関心を寒心に替えてしまった業界感震の「ニコバッカ騒動」の真実・その2
 幼稚園から高校まで一緒だった女の子がいる。ワタクシが通っていた学校は田舎にしてはちょっと特殊で幼稚園から中学校までズズーッとエスカレーター式だった。幼稚園で入学試験があって、小学校でも中学校でもあって、中学から入ってくる生徒はそれなりに優秀だった。


 幼稚園の試験問題でひとつだけ覚えている。人と自転車と車と汽車とツバメと飛行機の絵が描いてある。

「一番速いのはどれですか?」って問題だ。

 ワタクシは迷わず答えたのだった。

「ツバメ、です!」

 ワタクシ、飛行機は馴染みがなかったので、世の中で一番速いのはツバメだと確信していたのだった。

 で、その女の子はミサオちゃんといった。ちなみに、ワタクシもミサオちゃんも3人兄弟の末っ子で、そのお兄ちゃんお姉ちゃんのみんなが同い年の同級生だった。


 高校は隣の市にあって、ワタクシもミサオちゃんも8キロほどある道のりを自転車で通っていた。たまに一緒になったりしたら、コンニャロと競争した。

 ワタクシは野球部員で、朝は牛乳配達やっていて、勉強なんぞやってらんなかった、つーかやる気もなかったし。

 ミサオちゃんはメチャクチャお勉強ができて、理数科クラスだった。

 ワタクシは東京の私立大学になんとか滑り込んだ。

 ミサオちゃんは東京の某有名国立大学に余裕で入った。

 で、やっと前回に続くのだ。ノコギリの謎が解明されるのだ。

 ミサオちゃんは落語が好きだった。

 ワタクシも嫌いじゃなかった。円楽より談志、談志より志ん朝が好きだった。

 某政党で一緒にアルバイトをしてたのだが、終わってメシなんぞ喰ってる時に、落語の一節をやりだすのだった。

 それが“道具屋”だった。

 何度も聞いている内に、ワタクシも覚えちゃったのだ。

 それから約10年を経た1984年の始め。

 2枚の写真を渡され、「何か書け!」と言われた。

 ニコバッカーのフレームのRZ250Rだった。

 見開き2ページあって、何書きゃいいのさ思案橋……。

 そこで思い出したのが、“道具屋”だった。

 ミスター・バイク1984年3月号より全文掲載しよう。

ミスター・バイク1984年3月号

問題の巻頭グラビア記事↑。読みたいですか? ホントですか? 結構長いですよ。後悔しても知りませんよ。では、どうぞ↓

 

*   *   *   *   *
  

 毎度バカバカしいお笑いではございますが、エー……。

「空き地に囲いができたってねェ」

「ヘー」

「空き地に塀ができたってねェ」

「カッコイイ」

まだまだ……。

「カコイの向こうにバイクが……」

「あーるぜっと、くらぁ」

どこにでもボーッとしたヤツってェのはいるもんでしてな、ここにもひとりおりましてな。八兵衛長屋に住んでる与太郎でございます。どーしょーもなくボーッ。

「オイ、与太郎」

「これまた、大家サン、アタイ、お金は持ってないよ」

「何言ってんだい。誰もオメェに金をせびりゃしねェよ。しかし、何だよ。オメェもハタチになったんだから……」

「ハタチじゃないよ、ニジュウだよ、アタイは」

「ニジュウのことをハタチってんだよ」

「じゃ、何ですか、サンジュウはイタチ」

「何をバカなことを言ってんだい。エッ。となりの熊を見てみな。オメェと同い年だってェのに、女房もいりゃ、子供もいる」

「いいよ、アタイはお花をもらうから」

「お花をもらうったって、アリァ、オメェの妹じゃねェか。そんなことをしてみな、世間様に何て言われると思う」

「まるで兄妹みたいで……」

「バカ言ってんじゃないよ。そんなことしてみな、犬畜生と笑われてしまうワー」

「じゃ、何ですかい? アタイのおとっつぁんとおっかさんは、親同士で結婚してますが、あれもやっぱり犬畜生ってんですかい?」

「オメェとハナシしてっと、頭痛くなってくらァ。しかし、何だよ。1日ボーッとしてて、面白いか」

「ヘイ、趣味ですから」

「仕事したらどーなんだい。まァ、オメェにできる仕事ってもなァ……」

「アタイ、仕事には向かないタチですから」

「何を−。ワシがこれだけ親身になってるってのに」

「親でもないのに親身とは、これいかにー!!」

「バカを言ってるバヤイじゃないよ。そーだ、道具屋ってェのがある」

「そりゃ、いい。アタイにもできそうだ。やろ、やろ、すぐ、やろうよ、ルンルン」

「大丈夫かネ。ま、いい。与太郎や、八幡様の参道にな、虎さんが毎日、店を出してる。いいかい。虎にな“八兵衛から聞いてきた”って言やぁ、面倒見てくれるようにしとくから、明日から行きな」

「ヘイ」

てんで、与太郎、次の日、大家サンに持たされた道具一式を持って八幡様へまいります。

「オイ、アンタが虎かい? 八兵衛からハナシは聞いた。アタイのこと、ちゃんと面倒みるんだぞ。分かってんのかい」

「スゴむねェ。テメェが与太郎かい。ま、オイラの横に座って、店出しな」

「店?」

「持ってきたろ? 道具を!!」

「あっ、これ。アタイ、店ごと持ってきたんだ。どうりで重い」

「早く並べな。大きいのはこっち、小物は向こう、そうそう……オイオイ、そっちはおとなりさんの店だよ。オメェの目の前に置くんだよ。そうそう」

ようやく店らしくなりました。参道は、お詣りの人でごった返しております。

「オイ、道具屋」

「オイ、道具屋!!」

「オイ、道具屋、オマエさんのことだよ」

「あっそうか、アタイは今日から道具屋だったんだ。何でェ、客!!」

「エラソーな道具屋だねェ。そこの“ノコ”見せてくんな」

「ノコ? のこにある?」

「そこにあんじゃねェか。ノコだよ、ノコ!!」

「オーイ、ノコやーい」

「ノコギリだよ、ったく!!」
「あー、ノコギリか。人間、義理欠いちゃいけねェ」

「何を言ってやがる。ほー、なかなかいいじゃねェかい」

「こりゃ、掘り出しモンで」

「安くしといておくれよ」

「そりゃもう、どーせ火事場から掘り出してきたもんですから。よーく焼けてます」

「そんなもんいるかい!!」

「オイ、道具屋」

「待てとおとどめなされしわー」

「変な道具屋じゃのォ」

「こりゃ、おさむれーサマ」

「そこの脇差しを見せろ」

「ヘイ」

「ウ〜ム。なかなかのエモノ。ウッ!! 抜けぬ。道具屋、そっちを持て」

「ヘイ、しかし、こりゃ、抜けませんぜ」

「いいから、持て。ウッ!! ヨイショ。抜けぬ」

「ウッ!! 抜けませんねェ」

「ウッ!! 抜けぬ」

「ヘイ、木刀ですから」

「オイ、道具屋!!」

「それは、なんじゃ?」

「お客サン、さすがお目が高い。これは、いいもんでござんすヨ」

「ウン、で、なんじゃ?」

「バイクのフレームでございましてな。そんじょそこらのフレームじゃござんせん。ヤマハRZ250R用の超軽合金角形アルミニュウムフレームでさァ。なにしろ軽い。11.3kg。それに強い」

「その分、高いんだろ?」

「ヘヘヘッ、これが、58万円」

「高いのォ」

「そんなことはありませんよ。ニコバッカーと言やぁ、世界GPでも使われてるくらいで」

「オレはレースはやらん」

「いやいや、今、認定作業中でござんして、合法的にニッポンでも公道で走れるようになりそうなんです。買っとかないと、損しますぜ、ダンナ」

「ウ〜ム、しかし、いささか高い」

「なにしろ、アタイんとこと、あとは“スポーツショップ●●●●”と“ライダース●●●”でしか売ってない代物」

「あいや、わかった。それでは、1個、買うといたそう」

「ところが、ダンナ、こいつぁ、1個じゃ売れねェ」

「ウ〜ン?」

「2個ばっか、買ってくんねェ」

と、ゆーワケで、上の写真は新型RZではなかったのでした。残念ねー。アルミフレームの他、ニコバッカーの製品がいっぱい輸入されている(輸入元は●●●レーシング)。FRPダブルシート、フルカウル。PVMマグホイール、Fフォークスタビライザー、エキゾーストパイプ等。もちろん、1個だけでも売ってくれる。ペケペンペン。

*   *   *   *   *
 
若祥司

「時として若さは糖尿に然も似たり。己に甘い。(安倍川餅太郎伯爵)」そう、「安倍川餅も甘かった」という若祥司の名言。このナゾもいずれこのコーナーで明かされよう。

以上!

小宮山編集長(当時)、本当にスミマセンでした!

結構ヒドイですね。恥ずかしい。

「二度とこの手は使えませんね」

と、念を押された。

なのに、また使っちゃったワケね。

ところで、ミサオちゃんだが、大学を卒業してすぐにT大出の研究者と結婚した。すぐに子供が出来た。幸せだと思う。

ミサオちゃんだけに、操を立ててるのだね。お後が宜しいようで……。ペケペンペン!



東京エディターズ代表取締役社長兼
WEB Mr. Bike代表
『中尾祥司拝。』

ミスター・バイク誌の創刊からのメンバー(あん時ゃ下働きだったけど)。当初はフリーライターとしての契約だったが、「アイツの一ヶ月のギャラ、高いんじゃないか? 社員にしちまえ!」とゆー、今は亡きボス渡辺の天の声で目出度く正社員に。ちなみに給料は5万円弱だった(あん時ゃツラかった)。それ以前は、某政党の運動員(あん時ゃパクられそーになった)、シロアリ退治業者(あん時ゃ、「奥さん、ホラいましたよ」と用意してたシロアリを見せるよーな汚いマネはしなかった)、新宿ゴールデン街の某バーでバーテンダー(あん時ゃ呑めた、今は下戸……なんでやろ?)、そして「サイナラサイナラ」の淀川長治さんの映画の本を作る手伝いをして編集と関わる(あん時ゃ、「私は嫌いな人に会ったことがない」無垢な青年だった)。とゆーわけで、あん時ゃあーだった、こーだったとゆーハナシをしよう。あ、顔写真で、なんでマスクをかぶっているのかとゆー真相もおいおいに、ね。


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