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1977年の東京モーターショー、ヤマハブースには、ヤマハ初のリッターモデルXSイレブンを筆頭に、一世を風靡した本格的なアメリカンのXSシリーズ、大幅に戦闘力がアップしたモトクロッサーYZ250、そして新時代を予感させる水冷V4エンジンを搭載したYZR1000などが所狭しと展示され、熱い視線を集めていた。
その一角に、特に最新技術も先鋭的なフォルムもない、ごくごく普通の単気筒モデルも展示されていた。エンジンは当時国内最大のビッグオフローダーXT500がベース。「オンロードに帰ってきたビッグシングル」と銘打ったそのニューモデルこそ、後に驚異のロングセラーとなるSR400/500であった。
最もモーターサイクルらしい味を、最新のクラフトマンシップで生み出すという「ヤマハスポーツ新時代」というコンセプトで開発されたSRは、翌年3月から販売が開始された。スリムでシンプルな車体にビッグシングルを搭載した、新しいジャンルを開拓するロードスポーツモデルの船出であった。
期待のニューモデルではあったものの、当時はバイクブームの発火期。スポーツモデルは多気筒、高性能化へと向かう時代であり、2気筒モデルと比べても10馬力近い差のあるSRが大きな注目を集めることはなかった。また、シングルスポーツ=クラシックバイクという固定観念も強く、ヤマハの描いた思惑がユーザーにうまく伝わらなかった。ユーザーどころか、メディア向けに開催された試乗会においても、本質を理解できるはずのジャーナリストから「なぜいまさら単気筒?」「振動や音が中途半端」といった辛口な評価が出るほど、思惑がすれ違ってていた。
造り手の思いとユーザーの指向の食い違いにより、消えていったバイクは数知れず。だが、SRがそうならなかったのは、みなさんご存知の通りである。
キャストホイールが解禁となった79年モデルは、スポーツモデルらしさを強調するようにキャストホイールにチューブレスタイヤを装着したSPへとモデルチェンジを行なった。しかし世は多気筒、高出力、高性能化時代。時代に逆行するようなSRの登録台数は、1978年の3337台をピークに、79年2720台、81年2283台と下降線を描いた(今の目で見れば十分過ぎる台数に映るかもしれないが、1981年の二輪車総生産台数は741万台という一桁違う莫大な数であった)。
1980年、RZ250の誕生によりバイクブームはさらに加速、がむしゃらに高性能化時代へ突っ走るが、それは逆にシンプルなSRをクローズアップさせることにもなった。 82年、要望の高かったスポークホイールモデルを限定発売したところ、前年の倍近い需要があったのだ。83年のモデルチェンジでは、晴れてスポークホイール仕様も併売すると、約6500台という登録台数を記録。先鋭化層とは逆の需要も確実に存在することを見事証明するという、後のネイキッドブームを予言するような現象を起こした。 さらに、SRカスタムの大家となるカスタムビルダーによる、クラシックや英車をモチーフとしたSRカスタムがひとつのトレンドとなり、カスタム素材というSRの新たな需要も開拓された。 このような追い風に乗り好調なセールスを続け、85年にはフロントブレーキがディスクからドラムに戻るという、“深化”を見せたが、皮肉なことに83年をピークに登録台数は再び減少、正常進化版ともいえるSRXの登場もあり、89年には1822台まで落ち込み、このままフェイドアウトかと思われた。
だがしかし、SRはここでも不死鳥ぶりを見せる。「SRが消える」という噂が広がると、ユーザーだけではなくヤマハ社内でもSRを惜しむ声が高まった。90年には微増ながら登録台数も回復、一度は生産終了が決まっていたもののゴルフカートが4サイクル化され、その工場に生産ラインを移すことが出来るという幸運も重なり、SRは生産を続けることが出来た。先鋭化しすぎたレーサーレプリカへのアンチテーゼとしても注目され、92年には6000台オーバー、96年にはSR史上最高の8971台を記録、第二次SRブームの頂点を迎えた。
バイクブームが去った2000年代は、バイク全体の需要の落ち込みにより、最盛期からは信じられないような車種の統廃合が急速に進んだ。それまではメイン市場であった400クラスの落ち込みは特に大きかったが、SRは前年比微増という堅調な成績で安定した人気を続け、当分は安泰と思われた。 だがしかし、一段と厳しくなる平成18年(2007年)排出ガス規制を前に、いよいよ終焉を迎えると誰もが思った。事実この規制により多くのバイクが命脈を絶たれる中、SRは大勢の予想を見事に覆して2010年モデルは、なんとフューエルインジェクションを搭載して復活。不死鳥SRは再び奇跡ともいえる生還を果たしたのだ。
誕生からすでに36年を越えたが、累計生産台数は約13万台(2012年現在)で、生産された期間を考慮すれば驚くほど多い生産台数とはいえない。基本的なシステムやデザインは誕生以来不変、愛され方にも大きな変化は見られない。バイクを取り巻く環境は、誕生当時からは考えられないほど激変したが、SRというバイクのスタンスはメーカーが造り、ユーザーやビルダーが育てるという理想の形で続いていくだろう。