観客席で見るサーキットのレースと違ってとにかく近い。その臨場感は半端なものではない。これは観戦場所によっては見る方もある意味、命懸けと言えるかもしれない。
次から次へと目の前をマシンが走り過ぎていく。
ホームストレートを全開で駆け抜けるのは別にマン島TTに限った話ではない。
モトGPなどのサーキットレースでも当たり前の光景である。だがこれほど幅の狭いコースで走るマシンをこの距離感で見るのはまさに圧巻。なのにこれがなかなかに伝えづらい。
なんとか捉えた画像など確認してみると普通に民家などが背景にあるため街中を暴走車両が走っているようにしか見えない。
それにしても彼らは本当にこのコースをまわって戻ってきているのか。そしてこの先、あと3周も走るのか。余りにも現実離れした目の前の状況にオレは圧倒されていた。観客の熱狂ぶりも凄まじい。
目の前を通り過ぎるマシンのどれがどの選手なのか、どれが先頭で最後尾はどのマシンなのかまったくわからない。いや、今となってはどうでもいい。
映画で見たガイ・マーチンは凄まじく面白いやつだった。
だが彼だけではない。ここで走っている奴らは皆、同じだ。人として何かがぶっ壊れていて、そして何かが飛び抜けている。無邪気さと危うさが混同する彼らの姿は恐ろしいほどに魅力的だ。見ていてゾクゾクする。そんな奴らが走る様を時折、カメラのシャッターを切りながら目で追いかける。気が付けばレースは終了していた。
スーパースポーツクラスは本命であるマイケル・ダンロップの優勝で幕を閉じた。
ガイ・マーチンはどうやらこのクラスにエントリーしていなかったようだ。
この後、引き続きサイドカーレースの予選が始まる。さてどうするか。やはりできれば違う場所で見てみたい。それほど迷っている時間はない。オレは最終コーナーへ行くことにした。
最終コーナーへは坂になっている海側の道を下ってまた上って行くようになる。
この坂の勾配が結構キツイ。かなり大回りするため距離も1キロ以上ある。だが問題ない。
体力には定評のあるオレである。いかに勾配がキツくとも1キロ程度のウォークで息を切らせたりはしない。
最終コーナーに着いてみると意外なほど人の数は少なかった。丁度、コースを確認するマーシャルのマシンが目の前を通りすぎた。あのマシンがゴール地点に着きOKのサインを出したら即出走だ。それでもここにマシンが姿を現すのはもう少し後になる。
最終コーナーといってもゴール地点からはかなり離れている。なんせ一周60キロのコースですから。そのためここではスタートしたかどうかはまったくわからない。
実はオレはサイドカーのレースを生で観るのは初めてである。600ccの4気筒でスーパースポーツクラスのマシンとエンジンスペックは同じ。しかし二人乗車の上に車体が重いのでトップスピートは劣る。そのかわりコーナリングスピードが速いのでラップタイムは思っているほどは変わらないと聞く。果たして面白いのか。30分ほど待っただろうか。
マシンのエキゾーストが聞こえてきた。軽く登り勾配のあるコーナーをまず一台がとんでもない速さで曲がっていく。矢継ぎ早に2台目、3台目と。これは・・・結構、面白い。
確かにあのコーナリングスピードはバイクでは在り得ない。しかもパッセンジャーの動きが同じコーナーでありながらマシンごとに違っていたりもする。軽くドリフトみたいにもなってるし。