おやびん道

それぞれの道には、それぞれの風土、気候、環境などを積み重ねた表情がある。それはまた人生にも似ている。道は人生、道の数だけ物語がある。野口おやびんが走って来た幾多の道を、想い出話と共に語ろうか。


第22回 日光いろは坂


いろは坂は、国道120号線の日光市馬返~同市・中禅寺湖畔間の坂道のことを言う。’54年に全面改修され、日本で2番目の有料道路となる。当初上り下り1車線の対面通行だったが、’65年に上り専用の第二いろは坂が開通し、上り下りとも一方通行路になった。’84年から無料解放され現在に至る。延長は16km弱。


※日光周辺の観光情報は日光観光協会公式サイトで。
日光の道

 いろは坂の名は、連続する多数のカーブを「いろは」の48音に例えたことが由来で、第二いろは坂ができてからは上下合わせて48のカーブに『い』からはじまるひらがなが付けられている。だが、実際のカーブの数は48よりずっと多い。

 俺がいろは坂を初めて通ったのは、42年前のことになる。自走ではない。中学2年の修学旅行が日光/中禅寺湖で、そのときにバスで揺られて上り下った。東照宮の陽明門前の石段で、クラスごとに勢揃いして撮った記念写真をまだ持っている。ただ、その際にバスで走ったいろは坂のことはほとんど覚えていない。季節もはっきりしないが、紅葉の頃ではなかった。

東照宮
関東周辺の小学生、中学生の修学旅行から外国人まで幅広い人が訪れる日光東照宮は人気の観光スポット。

 バイクで走ったのは、17の時だった。’70年代の前半、隣県の栃木県の有名な峠道としてバイク乗りや車好きに知られていて、仲間と一緒に『いっちょ、いろは坂のコーナーを楽しみに行ってみようじゃねえか』ということになったのだ。ここ数回で紹介した群馬県内の峠や山麓の道も走り回っていたが、いろは坂に興味を抱いていて、一度走ってみたい、と思っていたのである。

 同行した人数とバイクの詳細は忘れた。ルートは銅山と公害で有名になった足尾経由だった。富岡を出発し、高崎~前橋を経由して大間々まで。そこから国道122号線をたどって渡良瀬川沿いを走り、草木ダムを過ぎてしばらくすると、左右の山間に開かれた銅山の町である足尾が見えて来る。当時は銅山が閉鎖されるかされないかの時期で、閉山後も製錬は継続されていたらしい。だから、’80年代以降に見た時と比べれば、町自体にまだ多少活気はあったように記憶する。

 足尾を過ぎて20kmも走ると、国道120号線にぶつかり、左折して上って行くと、いろは坂(第二)で、片側2車線の一方通行だ。交通量はそれほど多くなかったし、2車線だから遅い車を追い越し、コーナリングを楽しみながら駆け上った。ご存じのように日光~いろは坂~中禅寺湖は昔から紅葉の名所で、シーズンは観光バスやマイカーがどっと押し寄せ平日でも渋滞になる。毎年のように新聞にもその模様が掲載されている。だから秋ではないオフシーズンの頃だったのだろう。

中禅寺湖
中禅寺湖
いろは坂
紅葉シーズンは大渋滞するいろは坂。季節によってはこんなに霧も出る。

 途中、展望台のようなところがあるが、素通りし、中禅寺湖が見える手前の華厳の滝の駐車場あたりにバイクを止めて一服。もちろん華厳の滝も眺めた。で、土産物屋の並ぶ湖畔をさらに奥に進み、戦場ヶ原あたりまで行ったのかな…。そのときは金精峠を超えて群馬県の沼田に抜ける、というコースは取らずに引き返し、湖畔に並ぶ食堂で昼飯を食べるかした後、下り専用になっていた第一いろは坂を下りて、往路と同じコースで帰宅したように思う。

 上京後の18から20代前半の頃にも何度か日光を訪れ、いろは坂を走った。22、23の頃、バイト先の後輩カップルと俺の彼女と4人で出かけたことがあった。後輩達は車で俺はGS750EⅡ、彼女はGX400で、車との変則的なツーリングだった。そのときは紅葉のきれいな時期で、紅葉狩りが目的のひとつだった。ルートは東京から国道17号線で沼田まで行き、国道120号線を使って金精峠経由で中禅寺湖に。そして湖畔の宿で一泊した。帰路に第一いろは坂を走った。そうそう書いているうちに思い出したが、往路で沼田から金精峠に向かう途中、車の後輩が待ち伏せの警察に追い越し禁止で御用になってしまった。

 その後、20代後半から30代の頃も異なるバイク仲間と何度かツーリングしたし、仕事でいろは坂を上り下りしたことも数回ある。以前、単車街道のコラムでも書いたけれど、W1スぺシャル、W3、CB750Fourに乗る3人の友達と泊まりで日光・中禅寺湖へ出かけたときも、沼田からのルートだった。中禅寺湖畔に馴染になった民宿があり、そこで一泊した。翌日は雨で、第一いろは坂を下ったが、W乗り二人が相次いでスリップして転倒した。幸い二人とも怪我はなくバイクも無事だった。

中禅寺湖
中禅寺湖
中禅寺湖
中禅寺湖、華厳の滝は東照宮とともに日光観光の定番。

 40代になってからも、気の合うバイク乗りと2、3度、中禅寺湖を訪れいろは坂を走った。足尾の町を通る国道120号経由が多かった。でも、直近でいくといつ走っただろう…。大間々から日光までの122号線は会津や山形方面に行くときや、茂木周辺に行くときに何度か利用している。だが、いろは坂はここ10年くらいご無沙汰しているかもしれない。足尾または日光側からでもいいし、沼田側からでもいいけど、紅葉のきれいな時期に泊まりがけで出かけてみたい。でも、あまり混んでいると嫌だなあ…。



野口眞一

野口眞一
バイクに乗って40年、二輪雑誌の仕事をして30年、の55歳。若い頃からツーリングが好きで日本各地を旅してきた。現在の所有車はトライアンフのサンダーバード(1996年型の水冷並列3気筒)で、13年乗り続けている。

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