高速のインターチェンジがある幹線道路につながるその道は、片側1車線でクルマがビッシリつながっています。

出鼻をくじかれましたが、勝手知ったる自分の街ですから、抜け道は知っています。次のT字路を右折してすぐの一方通行を左折して狭い道に入れば、混むことがなく幹線道路に行けるのです。

手前にゼブラゾーンがある右折レーンには、待っているクルマもいませんでした。そこで、渋滞しているときはいつもやるように、ゼブラゾーンを突っ切って右折レーンまでスイーッと進もうとしたのです。


一方事故相手となってしまうクルマのドライバーは、アンティークから古道具、リサイクル品まで扱うお店のオーナーさん。

愛車のいすゞ・ピアッツァ・ネロはジウジアーロデザインのクルマで、ハンドリング・バイ・ロータス仕様。MOMOのステアリングやBBSのホイールなど、随所に拘りを感じさせます。

奇しくも高校生のVTZ250と同じ'88年式で、オリジナルコンディションを維持しながら、大切に乗っている自慢のクルマです。


この日は好きモノだったおじいさんが亡くなったばかりの家へ、家族からはガラクタにしか見えないような遺品の見積もりに向かうため、この街にやってきました。

渋滞を見越して家を早めに出たのですが、いつもにも増しての混み具合。事故現場となる、右折レーンがある交差点にようやく辿り着いたと思ったら、微動だにしなくなりました。

余裕を持った分の時間は無くなるし、クルマの水温は上がってくるし、焦る気持ちがつのります。何とか気を静めて考えると、直進方向は大渋滞ですが、右折すれば空いていそうな感じです。

「仕方ない、あとはナビ任せで、とにかく抜け道を探そう」と交差点を右折することに。

幸い右折レーンでは待っているクルマもいません。自分は右折レーンの分岐にいましたから、右からくるクルマはいないだろうと、特に注意を払うでもなく、ウインカーを出して進路変更をしようとしました。


そのほんの数秒前。そんなクルマが前にいるとはつゆ知らず、高校生はゼブラゾーン上を走行中。右折レーンに入ろうとした、その瞬間! 左側にいたクルマがウインカーを出し、右折レーンに入ってきたのです! 

何も気にしていなかった所に、突然前をふさがれてはどうしようもありません。ブレーキも間に合わず、クルマの右側を擦り合わせるように接触して、転倒してしまったのです。

両者ともにスピードを出していなかった事が幸いして、高校生のケガは擦り傷と打撲程度の軽傷で済みました。

バイクの方はタンクが凹み、外装が傷だらけになりましたが、走行に支障が無い位の傷。

クルマの方は右ドアからフェンダーにかけて大きな傷ができてしまいました。

 ケーススタディ

タイトル


この事故、バイク側がゼブラゾーンを走っていたことが100%悪い、とドライバーが主張。

ライダーの高校生もその負い目があったため、自分が悪いと思い込んでしまっていたのですが、本当はどちらが悪いのでしょう?


実は判例ではこのケースの場合、過失割合はクルマ側が85%、バイク側が15%となっています。

以前にも書いたことがありますが、ゼブラゾーンは通行禁止と定められているわけではありません。つまり、通常の進路変更時の事故と同じく扱われるのです。

バイク側の前方不注意も鑑みられますが、クルマ側が進路変更する際に、安全確認を怠ったとして、クルマ側の過失が高いのです。


結果として、バイクの損害5万円のうち85%の4万2500円はクルマ側の対物保険から、治療費は全額クルマ側の自賠責保険から補償されることとなりました。

お金のない高校生にとって、自己負担分7500円も痛いですが、最初は全部自分が悪くて、全額自腹だと思っていたので、むしろ有り難く受け入れられました。

もちろん、初心者の彼にとって良い教訓になったことは言うまでもありません。

事故に遭わないために

この事故をバイク側から防ぐには、1にも2にも「かもしれない運転」しかありません。

渋滞しているクルマが突然車線変更をするのはよくあることです。

ですから、車線変更するかも、と思って注意しながら走っていれば防げた事故なのです。


これまで何度も書いてきましたが、この事故に限らず、交通事故を防ぐには「かもしれない運転」が最も有効です。周りの交通環境は自分に都合良く動いてはくれません。

あのクルマはこんな動きをしてくれるだろう、そんな動きはしないだろうという予測に基いた「だろう運転」は、自分の身の安全を他人に委ねることに等しい行為なのです。

周りを過信してはいけません。自立したライダーとして、自分の安全は自分で守るべく、「かもしれない運転」を身につけましょう。

今回の教訓

※交通事故は、それぞれの事故状況によって過失割合が変わります。ここで紹介した例はケーススタディであり、すべての事故に当てはまるものではありません。  

小田切 毅(おだぎり たけし)

損害保険、生命保険合わせ15社を越える保険会社の保険を取り扱う大手総合保険代理店勤務の保険のプロ。保険マンとして、ファイナンシャルプランナーとして多忙な日々を送る。かつては筑波でバイクレースに、四輪はF3やGT選手権にも参戦していた元国際B級ライセンスの腕前。現在の愛車はイタルジェットのドラッグスター。ライトカスタムで愉しんでいるのだが、スーパースポーツを見ると、ムラムラとかつての血が……


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