のど元から心臓が飛び出しそうになりながら、反射的に急ブレーキをかけました! が、いくら車間を空けてのんびり走っていたとはいえ、高速道路上でのこと、間に合うはずもありません。
落ちてきた足場にクルマを乗り上げつつ、鉄パイプはフロント左側にガキン! と当たって弾け飛びました。
左車線後方を走っていたセローにも災難は降りかかります。
のんびりな空気は一転、トラックから荷物が落ちたかと思うと鉄パイプがミニバンに弾き飛ばされて、まるで生き物のように自分の方に向かってきたのです。
「んが!!」
と声にもならない叫びを上げ、こちらも急ブレーキをかけましたが、横になって転がってくる鉄パイプを避けられるはずもなく、ガツンッと乗り上げてしまいました。
バランスを取りやすいオフ車のセローとはいえ、ノーズダイブしながらジャンプするような形になっては、どうしようもありません。
着地後に何とかバランスを保とうと抵抗してみたものの、高速でよろけるバイクを立て直すことはできず、あえなく転倒してしまったのです。
落ちた荷物が、直接ドライバーとライダーの身体に当たらなかったのは不幸中の幸いでした。
ミニバンのお父さんは無傷でしたし、セローの大学生もオフロードの装備でガッチリ固めていたこともあって、ケガは打撲程度の軽傷で済んだのです。
しかも、後続車両に追突されることもなく、多重事故にはなりませんでした。
ただ、ミニバンは左前部と下回りを破損して走行不能、セローも廃車に近い状態になってしまったのです。
そしてトラックのドライバーの方はといえば、後ろでそんな惨状が起こっているとはつゆ知らず、そのまま走り去っていったのです……。
ケーススタディ
この事故、誰がどう見ても悪いのは荷物を落としたトラックです。
しかしそのトラックは事故に気付かず、走り去ってしまいました。
そのままだと、加害者の特定に時間を取られ、後々の事故処理や保険処理が非常に面倒なことになるはずでした。が、今回の事故では不幸中の幸いが重なりました。
この事故を後方で見ていたバイクが、トラックに追いついて事故を知らせてくれたのです。
結果、保険処理等で多少もめましたが、落下物が不可避だったことが認められ、過失割合もトラック側が10、ミニバンとセロー側がが0ということで落ち着きました。
ミニバンの修理代はもちろん、バイク側の物損と治療費等全てトラック側の保険会社が補償することになったのです。
結果として損害は補償してもらえるものの、ミニバンのお父さんとセローの大学生の2人とも、トラックがそのまま逃げていたら……、もしあの荷物が直接身体に当たっていたら……と考えて、改めてゾッとしたことは言うまでもありません。
事故を防ぐために
今回のように落下物が不可避であった事故の場合、過失割合は物を落とした側が10となりますが、落下物を事前に確認できて、回避可能だった場合などは、落とした側の過失割合が8~9に下がります。
しかも、落とした側が気付かなかったり、落下物の持ち主が特定できなかったりする場合も多いのです。
落下物による事故に遭った場合、事故の補償をしてもらうためには、まずは落とし主を特定しなくてはなりません。
重大な人身事故の場合だと頑張って捜してくれますが、物損程度だと警察も本腰を入れてくれないのが実情です。
万が一落下物による事故に遭ってしまったら、警察に届けるのはもちろん、目撃者を確保しておいたり、その道路の管理者に連絡して他に同様の事故が起こっていないか確認したり、保険会社に連絡して対処法を聞いたりして、冷静に行動しましょう(もちろん、状況が許せばの話ですが)。
事故に遭わないために、荷物を積んだトラックの後ろなどは「荷物が落ちてくるかもしれない」と考えて、出来るだけ避けて走行するようにしましょう。
そして高速道路などで「落下物注意」の警告表示をみたら、他人事だと思わずに、十分注意を払って走行するように。
もちろん、前方の道路状況をしっかりと確認しながら運転することも忘れずに。
皆さんが想像する以上に、道路には落下物が落ちていて、それによる事故が起こっているのです。
バイクの場合、小石のような小さな落下物でも転んで大ケガをする場合があります。
落ち葉一枚で転倒する乗り物だということを念頭に置いて、道路に異常がないことを確認しながら運転するように心がけましょう。
※交通事故は、それぞれの事故状況によって過失割合が変わります。ここで紹介した例はケーススタディであり、すべての事故に当てはまるものではありません。
小田切 毅(おだぎり たけし)
■おだぎり たけし:損保・生保合わせて15社を超える保険会社の保険を取り扱う、大手総合保険代理店に勤務。保険マンとして、ファイナンシャルプランナーとして毎日忙しく飛び回っている。かつてバイクで筑波のレースに参戦し、4輪でもF3やGT選手権に参戦していた。実は2輪も4輪も元国際B級の腕前を誇る。イタルジェットのドラッグスターをカスタムして楽しんでいるが、スーパースポーツなどを見ると昔の血がムラムラと……。