おやびん道

それぞれの道には、それぞれの風土、気候、環境などを積み重ねた表情がある。それはまた人生にも似ている。道は人生、道の数だけ物語がある。野口おやびんが走って来た幾多の道を、想い出話と共に語ろうか。




第19回・妙義紅葉ライン


群馬県西部に位置する上毛三山のひとつである妙義山。その東側山麓の林間や崖沿いを走る道が妙義紅葉ラインだ。富岡市と下仁田町を結んでいて距離は約15km。片側1車線でタイトコーナーが連続している。かつては有料だったが、その後無料開放された。※上の妙義山周辺の観光マップは富岡市の公式サイトからダウンロードできます。観光マップをクリックすると富岡市の公式サイトにリンクします。

妙義ライン

 R18のときに少し触れたが、群馬には上毛三山と呼ばれる山がある。赤城山、榛名山、そして妙義山だ。その妙義山の麓を走る道が妙義紅葉ラインで、春は新緑が、秋はその名のとおり紅葉が美しい。群馬県にはご当地グッズの『上毛カルタ』というものがあり県内の名所旧跡、偉人などを謳っているが、“も”は『紅葉に映える妙義山』なのである。

 また、妙義山は白雲山、金洞山、金鶏山、と3つの嶺で構成される岩山であり、その山容は男性的で、鋸の刃のようにギザギザした稜線が特徴である。

 奇岩も多く、昔から県内観光名所のひとつで、白雲山の麓にある妙義神社は縁古し。神社の近くに登山道の入り口があり、中腹の『大の字』まで登ることが出来る。俺も小学高学年だったか中学の時だか学校行事で大の字まで登ったことがある。

 で、妙義紅葉ラインだが、かつては2輪4輪の走り屋が訪れたワインディングのひとつだった。‘70年代前半から‘80年代はコーナーを攻めにくるライダーも多かったのだ。

 富岡市街から西方に11〜12km走れば富岡側の入り口に至り、距離的に近かったので16から18の頃、俺は頻繁に走りに行った。当時は有料で数百円徴収されたが、近場にある絶好のワインディングだったし、それだけの価値がある、走り応えのある道だった。


妙義山
妙義山
露出した峻険な岩が妙義山の特徴。かつては走り屋のメッカでもあった。●撮影─楠堂亜希

 一度、下仁田町にいる友達の家に遊びに行くとき、普段ならR254を通っていたのに、そのときはなぜか妙義紅葉ライン経由で出かけた。しかも夜の8時頃だった。バイクはTX500だ。当然周囲は真っ暗で車は一台も通らない。夜でもゲートは開いていたと思うが、料金所はどうだったか、忘れた。ヘッドライトはコーナーの先を照らしてくれないので、速度は控えめに慎重に走った。と、途中でエンジンの様子がおかしい。ガス欠だった。


下仁田
こんにゃくで有名な下仁田駅前。人通りも少なく静かな山間の町。

真っ暗な山中でひとり。燃料コックをリザーブに切り替えようとしたら、すでにリザーブになっていた。それを忘れていたのだ。心細さが募り、どうしよう。

 幸いなことに、もうかなり上のほうまで行っていて、キツい上りはなく、少し進めば下りに差し掛かるところだった。TXを下りになるところまで押し、その後は惰性で下仁田町まで降りて、なんとか友達の家までたどり着いた。その晩は泊まらせてもらい、翌日スタンドでガスを入れて家に帰った。

 18の夏に上京して以降も、帰省とは別に途中妙義紅葉ラインを走って信州方面にツーリングしたことが何度かある。また、取材で赴き、風景をバックに止まり写真を撮ったり走り写真を撮ったことも数回。それは30歳前後から40代半ばくらいまでの時期だったのだが、10代の頃に走ったときより、道自体もコーナーもタイトな感じがした。

 ここ数年の間にも、息子やバイク仲間と数人で2、3回走っている。奥秩父から群馬に抜け、下仁田から妙義紅葉ラインに入り、その後、松井田〜横川。そして碓氷バイパスで軽井沢へ。という往路ルートだった。2年前の5月下旬頃に行ったときは、お天気がよく新緑が眩しいほどきれいで、黒い岩肌とのコントラストが見事だった。

 ただ、タイトコーナーが連続する道自体は、下仁田側の入り口から中之岳神社前の大駐車場までの間や林間区間は少し荒れ気味で、林間区間は路肩に砂が浮いていたりして、注意を要する感じだった。無料解放後、管理が行き届いていないから、そんな状態になっているのだろう。それでも、いづれも平日だったから交通量は少なく、お天気もよかったので楽しく走れた。

 東京から妙義紅葉ラインまでの距離はおおよそ130km。関越自動車道〜上信越自動車道とつないで、松井田妙義出口で降りればすぐそこなので、日帰りでも楽に行って来られる。泊まりで信州方面に行く場合、ちょっと寄り道、という感じで走るのもいい。俺もまた、若葉の頃か紅葉の時期に行ってみたい。



野口眞一

野口眞一
バイクに乗って40年、二輪雑誌の仕事をして30年、の55歳。若い頃からツーリングが好きで日本各地を旅してきた。現在の所有車はトライアンフのサンダーバード(1996年型の水冷並列3気筒)で、13年乗り続けている。

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