最前までは、何となくいやだなー、程度にしか思っていなかった後ろに続く1BOXの運送屋さんは、坂道にさしかかった瞬間に遅くなった自転車にイライラしだしました。

左車線だけ他の車線より極端に流れが遅くなってしまい、早く集荷に行きたい運転手さんは困り顔です。

そんな折も折、交差点が近づいてきて、歩行者信号が点滅しだしたのが目に入ったのです。隣の車線なら渡れるのに、このままでは停車を余儀なくされそうでした。

「オイオイ、これじゃ赤になって渡れないじゃないか」

その運送屋さんの後方に、フォンンンといい勢いで走ってきたのは、GSX-R1000に乗った若者。

こちらもロードバイクに負けず劣らず、人によってはイケイケになってしまう乗り物です。

アクセルを軽くひねっただけで、瞬間移動するかのような加速。天下を取ったような気にさえなるバイクです。いい勢いで気持ちよく走ってきたのに、一気にスピードが落ちてしまったので、反射的に左側からすり抜けようかと、首を傾けて運送屋さんの前方を確認しました。

「トロイなー、前あいてんじゃん」

自転車が全く見えていない彼がすり抜けを決意したのとほぼ同時に、運送屋さんが中央車線へと車線変更したのです。

「ラッキー!」

とばかりにアクセルをひねったその瞬間! 1BOXの陰から遅い自転車が現れたのです! 

アクセルをゆるめる間も、ブレーキをかける間もなく、加速体制のまま自転車に追突してしまいました。

この事故の結果、ライダーのけがの方は転倒したものの打撲程度、バイクの方はもカウルが割れた程度で済みました。

しかし、自転車に乗っていたサラリーマンは左手と左足を骨折するなど、全治6ヶ月の重傷、自転車の方も全損に近い状態となってしまったのです。

ライダーは自分の不注意と、人に重傷を負わせてしまったことを反省しつつも、「道のど真ん中を自転車がゆっくりと走るのも、少しは悪いんじゃないか」と釈然としない思いを味わいました。

 ケーススタディ

タイトル


この事故、ライダーも反省しているように、過失割合としてはバイク側が100%悪い事故となります。

本来は車道の左側を走るべき自転車側も、多少悪いとは言えます。しかしその程度では過失割合に影響を与えるほどではありません。

ですから、自転車の損害70万円と、治療費300万円他慰謝料などが、バイク側の任意保険から補償されます。

バイク側の過失が10ですから、もちろんバイクの修理代は自腹となります。

一瞬のイケイケが大きな損害を産んでしまったのです。

事故を防ぐために

今回紹介したこの事故と同様のケースが最近増えています。

バイクやクルマに乗っている側としては、自転車が幹線道路のど真ん中を走るなんて信じられないと思うのでしょう。

遅い自転車により詰まっているクルマと考えるよりも、単に遅いクルマと考えがちなのです。

しかし冒頭で述べたように、最近は今までの常識では信じられないような走り方をする自転車が増えています。

事故を防ぐためにも、先入観は捨てて、走行中に何か違和感を覚えたら、とりあえず注意することです。

今回のケースで言えば、他の車線よりも極端に流れが遅いのですから、単に「遅いクルマだな」と考えるのではなく、「何があって遅いのだろう?」「何かあるかもしれない」「何か原因があるに違いない」と考えて、その原因が分かるまでは注意深く走っていれば、この事故は起こらなかったのです。

毎月のように何度も書いていますが、「かもしれない運転」は安全運転の肝です。

新年も明けたことですし、心も新たに、ゆめゆめ怠らないようにしましょう。

無事に家に帰り続けるからこそ、バイクライフを楽しく続けられるのです。 

今回の教訓

※交通事故は、それぞれの事故状況によって過失割合が変わります。ここで紹介した例はケーススタディであり、すべての事故に当てはまるものではありません。  

小田切 毅(おだぎり たけし)

■おだぎり たけし:損保・生保合わせて15社を超える保険会社の保険を取り扱う、大手総合保険代理店に勤務。保険マンとして、ファイナンシャルプランナーとして毎日忙しく飛び回っている。かつてバイクで筑波のレースに参戦し、4輪でもF3やGT選手権に参戦していた。実は2輪も4輪も元国際B級の腕前を誇る。イタルジェットのドラッグスターをカスタムして楽しんでいるが、スーパースポーツなどを見ると昔の血がムラムラと……。


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