放狼記 嵐のゴールデンウィーク!!

 早朝に目を覚ますと雨だった。目の前にあった富士山の姿はぶ厚い雲に隠れて見えない。それでも荷物をまとめて出発の準備ができる頃には小雨になりしばらく様子を見ていると止んでくれた。東の先の空には晴れ間も見える。この日の目的地は千葉までだ。距離にして200キロもない。楽勝である。その余裕分は寄り道に費やされる事になる。
 道の駅をでて246号を厚木までそこから南下して再び1号線へ。1号線へ合流する頃にはすっかり天気は回復していた。オレは横浜の病院に入院している仲間の見舞いに訪れた。面会時間外ではあったが無理を言ってなんとか面会させてもらう事ができた。事故から5ヶ月。少しずつ回復しているとは聞いていたが元気に走り回っていた姿しか知らないオレにはその仲間の今の姿はあまりにも痛々しかった。バイクという乗り物がもたらしてくれる楽しさの影に見え隠れする恐ろしい現実。快感は常にリスクと隣り合わせ。それがわかっていても避けられない事故がある。だがそれはバイクに限った話ではない。今は彼の一日も早い回復を祈る他はない。
 病院をあとにしたオレは横浜の街中を抜け東京へ。このあたりから今までの時間と距離の感覚が変わってくる。特に渋滞しているわけでもないのに思った以上に距離が進まないのだ。昼を過ぎた頃、品川に到着。それと同時に雨が降り始めた。 ミスターの編集部に立ち寄り、しばし雨宿りさせてもらう事に。千葉に向かう際、いつもならレインボーブリッジを渡りお台場を抜けて湾岸道路に出るのだが今回は開通したばかりの東京ゲートブリッジを走ってみることにした。編集部で一番近い道順を教えてもらい東京ゲートブリッジを目指す。教えてもらった大井埠頭経由の道は当たり前の事だがトラックばかり。しかも大型やトレーラーばかりで乗用車の姿もほとんどない。しかもその大型車両の交通量が半端ではない。そんな大型トラックの群れの中を掻い潜るようにエイプで走るのはハッキリ言って超怖ぇ~よ。
 なんとか橋の入り口にさしかかりいよいよ通称“恐竜橋”の初走行だ。この日は思っていたほど風も強くなく道も空いていた。カメラを片手に歩道を歩く人の姿が多く見られる。街は人間の都合でその姿を変えていく。このあたりの景色もオレが東京にいた頃と比べたらすっかり変わってしまった。橋は若洲海浜公園の所で終了となる。
 そこからは湾岸道路を千葉方面へ。そして夕方、姉ヶ崎の友人宅へ到着。27年来の友は当時と変わらぬ笑顔でオレを出迎えてくれた。お互い取り巻く環境は大きく変化した。

 かつて喧嘩腰で夢を語り合った彼は立派な城を建て愛する家族と暮らしている。かたやオレはというと暇を見つけては放浪し、全国を彷徨う風来坊だ。だがオレ達の中にはどちらが正しいなんて考えはない。それぞれがお互いに望んだ環境で時間を過ごしている、ただそれだけの事だ。この日の夜、オレ達は昔話も交えながら深夜まで語り合った。それはいつもの集会でバイク乗り同士でいるのとは異なり、また違った意味で濃密な時間だった。



閑静な住宅街に建つ豪邸に怪しげな風体をしたバイクが来訪。見慣れぬ光景に近所の人達はどう思ったのだろうか
閑静な住宅街に建つ豪邸に怪しげな風体をしたバイクが来訪。見慣れぬ光景に近所の人達はどう思ったのだろうか。

 翌朝、天気は微妙な感じである。翌日5月3日は全国的に総崩れな天気予報だったがこの日もいつ降り出してもおかしくない状態だ。案の定、友人宅を出て10分もしないうちに雨が降り始めた。まったくGWの週間予報ほど当てにならないものはない。
 16号から千葉の街中を抜け51号線へ。そこからはひたすら51号を水戸まで走る。雨は降ったり止んだりを繰り返していた。水戸から118号線に入り後は福島までひたすら一本道である。

 そう、ここまでは天気の浮き沈みはあったが特に問題はなかった。118号にしてもずっと雨だったがエイプは快調に走ってきていた。だが途中のコンビニで足回りのトラブルに気づいたとたんオレの走りは超おとなしいものに変わった。ボルトがどこで飛んでいったのか見当もつかない。



エイプはフロントフォークを大き目のボルトで上から締め上げてトップブリッジと固定している。そのボルトが片方ない。おお、怖っ!
エイプはフロントフォークを大き目のボルトで上から締め上げてトップブリッジと固定している。そのボルトが片方ない。おお、怖っ!。

 そしてそれに呼応するようにエイプもグズり始めた。それはまるで夢中になってゲームに興じていたスポーツ選手が緊張が途切れたとたんに体の不調を覚え、元気がなくなるのに似ている。いわゆる電池切れというやつだ。
 なんとか道の駅に辿り着きテントを張って雨風はしのいでいるが明日になってエイプの調子が回復するであろう見込みはない。わずかな望みを込めて携帯で天気予報を見てみるが表示される予報は最悪でオレを落胆させるだけのものだった。途中、買い物をする余裕もなかったためオレは手持ちの非常食で食事をし、眠りについた。



118号沿いの道の駅にて。この日は星空ナイトで眞砂谷氏にもらったパックご飯で夕食。フル装備においてはオレは2日分ほどの食料を常備している
118号沿いの道の駅にて。この日は星空ナイトで眞砂谷氏にもらったパックご飯で夕食。フル装備においてはオレは2日分ほどの食料を常備している。