投入した2014年スペックの、陣営ごとに異なる相性だ。
前回のセパンテストでブリヂストンは、2013年スペックとこのタイヤを投入していたが、今回は2014年スペックのみとなった。一部では「2014年用ニュータイヤ」等という表現もされていたので少し紛らわしいのだが、このタイヤは以前から使用している耐熱構造(昨年はムジェロ、カタルーニャ、アッセン、ザクセン、インディ、フィリップアイランドで投入)と、以前から使用しているコンパウンドの組み合わせで、その組み合わせが「新しい」ということが正確な表現になるようだ。
ワンメークである以上、メーカーによって相性にある程度の差が出るのはやむをえないことで、どうやってこのタイヤ特性にマシンを合わせこんでいくか、また、そのタイヤ性能をどれだけ引き出せるセッティングを見いだすか、が勝負の分かれ目になる。
このタイヤに関してはヤマハとの相性が特にいまひとつのようで、しかもライディングスタイルの違いとも相まって、バレンティーノ・ロッシよりもホルヘ・ロレンソに大きな影響が出てしまった。
ロレンソは、路面状態が悪かった初日こそトップと0.310秒差の5番手につけたが、周りがタイムを詰めていく二日目にも自分は一向に改善せず、トップから1秒落ちの9番手に沈んだ。
初日の走行後には「今日の結果は、ハッピーだよ(苦笑)」と、まだ自虐ジョークを飛ばす元気も見せたあと、「エッジグリップが2013年スペックよりも劣っている。進入で自信を持って入っていけない。旋回中も良くないし、立ち上がりでスピンする。すべてで悪くなっている」と、深刻な表情になった。
そして、活路を見いだせなかった二日目には、「あまりに残念で、昨日以上に話す内容はなく、同じ話を繰り返してもしかたないから」(広報担当者)という理由で、我々との囲み会見をキャンセルする事態になった。
今までの彼は、どんなに鬱憤が溜まる状態や辛い結果のときでも、プロフェッショナルな態度を貫いて必ず会見を行っていた。それだけに、このキャンセルは正直なところ、少し意外な印象もあった。それほどにこの二日目の走行内容と結果が、悔しく、苛立たしく、がっかりするものだったのだろう。
最終日はそれでもなんとか格好をつけて、前二日間よりはタイヤ性能を少しは引き出せたようで、トップから0.620秒差の7番手につけた。しかし、内容はさんざんだったようで、
「タイヤのエッジが非常に厳しい。このコースは本当に相性が悪い。レースシミュレーションもやってみたけど、タイヤの消耗が激しく、タイムの落ちも大きかったので14周で切り上げることにした」とロレンソ。
一方のロッシは、ロレンソほどではないにしてもタイヤに多少の不満を抱えながら、三日目朝の路面温度が上がりすぎない時間帯に1分59秒999に入れるトップタイムを記録。また、ヤマハ陣営と対照的に2014年スペックのタイヤに何の問題も抱えていないダニ・ペドロサも、ロッシとまったくの同一タイムで三日間のテストを締めくくった。
同じヤマハでともにタイヤの問題を抱えながらトップタイムで終えたロッシと、満足なレースシミュレーションを実施できなかったロレンソは、今回のセパンテストであまりに対照的な結果に終わった。その理由についてロッシは、
「エッジグリップが低いので、バイクに乗りにくい。ぼくとホルヘのスタイルの違いも大きいと思う。ホルヘはエッジで走る時間が長いし、また、燃費を向上させるための電子制御の影響で、その領域でエンジンに強い癖が出るので、ホルヘはさらに大きく問題が出るのかもしれないね」
と説明している。ヤマハはホンダと比べて旋回性でタイムを稼ぐ本来的な特性があるだけに、今回に関してはロレンソの持ち味がすべてネガティブに作用してしまった、ということなのだろう。コースが変われば状況も多少は変化するだろうから、3月3日から5日までの三日間、ファクトリーチーム3陣営6選手がタイヤテストを実施するフィリップアイランドでは、ロレンソとしてはなんとしてでもパフォーマンス向上を狙っていることだろう。
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えらい目に遭ったひと。
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トップタイムだったひと。
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……と、気がつけば今回も非常に長くなってしまいました。すいません。次回こそもっとコンパクトにまとめます。では、開幕戦のカタールGPでお目にかかりましょう。さいなら御免。
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