バイクの英語

第22回 Straight from the horses mouth
(ストレート フロム ザ ホーセス マウス)

 

 今回の一言は「馬の口から直接」と言う意味ですね。「乗り物は乗り手よりもモノを言う」と言う意味で使ってください。

 

 最近、スマートフォンにしました。常にネットに繋がれる環境が求められる仕事をいただいたための乗換えだったのですが、これがなかなか厄介なのですよ。だって今まではパソコンメールについては「はーい、今、出先なので帰ったら確認しまーす」なんつって出先じゃなくても先送りにできたのに、今は「すぐに確認してもらっていいですか」なんて言われちゃう。スマホにしてから、僕は人にせっつかれるのがダイキライであることに気づきました。

 もちろん締め切りは守りつつも、自分のペースで仕事がしたい! このコラムの担当編集者はいつも締め切り1週間前ぐらいには「締め切りはイツイツです。よろしくドーゾ!」という丁寧なメールを下さり、コラムを送ると「受け取りましたアリガトさん!」というお礼のメールにわずかなエロネタを同封してくださります。僕が知ってる中ではほんのワズカですね、こんなことをしてくれる編集者は! ありがたや!

 最近では携帯電話のメールを開いたかどうかがわかるソフトがあるらしくて、携帯メールを見といて、都合が悪いからってスルーして、電話がかかってきた時に「あごめん、まだ見てないや」と言えなくなっちゃったんですって。やれやれ、追い詰めますね…… めんどくさそうな人だったらメールを開いちゃダメですよ! 開いたことがバレてるかもしれないから。
 ここまでの話とも、今月の英語ともそんなに関係ないですが、メールに関してもう一つ。

 最近あるネット業者で買い物をしようとしたら「在庫を確認してください」と書いてあったので、メールして問い合わせたんですね。そしたらその返信が「今在庫切れで、次いつ入ってくるかわかりません。注文しておけばメーカーもあせってくれるから早めに入ってくるかもしれませんよ」というお返事。そっかー、急ぐ商品でもないし、じゃあ注文しておこうと思ったけれど、この商品を掲載しておきながらいつ入るか未定、さらにそれは自分のせいではなくてメーカーのせいだ、ぐらいの言い方だったので「では注文させていただきます。だけど在庫がないのは仕方がないとしても、いつ入るかわからないものでも掲載しておくのは、買いたい側からすると残念だと思っちゃったス」と書いたらなんと。「そんな嫌な思いをしてもらってまで買わなくてけっこうです。今回はキャンセル扱いとさせていただきます」なんていうメールが帰ってきた。え~! 注文するって言ったのに一方的にキャンセル扱いされたよ!?

 これはもう、完全にメールの弊害ですね。お互いの文面の悪い所を拾い上げちゃって、食ってかかる。いや、僕としては食ってかかってきたのはアッチだと思ってますけど、僕の「残念でした」というのが向こうは気に食わなかったんでしょう。こりゃ最初からメールで問い合わせたのが失敗。電話一本で済むのに不毛なメールが行き来して、向こうは結局販売に繋がらず、僕は欲しい商品が手に入らない…… バカじゃん、双方とも。

 

 この話がかろうじて今回の英語と共通するポイントは「現場主義」「実物主義」という部分です。電子の世界は便利ですが、やっぱり人と人が直接やり取りしないと失われるものも多いでしょう。太古の昔、まだメールを開いたかどうかわかるなんて機能が存在しなかった頃、人の言うことが本当かどうかはその馬を見ればわかる、と言われたことから今回の言い回しに繋がります(か?)。

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 人間が馬を狩猟の対象ではなく家畜として飼うようになったのは紀元前4000年ごろとされている。それまでは何事も人間の力と知恵だけで生き抜かなければいけなかったが、馬という強力な動物を飼いならすことで人間の生活は移動、農耕などの分野で飛躍的に向上することになる。

 馬を飼いならし、人間の力では成し得なかったスケールでの活動ができるようになり、各国はその勢力を拡大することにも力を入れることになる。後に馬に引かせる馬車の発明や、馬に乗ったまま矢を射る、日本で言うところの流鏑馬技術が発展し、馬は便利な移動手段や農耕器具を引く労働力から、急速に軍事力のための動物となっていった。
戦場で活躍する馬は傷つくことも多く、酷使されることから疲労に倒れることも多い。しかしそんな馬の苦労とは関係なく戦争とは人間同士のものであり、必ずしも人間の戦況の報告は正しいとは限らない。人為的にウソの報告がされることもあり、また戦場から逃げ出したような兵士も真実を語ることは少ない。

 そんな時に生まれたのが今回の言葉「straight from the horses mouth」。「真実は馬の口から語られる」という意味である。いかに人間の報告がいいものであっても馬の状態が悪ければ真実はお見通しなのである。また、反対に馬の状態が不自然に良すぎたら、その兵士は戦場に行ってすらいないかもしれない。言語による表面的なやり取りよりも、乗り物である馬を見れば真実がわかる、ということなのだ。

※    ※    ※

 いかがですか? これはバイクにも当てはまることですね。いかに「凄まじい林道に行ってきたぜ!」と言っても、バイクが汚れてなくて、しかも一度も転んだ跡がないようだったら「凄まじい」ってほどではないだろうと想像できます。

「峠でバリバリの負けなし!」と言われてもタイヤの端っこが全然使われてなかったら、そうでもないってわかっちゃいます。

「バイク整備はお手の物」って言われても、チェーンが伸びてたりアクセルの戻りが悪かったりしたら一目瞭然。
 中古車を買うときに「走行3000キロ! 新品同様!」 と言われても、ステップラバーやグリップが減ってたり、ディスクローターが磨耗してたら、もっと走っていることがわかりますね。

 馬もバイクも実際には語りませんが、百聞は一見にしかず、実物を見れば人間以上に多くのことを語ってくれているということです。まさに「乗り物は乗り手よりもモノを言う」のですよ。

 最初のメールの話とどうつながるのだろうか…… 人と人が実際に喋っても怪しいのに、さらに電子メールではさらに怪しい、ということにしておきましょうか。そもそもネット通販が良くないんだな、お店で買いましょうよ、雇用も生むし、実際に商品を手にとって見ることができるし。
……というメッセージで締めていいですか? 


筆者 
マイク・マルキス
若かりし頃は他車への追突などから「危険なライダー」と言われたこともあったが、最近は年齢と共に危険さは影を潜め、実力者としてレースを戦いつつこんなコラムも執筆している。若いながら家庭を持ち、息子は俳優として活躍中。現在上映中の「キリン」にも出演しているとか?


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