MBHCC C-2
添乗員ヨッティのバイクツアー裏レポート 最終回「赤い地平線の向こう側。ヨッティ、初めての海外ツーリングinオーストラリア」の巻


 時代は1990年代前半。やっと入った大学は、いろいろ訳があってわずか1年で中退してしまった。他にチャレンジしたいことがあったのだが、なんだか上手くいかず、いつまでたってもプー太郎。バブル崩壊の頃ではあったが、同級生たちはバイクで遊びながらでも一流企業にどんどん就職していく。自分はいったい何をしているのだろう?自分で自分が嫌になってきた。

 この情けなさをぶっ飛ばすためには、何かでっかいことがしたかった。その頃、寺崎勉氏や賀曽利さん、故・戸井十月氏のバイクで世界を走る本を読みまくっていた。そーだ!僕もバイクで世界を走ろう!場所はどこでもよかった。「100kmや200kmではなく、1000km以上の、頭を狂わすほどのダートロード」というやつを、「毎日毎日、同じ風景の中、地平線を目指す」というやつを。とにかく、地平線を目指して走りたかった。

 調べていくうちに、海外ツーリングとはスポンサーがつくような特別な人がするものではなく、バイト代を貯めれば誰でもできそうということが分かった。道祖神という旅行会社が海外ツーリングのパッケージツアーを企画していることも知った。さらに、ツアーではなくバイクと飛行機のチケットだけ手配してくれるプランもあった。「目指せ!エアーズロック」という当時一番の人気コースを発見。これなら今の自分にぴったりだ。島根の松江から東京・五反田の道祖神オフィスに旅行相談に行き、その場で申し込んだ。



22歳の私
22歳の私。

 ブリスベンの空港に着くと、プロレスラーみたいなオージーのスタッフがガレージまで送迎してくれ、バイクと地図を渡され「行ってらっしゃい」という形で、あれよあれよという間にツーリングがスタートした。とにかく西を目指す。町が牧場地帯になり、次第に荒野となってくる。2車線あった舗装路は1車線道路となり、やがてダートロードとなる。
「キター━(゚∀゚)━!」と心の中で叫んでいた。これだ、この感じ。これがしたかったんだ。



貸出のバイクはセローでした
貸出のバイクはセローでした。

 でも、有頂天な日々は長く続かなかった。見渡す限り何もない、360度地平線に囲まれた荒野の中でキャンプしていたとき、強烈な雷雨に襲われた。砂漠の中に立てたテントとバイクはいつ雷に当たっても不思議ではない。バイクを倒し、テントもたたみ、少しでも高さを低くして、豪雨の中、地面に伏せていた。ひょっとしたら自分はここで死んでしまうのかも?そんなことも考えたけど、風景は美しかった。地平線の上を電光石火が360度、駆けまわっている。まさに神秘的な風景。地球にはまだまだ知らない風景があるな、と落ち着いて考えた。



ときどき道標がある
ときどき道標がある。

 朝が来た。なんとか生きて朝を迎えたと思ったら、今度はバイクが動かなかった。粘土質の赤土がタイヤに絡みつき、土がフェンダーとの間に詰まってタイヤがロックして転倒してしまう。手で泥を掻き出して進むけど、またすぐに泥が詰まってしまう。地面が乾いて固くなるのを待つしかなかった。やっと進んだと思ったら、今度は川渡りの連続。小さな川だと楽しいけど、やがて水深が1m以上ありそうな大きな川が出現。さすがに渡れない。川上や川下も探してみたけど、やっぱり渡れない。どうすることもできないので、テントを張って寝るしかなかった。翌日の午後、なんとか渡れるかな?というくらいまで水が減ってきた。荷物をすべてバイクから外し、頭の上に乗せて物資を運び、次にバイクをなんとか対岸へ進めることができた。何日かぶりに、ウッドダナッタロードハウスに着いたときは嬉しかった。何日間も人間に会わなかったのは初めての体験だった。エアーズロックに着いたときよりも達成感があった。自分の走ってきた道は「ROAD CLOSED」と看板で塞がれていた。



とロードハウスは砂漠のオアシス
ロードハウスは砂漠のオアシス。

 夜、トイレのためにテントの外に出た。地平線から光の柱が伸びている。それはそのまま天空まで続き、反対側の地平線に再びズドンっと突き刺さっていた。強烈な天の川。自分は今、宇宙にいるのではないか?そんな星空。星座は見覚えのないものばかりだった。今、自分は日本ではなく、遠い南半球の国にいるんだ、と思うとドキドキした。

 この、わずか3週間ほどの体験は自分にとって衝撃だった。この旅が終わったら真面目に働こうと思っていたけど、帰りの飛行機の中では「まだまだ世界を走りたい。そうだ、世界一周だってできるかもしれない」と興奮していた。22歳の秋だった。まだ道祖神に入社することになるとは夢にも思っていない頃。



とこの風景が見たかった
この風景が見たかった。

 この度、一身上の都合で道祖神を退社することになりました。長い間、ご愛読いただき、ありがとうございました。「ヨッティの添乗レポート」はこれで最終回となりますが、今後も道祖神は走り続けますので、引き続きよろしくお願いします。(吉岡健一)


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