クルマに乗っているのはこれまた社会人1年目の若者。
18歳でクルマの免許は取ったものの、運転する機会はそれほどなく、はっきり言ってペーパードライバーです。
今後ゴルフに行くこともあるだろうし、練習しておかなくてはと、レンタカーでドライブに行った帰りです。
ドキドキしながら、なんとか無事にドライブを終え、クルマを返しに行く矢先に雪が降り出してきました。
ただでさえ運転に不安があるのに、雪まで降ってきてはまともに走れるはずもありません。必要以上に速度を落とし、徐行に近い状態で走っていたのです。
「うー、遅い、遅すぎる」
通り慣れているこの道。歩道は車道より一段高く、車道の幅は余裕があります。渋滞している時などは、いつもクルマの左側をすり抜けていました。
この時もいつもの習慣で、左側から追い越すことに。車道の端には雪が多めに積もっていましたが、オフ車だし、大丈夫だろうと思い、バイクを歩道とクルマとの間に滑り込ませました。
すると、前から車道を逆走してくるママチャリが目に入ったのですが、
「まだ間に合うから抜いちゃえ!」アクセルを開け、クルマの前に出ようとしたその瞬間! 雪に乗ったリアタイヤがグリップを失い、転倒!
目の前で突然バイクが転倒して、クルマを運転していた若者はびっくりして急ブレーキ。
徐行していた甲斐もあって、バイクはひかずに済みました。
しかし、もっと驚いたのがママチャリに乗ったお母さん。
こちらも急ブレーキをかけ、そのはずみで転倒! そしてその転倒したお母さんに、道路を滑ってきたバイクがぶつかってしまったのです!
幸いなことに、滑ってきたバイクはスピードが落ちきっていたので、お母さんは打撲と擦り傷程度の軽傷で済みました。
クルマにひかれずに済んだKLXの若者も打ち身程度の軽傷。
自転車はタイヤがゆがんだりして廃車状態でしたが、バイクはタンクが凹み、外装にキズがついた程度で済みました。
ケーススタディ
この事故、一見するとバイク側の過失が100%のように思えます。しかし実は判例では、車道を逆走、つまり右側通行してきた自転車にも過失が20%あるのです。
道路交通法で、自転車が車道を通行する際は、左側を走らなくてはならないと定められているため、逆走してくる自転車にも非があるという訳です。
この事故では打ち身程度のライダーは病院にすら行かなかったので、治療費はかかっていません。お母さんの治療費はバイクの自賠責保険から補償され、慰謝料等も出ます。
また、バイク側の物損については、転倒した際のものなので、お母さんと直接関係はなく、ライダーの負担となりました。
ただ、自転車側の物損部分の3万円については、8割の2万4千円しか、バイクの対物保険からは補償されないのです。
車道を逆走していたお母さんも悪いのですが、少し可哀想な結果となってしまったのです。
事故を防ぐために
この事故の一番の原因は、ライダーが雪を侮ったことです。
雪の上は滑るということを念頭に置いていれば、そこを通ってまで追い越しをかけなかったはずです。
「少しの雪だから大丈夫だろう」という「だろう運転」が招いた事故なのです。
3月で春とはいえ、雪が少ない地方でも、寒の戻りで雪が降ることはあり得ます。
クルマと違って、バイクは1輪でも滑ったら即転倒という不安定な乗り物です。
雪に慣れているライダーは、あまりいないはず。
たとえほんの少しでも、雪に遭ったら、ゆめゆめ油断してはなりません。
※交通事故は、それぞれの事故状況によって過失割合が変わります。ここで紹介した例はケーススタディであり、すべての事故に当てはまるものではありません。
小田切 毅(おだぎり たけし)
■おだぎり たけし:損保・生保合わせて15社を超える保険会社の保険を取り扱う、大手総合保険代理店に勤務。保険マンとして、ファイナンシャルプランナーとして毎日忙しく飛び回っている。かつてバイクで筑波のレースに参戦し、4輪でもF3やGT選手権に参戦していた。実は2輪も4輪も元国際B級の腕前を誇る。イタルジェットのドラッグスターをカスタムして楽しんでいるが、スーパースポーツなどを見ると昔の血がムラムラと……。