バイクの英語

第49回 「A Rip off (リップ オフ)」

 メイド イン ジャパン に惹かれてしまう今日この頃だったのですが。

 少し前まで、といっても10~20年ぐらい前まででしょうか、Made in USAなんていうタグに憧れていたこともありました。古着やアメカジなどファッションの流行り廃り的にもそんな「アメリカもの」にブランドイメージを感じていたのかもしれません。
 時が経って、Made in USAに対してブランド感覚が薄れてきたのは、日本にも優秀なジーンズメーカーがあることを知ったりしたことと、年齢を重ねると共に変に欧米に憧れることがカッコ良く思えないようになったからかもしれません。

 バイクも似たようなところがありますね。実用車や小排気量なら国産で良いのですが、憧れるメーカーといえばドゥカティであったりハーレーであったりトライアンフであったり。かつての「エンスー」達は、辿り着くところ欧州車(ハーレーはアメリカですが)だったような気がして、20年ぐらい前まではそういったブランドが頂点に位置していたような気がします。

 ところがこちらも日本車の、しかも大型バイクの超高性能化と高級化によってそういった意識は薄れてきたでしょう。GSX-R1000の登場は、最終的に頂点に位置する憧れのブランドではないにせよ、近代スポーツモデルの指標として世界中のライダーが一目を置くブランドになったはずです。ライダーの世代によってはそれがYZF-R1かもしれませんしCBR900RRかもしれませんし、さらにはVFR750Rや、さらにさらにはCB750Fourかもしれませんが、現在まで続く超スポーツモデルという意味ではGSX-R1000というのは偉大ではないかと、筆者は認識しています。こういった1000ccクラスが盛んになった頃にアグスタが復帰したりしましたが、格好は良いものの国産車のあまりの性能にその存在がちょっとぼやけたというのは否めません。

 この世界でさらに突き抜けたのは、現行型のYZF-R1ではないかと思っています。いかにGSX-Rが素晴らしいバイクでも、サーキット走行会などで隣にドゥカティのパニガーレなどが来てしまうとどうしてもそちらに目が行ってしまっていました。しかし今のR1はなんだか凄みがありますね。パニガーレやKTM RC8といった華のある欧州車と並んでも、そこにたたずむ存在感的に全く引けを取らないどころかむしろ独特の魅力というか、妖気のようなものを放っています。GSX-Rが欧州車からむしりとった絶対的性能に加えて、新型R1は存在感やプレミアム感、エンスーをも唸らせる説得力を手に入れたと思います。RC213V-Sもそうかもしれませんが、珍しすぎてちょっと……。CBR1000RR-SPも一目置かれる存在と言えるかもしれません。

 このように、世の中の製品は世の中の流れやハヤリ、魅力的な新製品の登場によって、その製品が作られた場所や国のイメージを乗り越えて、消費者によってカッコの良し悪しが判断されていくのでしょう。

 世界的な動きですが、自国で作られた商品を大切にしましょうよ、というムーブメントが盛んです。日本の自動車・バイク産業のように輸出メインの場合は厳しい流れですが、日本においてもそういった動きが見られますね。テレビ番組でもいかに日本製の商品が優れているかや日本の技術が優れているかを紹介するものが増えているような気がします。

 そんなトレンドが起きる前から、筆者は地産地消の考えからなるべく国産品を購入するようにしてきました。カワサキの650ccパラツインシリーズの中で、かつてニンジャ650及びER6Nがタイで作られていて、ヴェルシスだけが国産だったことがあります。ヴェルシスが好きだったこともありますが、国産であるということも他の2台ではなくヴェルシスに惹かれた理由ですね。ある二輪ジャーナリストの方に「どこで作っていたってカワサキの印がついてるんなら品質は同じ!」と一喝されてしまいましたが、そういうことではないのですよ。品質はぜんぜん心配していません。ただ同じ高いお金を払うのなら、タイのみなさんではなく神戸のラインで働いているおばちゃんたち(?)に払いたいな、という気持ちだったのです。
 結局ヴェルシスを購入することはなかったですが、国内の産業を活性化させたい、国内の雇用をサポートしたい、という想いは今もあります。自分も国内で働いているわけですから、国内で生産されているものを購入するということは、お互いさまで助け合っているのではないか、と思っていたわけです。

 ところが、近年は国産であることをやたらと押し付ける風潮も見られるように思います。例えばちょっとした文房具や日用品に、デカデカと「日本製」と書いてあったりしませんか? しかもかつてこんなに大きく書いてあったかな?と首をかしげたくなるほどのサイズで。筆者のような国産品をサポートしたい人が増えているということなのかもしれませんが、それにしてもちょっとやりすぎな印象をうけます。

 それはまあ良しとしても、問題はその先です。購入してみたら酷い製品だったりするからガッカリなのです。日本製=高品質。日本製=誠実で良い商品。というイメージを筆者は持っているのですが、最近は必ずしもそうではないと感じる場面が増えてきています。細かいことですが、最近購入した荷造り紐。リサイクルの日に雑誌などを束ねていると頼りなくほどけてきちゃうのです。パッケージを見るとやはり、大きく「日本製」と書いてあり、しかもその文字を枠で囲っています。その文字を見て、なんとなく安心感があったり、もしくは国産品を応援したいという気持ちで購入したものだと思いますが、品質は、申し訳ないですが決して高くありませんでした。今どき100円ショップの品質もかなり高くなってきていることを思うと、これには残念な気持ちになりました。

 かつてはMade in Japanも安くて低品質という時期があったわけです。戦後すぐのころは欧米諸国に安くてチャチな製品をたくさん輸出していたといいます。それにアグラをかいていたのが欧米ですね。Made in Japanはどんどん品質が良くなり、わかりやすい所ではバイクの分野で、欧米を凌駕してしまいます。そんな時に「いやいや、こっちが本場さ! やっぱりMade in Englandだぜ」と言ったって市場はどちらが本当に優れた商品かをちゃんと見ています。かつて繁栄を極めた英車たちは瞬く間に日本車にとってかわられてしまっただけでなく、Made in Englandのネームバリューも、少なくともバイクに関してはMade in Japanにとってかわられてしまったわけです。

 今後バイクにおいては国産車が他の追従を許すことはまずないでしょうけれど、今回筆者がたまたま購入した国産荷造り紐について言えば、もはや「国産である」ことだけでは消費者を納得させることはできない状況に感じました。これだったら100円ショップのMade in Chinaの方が良さそうです。
 他にもアジア諸国に追いつかれそう、もしくはベーシックなものについてはすでに追いつかれている技術もあることでしょう。かつての英車メーカーのように「なに言ってるんだ、信頼と高品質の日本製だぞ」などとアグラをかいていてはまずそうです。

 ここで今月の英語です。Rip off とは、ぼったくられる、といった意味合いですね。発音はリップ・オフ。破り取る、と直訳できますが、言い回しとしてはぼったくられた、騙された、もしくは詐欺にあった、といった感じで使います。いずれにせよ主に実価値以上にお金をとられたり、説明されたこと以下の結果しか得られなかったような場面です。

 フルコースの夕食を食べに行ったのに、量は少ないしワインはマズいし、デザートはヨーグルトだった、なんていうのもRip offですし、「新型ゼファー登場! 全貌は巻頭特集にて!」と表紙に書いてあるバイク雑誌を買ってみたら、わずか2ページで不確かな情報を曖昧に書いてあるだけだったというのもRip offです。1リッター入っていると思って買った牛乳が900mlしか入ってなかったのも、本当の意味ではどこかに900mlと書いてあるわけなのでRip offではないはずなのですが、そのパッケージングにどこか1リッター入っているように見せかける意図があると、やはりそれはRip offでしょう。
 さらに細かく言えば、保険などで支払いに関して小さな字で例外をたくさん書き連ねているのもRip off感は否めませんし、バイクの高速道路料金が軽自動車と同じというのもRip offな感じがします。
 おおよそRip offのフィーリングは掴んでいただけましたでしょうか。……あの荷造り紐、Rip offな感じがするのですよ。「ほら、安心の日本製ですよ! どうぞ買ってください」という印象を与えといて、使ってみたら「何を期待してるんですか。ただの荷造り紐に」と言われたような気分です。

 語源ははっきりしませんが、アメリカの南北戦争で兵隊がつけていた階級のパッチを上官が破り取ったことに由来するという説があります。兵隊が出世して階級が上がっても、上官が「俺はそんなことは認めない! 現場では俺が法律だ!」という意味でその階級パッチを破り取ったとか。以来、命がけで勝ち取った階級をむしり取られ、功績が認められない理不尽な状況を指す言葉へとなったと言われます。

 バイクの部品でも同じように感じることはありますね。大陸から入ってくる様々な部品の品質が年々向上している中、国産品だから大丈夫、国内ブランドだから大丈夫、と思って購入したものが、「えっ? 国産だと思って安心して買ったのに、こんなもんなの??」なんていうことが増えてきたように思います。多少高くても絶対間違いない品質やアフターサービスがあると信じて購入しているのに、それが得られない場合、たまらないRip off感を受けることになります。こんなことだったら安い大陸系のものを買った方がまだあきらめがついたよ、なんて思っちゃっている自分に気づくと、悲しくなりますね。

 この言葉、どのように使ったらいいのでしょうか。バイク駐輪場の料金が妙に高かった場合や、450円もしたソフトクリームがたいしたことなかった時などが良いかもしれません。「えー? そりゃあRip offだよ~!」 とね。

筆者:ミルキー・クエル

 生まれも育ちも千葉県鴨川市。愛車はGPZ900だが、サーキットではGSX-RRを走らせる。最近Rip offだと感じているのはインターネット料金を安くしますよと言う電話勧誘。「安くしてくれるんなら勝手に安くしといてくれ。わざわざ電話をかけてくるってことは、こちらの貴重な時間や個人情報が欲しいということでしょう? それと引き換えにわずかな割引をちらつかせるなんて、それこそRip offだ!」


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