第66回『“バイク生活”への幻想』
国内の自動車メーカー14社によって構成されている日本自動車工業会(一般社団法人)から、2016年3月の四輪、二輪の自動車生産実績が発表された。
その中から二輪車の数字に注目。今年3月の二輪車生産台数は58,222台で、前年同月の50,266台に比べ7,956台、15.8%の増加となり、2ヵ月連続で前年同月を上回ったという。ちなみに四輪も前年同月1.2%増で、4ヵ月ぶりのプラスだった。
2016年3月の二輪の車種別生産台数と前年同月比の数値は次のとおり。
原付第一種:11,528台で、4,689台、68.6%の増加。
原付第二種: 2,769台で、644台、30.3%の増加。
軽二輪車: 4,849台で、314台、6.1%の減少。
小型二輪車:39,076台で、2,937台、8.1%の増加。
軽二輪を除けば、各クラス、特に原付一種、二種での増加ぶりが目に入ってくる。
ただこれを、国内需要(出荷)のみで見ると、総数は40,342台で、前年同月比0.4%の減少となった(うち原付第一種が20,709台で前年同月比11.8%の減少、原付第二種が11,260台で同28.2%の増加、軽二輪車が4,088台で同3.9%の減少、小型二輪車が4,285台で同7.4%の増加)という。輸出は前年同月比14.4%の増加(実績)。
また、これにより2015年度(2015年4月~2016年3月)一年間での生産総台数は537,988台で、前年度の576,231台に比べ38,243台、6.6%の減少となり、2年連続で前年度を下回ったという。
2015年度、1年間を通しての車種別生産台数と前年度比は次のとおり。
原付第一種: 78,533台で、4,090台、5.5%の増加。
原付第二種: 31,263台で、128台、0.4%の減少。
軽二輪車: 76,151台で、12,423台、14.0%の減少。
小型二輪車:352,041台で、29,782台、7.8%の減少。
2015年度の国内需要(出荷)は364,589台で、前年度の391,128台に比べ6.8%の減少となり、こちらも2年連続で前年度を下回った(うち原付第一種が179,992台で前年度比16.2%の減少、原付第二種が101,001台で同9.7%の増加、軽二輪車が48,397台で同1.5%の増加、小型二輪車が35,199台で同4.0%の減少)。2015年度の輸出は前年度比8.5%の減少だった(実績)。
以上の数値を各クラスの動向として見ると、
■車種別二輪車生産台数(3月)
台数(台) 前年同月比(%) 前年同月比動向
原付第一種: 11,528 168.6 2015年12月以降、4カ月連続のプラス
原付第二種: 2,769 130.3 2016年1月以来、2カ月ぶりのプラス
軽二輪車: 4,849 93.9 2016年1月以来、2カ月ぶりのマイナス
小型二輪車: 39,076 108.1 2016年2月以降、2カ月連続のプラス
合計: 58,222 115.8 2016年2月以降、2カ月連続のプラス
■2015年度(4~3月)
台数(台) 前年度比(%) 前年度比動向
原付第一種: 78,533 105.5 2011年度以来 4年ぶりのプラス
原付第二種: 31,263 99.6 2013年度以来 2年ぶりのマイナス
軽二輪車: 76,151 86.0 2014年度以降 2年連続のマイナス
小型二輪車: 352,041 92.2 2014年度以降 2年連続のマイナス
合計: 537,988 93.4 2014年度以降 2年連続のマイナス
以上、3月単月の数値には若干の希望が感じられるものの、年度を通しては変わらず長期凋落傾向が止まらないといったところ。一体どこまで減少していくのでしょうか。
若者の二輪車離れが喧伝されて久しいですが、若者に限らず、まっとうなコンプライアンス感覚をお持ちの方なら、現在の二輪車の環境は決して魅力のあるものとして映ってはいないことでしょう。特に都市部に住む人間にとって、二輪車を保有するということはどんなことなのでしょうか。
まず、最初のハードル。ご自分の住む住居に二輪車の駐車スペースはありますか。駐輪場はあっても、二輪車を置くスペースなど端から考えられていないことがほとんどでしょう。運よく駐車スペースを確保できたとしても、では、どんな二輪車の使い方が考えられるのでしょうか? ステレオタイプで言われるのが「休日にツーリング」ですね。今や行政の考えるライダー像など、それしか考えられていないのは明白です。
かつて、多くのライダーがバイクを使う理由としていた「ちょっとそこまで」、「知人の家まで」、「買い物に」などは、想定外になってしまったようです。以前なら、それこそ思い立ったら即出かける、この気軽さ、フットワークの良さこそが二輪車の本領発揮だったはず。
でも現在は、そんな“無謀”なことはできません。まずはネットなりで駐車場の存在を確認することから始めなければならない状況です。しかも実際に調べたことがある方ならよ~くお分かりの通り、希望の場所に二輪車の駐車場があることなどまずありえません。幸運にも二輪車の駐車場が目的地の近くにあっても、駐車可能台数は一桁、良くても10数台程度。空いているかどうかまではわかりません。ここで“賭け”をするかどうか迫られるわけですね。
行政がもっともらしい言い訳とする、二輪車駐車場の設置ですが、ほとんどが公共の交通機関が利用できるような駅のそばだったり、二輪に理解のあるスーパーさんや私企業さんが設置してくれた有料駐車場くらい。普通の住宅地などでは絶望的、二輪車の駐車場など、影も形も存在しません。そんなところでも駐車監視員の皆さまは、お仕事ですからしっかり巡回してきます。今やどんな住宅街の裏道でも“二輪を除く”などという昔懐かしい駐車禁止の除外指定プレートにお目にかかることはありません。
この出かける前の“一連の儀式”が結構なハードルでしょう。なんで二輪車に乗って出かけるというだけで、こんな余計な作業、そして賭け、を迫られなければならないのでしょうか。そんなハードルを乗り越えるだけの魅力が二輪車にはなければいけないのです。二輪車の駐車違反取り締まり強化の格好な口実を作った迷惑駐車常習の皆さんなど、すでにバイクなどとっくに降りているというのにです。
そして次なる“逆風”は、二輪車に乗らない人間から見たバイク乗りのイメージでしょうか。クルマも運転する機会がある方なら感じていることでしょう。あの無謀なまでのスピードでのすり抜けは人間性を疑いますね。渋滞時は路肩側を通らせてもらうこともある人間として、大きなことは言えませんが、そんな時でも、これはあくまでイレギュラーで通らせてもらっているという意識、相応のスピードというものがあるはず。ましてやイエローラインレーンや、センターラインをはみ出してまで車列の先頭に出る行為は、違反云々以前、人間としてどうなのよ、です。これが二輪に乗る人種のレベルなどと思われていると考えたことはありませんか。
せこさ丸出し。自制心皆無。同じ目で見られていると思うと、二輪車の魅力はまたまたゆらぎます。かつて二輪車ライダーを顰蹙の目で見させるように蠢いていた“族”とやらの方々も戻ってきていて、またまた新たな規制強化に貢献しようとしているというのですから、何をかいわんやです。これも二輪車のネガティブイメージです。
生活に使えなくなってしまったバイク。バイクは休日にツーリング、も結構ですが今の二輪車の存在を、ライダー以外の人間がどう見ているか、たまには考えてみませんか。
業界の方々も、二輪車の復活を図りたいのなら「Nicest People on a Honda」の逸話ではないですが、地に落ちた我が国の二輪車乗りのイメージを回復することから始めないと意味はないのではありませんか。たとえ現状の取り組みで台数的な実績が得られたとしても、です。
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さて、久々に“困ったちゃん”たちの諸行無常をご報告。
まずは、昨年の12月に金沢の北陸自動車道で富山県警の覆面パトカーが横転した事故の“その後”から。この事故をきっかけに後続車両など計5台が絡んだ大事故となってしまったのは、かつてお伝えした通り。事故は速度違反車両を追跡中の覆面パトカーのドライバーがあろうことかハンドル操作を誤り、ガードレールに衝突、横転。このパトカーを避けようとした乗用車が保冷車に追突。その保冷車が、覆面パトカーから降りて交通整理をしようとしていた巡査長をはねるなど、次々と連鎖してしまった事故でした。で、事故が起きたのは石川県警の管轄内で、石川県警が「安全運転義務違反容」疑いで運転していた富山県警の巡査長を書類送検。パトカーを避けようとした乗用車のドライバーも「自動車運転処罰法違反(過失傷害容疑)」でこちらも書類送検されたという。覆面パトカーのドライバーといえば、サーキットでの訓練も積むなど高速運転のプロ中のプロと思っていましたが…。とんだトバッチリもあるもんです。
奈良県警の警察官はひき逃げ容疑。4月26日、奈良県警の警察官が乗用車を運転中、二人乗りのバイクに接触。後部座席の同乗者に軽傷を負わせたにもかかわらず、そのまま逃げたというもの。「自動車運転処罰法違反(過失傷害)」と「道交法違反(ひき逃げ)」の疑いで捜査中につき、詳細は発表できず、ですって。一般のひき逃げ事故なら有無を言わさずとっとと容疑者等、詳細を公表するのとは大違い。ほとぼりが冷めたころにこそっと公表するのでしょうか。言われぬ疑いを掛けられないためにも速やかに情報公開を。
4月28日には、山梨県警の“マル暴”担当の巡査部長が飲酒運転。「道交法違反(酒気帯び)」容疑で現行犯逮捕された。“同僚”(ってことは同じ警察官?)数人と県警本部近くの飲食店で酒を飲んだ後に、車で帰宅途中、道路沿いのフェンスや電柱に衝突事故を起こしたもの。110番通報され発覚。飲食店での同席者にも事情を聴取中とか。3月末の移動で組織犯罪対策課に異動した“マル暴”部署での祝いの席だったのでしょうか。
さてラストは、これほどあきれた警察官の不祥事はないと言えるレベルのニュース。それは、兵庫県警の巡査長が「捜査が面倒だったから」などというとんでもない身勝手な理由で、担当したひき逃げ事件で、虚偽の内容の書類を勝手に作って事故の処理を放置していたというもの。
この兵庫県警の巡査長は、昨年の9月に姫路市内で起きた歩行者ひき逃げ事件を担当。実際には逃走車両の車種とナンバーの目撃情報によって1台の容疑車両にたどり着けたのに「該当車両は43台」などという全くでたらめな書類を作成して提出。そのために捜査が遅れてしまったというもの。被害者自らがたまたま逃走した車両と思われるのと同じ車両を発見し、警察の捜査への疑問、苦情を申し立てたことから“事件”が発覚したという。被害者の偶然の発見が無ければ、巡査の職務忌避で事件そのものがうやむやになっていた可能性が無きにしも非ず。ちなみにこの巡査長、自分が担当した昨年5月から9月までの計8件の交通事故でも処理を放置していたという。
こんな警察官がいて日本は大丈夫なのでしょうか。
(小宮山幸雄)
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