「いや、確かに荷物を落としたのは俺だよ。でも、なんでよけないんだよ? よけてくれたらパイプも足場も壊れなくて済んだはずだし、事故にもならなかったはずだ」 と、後続の2台が悪いと言わんばかりです。

場所を移した警察署での事情聴取でも、終始一貫してこの調子。冷静な警察官が論理的に説明しても、聞く耳を持たなかったのです。

加害者のドライバーがこんな調子ですから、事故の補償問題、保険での処理がスムーズに運ぶはずもありません。

自分は被害者なのだからと、トラックの任意保険会社に連絡することもせず、「早く荷物の弁償をしろ」の一点張り。保険会社同士の話し合いにすら進みませんでした。


1ヶ月ほど何の進展も見られなかったので、被害者の2人はついに奥の手を出すことに。実は偶然にも2人とも、加入している任意保険に弁護士費用特約(事故処理の示談でもめた際に、弁護士報酬や訴訟費用などが保険金として支払われるもの)を付けていたのです。そこで、弁護士費用を心配することなく、保険処理を弁護士に委ねました。

交渉の場に弁護士が登場してから、事態はスムーズに運びました。

保険会社ではなく、弁護士から送られた書類を見て、動揺したトラックドライバーはようやく自分の保険会社に相談し、処理が進展したのです。

当初は自分が被害者だと主張していましたが、味方である自分の保険会社に、〝荷物をしっかりと固定しなかったこと〟 〝落下した荷物を避けることは出来なかったこと〟 〝事故の際の救護義務を怠ったこと〟等々、どう考えても勝ち目がないことを指摘され、渋々納得したのです。

その結果、時間が予想以上にかかったものの、なんとか丸く収り、一件落着した次第です。

万が一の万が一

タイトル


このケースのように、事故の相手と全く話が通じないというのは確かに希なケースです。

しかし、世の中には色々な人がいるもので、普通の常識が通じない人もいます。

交通事故の相手がそんな人だったら、もめることは必至です。

最近は少なくなりましたが、任意保険に加入していない車両や、タクシーとの交通事故などももめることが多いです。

事故相手の保険会社が示した補償額に納得できないことだってあるでしょう。

  万が一に起こってしまう交通事故で、万が一もめた際に役に立つのが、今回活躍した弁護士費用特約です。

内容は保険会社によって多少異なりますが、保険料も年間で考えると高くはありません。

  交通事故に遭うと、被害者の場合はもちろん、加害者の場合でも痛い思いをするものです。

ただでさえ辛い事故処理がもめたとしたら、精神的にも、金銭的にも痛い思いをするものです。

そのような状況になったとしても、弁護士が交渉の場に入ったら、事故処理がスムーズに運ぶ場合は多いのです。

万が一の万が一のために、弁護士費用特約を検討する価値はあると思います。

世の中色々な考えの人がいて、事故の相手を選ぶことは出来ないのですから。

今回の教訓

※交通事故は、それぞれの事故状況によって過失割合が変わります。ここで紹介した例はケーススタディであり、すべての事故に当てはまるものではありません。  

小田切 毅(おだぎり たけし)

■おだぎり たけし:損保・生保合わせて15社を超える保険会社の保険を取り扱う、大手総合保険代理店に勤務。保険マンとして、ファイナンシャルプランナーとして毎日忙しく飛び回っている。かつてバイクで筑波のレースに参戦し、4輪でもF3やGT選手権に参戦していた。実は2輪も4輪も元国際B級の腕前を誇る。イタルジェットのドラッグスターをカスタムして楽しんでいるが、スーパースポーツなどを見ると昔の血がムラムラと……。


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