おやびん道

それぞれの道には、それぞれの風土、気候、環境などを積み重ねた表情がある。それはまた人生にも似ている。道は人生、道の数だけ物語がある。野口おやびんが走って来た幾多の道を、想い出話と共に語ろうか。


第20回・榛名山麓の道


前回の妙義山に続き、今回の榛名山も群馬県の上毛三山のひとつ。渋川市の西方10数kmに位置する。山麓にある伊香保温泉が有名で水沢うどんも名物だ。山麓四方から榛名湖に至る県道が通っていて、登り切ると湖越しに円錐形の美しい山容の榛名富士が望める。

 
※榛名山周辺の観光情報とマップは榛名観光協会公式サイトで。
榛名山麓の道

 以前書いたR18の碓氷峠、前回の妙義山。ともに4輪の走り屋を描いた某大ヒットマンガに実名で登場した道だ。今回の榛名山は、そのマンガでは実名ではなく秋名山という名で主な舞台になった。俺はそのマンガを愛読していたわけではないが息子が好きで、テレビ放映されたときは一緒に見たりした。

 自分の郷里の山で、しかも若い時に走った道が登場するから、親近感があり、フムフムってな感じで見ていたのだ。バイクの走り屋が主人公ならもっと気合いを入れてみただろうし、間違い探しもしたかもしれない。

 榛名山は県庁所在地の前橋市や高崎市からも西または北西に20〜30kmほどの距離にあり、俺の生まれ育った富岡市からも30kmほどで、コーナーが連続する面白い道が数本あって、バイクでひとっ走りするのにおあつらえ向きだった。TX500を買って碓氷峠や妙義山を走っていた俺は、ほかの山道も走りたくなって、ごく自然に時々は榛名山にも走りに行くようになった。

 ’73年春から’74年の夏頃までの間で、17〜18の時だ。山麓から榛名湖までのルートはいくつかあったが、最初に登ったのは渋川からの県道33号線だったと思う。富岡からR18で高崎に出て、そこからR17を北上して渋川まで。当時は今ほど道を知らなかったので大きな国道をつないだほうがわかりやすく安心だったからだ。伊香保温泉を過ぎて、森林を抜け、登り切ると緩い下りの長い直線があり、周囲は草原で、風景が一変する。

伊香保温泉 伊香保温泉

伊香保温泉
榛名山周辺に温泉は多数。中でも著名な大温泉地が伊香保温泉。●撮影─元 船上カメラマンT 写真提供─毛野ブースカ

 前橋〜渋川間から県道15号線に入り、山麓を途中まで登ってから県道33号線で榛名湖まで、というルートで登ったこともある。

 15号線の途中には水沢観音があり、水沢うどんの店も多く、昼食を摂ったことも。帰路は県道28号線で高崎に下ることが多かったように思う。いずれの県道もタイトコーナーが多くコーナリングを楽しむことができた。交通量も観光シーズンや日曜を除けば、昔はそれほど多くなかった気がする。

水沢うどん 榛名山
形が美しく特徴的なのが榛名山。●撮影─吉岡昌義 稲庭うどん、讃岐うどんと共に日本三大うどんの水沢うどん。●撮影─吉岡昌義

 というわけで、妙義山や碓氷峠に比べれば頻度は低かったが、榛名山のワインディングも楽しんだ。すべてひとりだった。

 時は過ぎ、30代、40代になってから、仕事で(試乗/撮影で)榛名山に行くこともあった。10代の時とは異なる山の南西の倉渕村から県道33号線を登ったりした。10年くらい前だったか、あるバイク仲間に、西麓の道が素晴らしい、と教えられてからは、その道も利用した。その道=県道28号線の西側はほかの道とは様子が異なり、Rの大きいコーナーが続く高速ワインディングで、大型の高性能車にうってつけ。しかも上りは2車線区間も結構あってカッ飛べる。

 7、8年前、3台のトライアンフで信州ツーリングに出かけたときは、倉渕村から33号線を上り、湖畔で昼食後28号線を下った。その後、W1クラブの人達のツーリングに誘われて、久しぶりに渋川から伊香保経由で湖畔まで行き、帰りは28号を下って高崎へ。 直近でいくと、2年前の新緑の頃、息子と知り合いのバイク乗りと3人でツーリングしたとき(前回の妙義山経由で碓氷峠〜軽井沢へ行ったとき)、帰路に西麓の28号線を上って湖畔まで走り、帰路は33を下った。ほかにも山の西麓をぐるっと回るように通っている広域農道(路肩に砂が浮いていたりするので要注意)があり、何度か走っている。

 トータルすると上毛三山のなかで一番多く走っているかもしれない。榛名山の山麓道はルートが多く、いろんな組み合わせができるのもいい。それに榛名湖畔もグルッと1周できるし、榛名富士はロープウエイで登って展望を楽しめる。妙義山同様に春は新緑、秋は紅葉が美しく、夏は湖でボート遊びもいい。冬は、昔は湖面が凍結してスケートが出来たと思うが、今や温暖化で無理かな…。

 東京から百数十kmで、高速を使えばより近い榛名山。また出かけてみよう。



野口眞一

野口眞一
バイクに乗って40年、二輪雑誌の仕事をして30年、の55歳。若い頃からツーリングが好きで日本各地を旅してきた。現在の所有車はトライアンフのサンダーバード(1996年型の水冷並列3気筒)で、13年乗り続けている。

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