かつてミスター・バイクの誌上を彩った数々のグラビアたち。 あるときは驚きを、またあるときは笑いを、そしてまたあるときは怒りさえも呼び込んだ、それらの舞台裏ではなにがあったのか? 1980年代中盤から1990年代に、メインカメラとして奮闘した謎の写真技師こと、エトさんこと、衛藤達也氏が明かす、撮影にまつわる、今だから話せる(んじゃないかと思うけど、ホントはまずいのかも)あんな話、こんな話。聞きたくないですか。
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大田区南雪ヶ谷にあったミスター・バイク編集部。それはそれは大きなお屋敷で、りっぱな庭には滝のある池までありました。この池に水を入れるとよくないことが起こるといにしえからの言い伝えがあり、絶対にやってはいけないタブーでした。 |
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あるとき某編集部員が「温泉の写真撮りたいけ〜ど、予算な〜いから、ここにお湯入〜れて露天風呂にし〜よう」と池にお湯を張ってしまいました。それを知ったボス(初代社長。メチャクチャ怖い)が「おめーら、よぉ!!」と激怒したことは言うまでもありません。懲戒免職寸前の某編集部員は「ボ〜ス、入れたのは水じゃな〜くてお湯だからだいじょ〜ぶです」と一休さんばりのトンチで切り抜けたとか抜けなかったとか(でも、未だに居ますから切り抜けたんでしょう)。 |
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若さは怖さを知らないことでもあります。某編集部員は今もたいして変わりませんが。 | ||
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まだまだ二輪業界の景気が良かった頃の話ですが、日頃の感謝を込めてか、出入りしていたフリーのライターやカメラマンをたくさん招待してくれて、広い庭で園遊会なる大宴会が開かれたこともありました。そこで、盛大にバーベキューをやったら、煙がもくもくと出てしまい火事と間違えて消防署に通報されたり、宴もたけなわでカラオケをやったら「怪しい宗教集団が経文を唱えている」と通報されたようで、警察官がやってきたりと、かなり近所迷惑でした。 広大なお屋敷の1階、10畳と12畳に縁側の廊下をぶち抜いたワンフロアに、ミスター・バイクとBGとゴーグルの3編集部が同居していました。机を4つから6つくっつけた各編集部の上座で編集長が睨みを効かせていたのです。外部の私に事情は解りませんが、ある日急に編集長は2階に引っ越し、ブルーカラーとホワイトカラーの完全分離が達成されました。エライ人がいなくなって1階は無法地帯になりました……という話はまた。 |
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園遊会でカラオケマシンのセットをする私です。招待客だったはずですが、最後はこうなります。 | ||
引っ越しのどたばたも一段落したある日、いつものように近藤編集長に呼び出されました。
2階の編集長部屋(外部ライターは職員室と呼んでました)の一番いい位置にふんぞり返っていた近藤編集長は「エトーよう、スズキがよう、新しいバイクツアーをよう、やるらしいんだよう。(※ラップではありません。近藤編集長の口癖です)北海道に飛行機で飛んで、バイクは現地に用意されていて、宿はホテルの2泊3日だってよう。だからよ、お前と信哉で行ってくれねーか。でもな、ただ北海道に行って帰って『これがスズキのツアー企画です』なんて紹介しても、おもしろくもなんともねーだろよう。そんなのはピーッのピーッ(※某雑誌名と某ライター名。私には書けません)にでもやらせておけばいいんだからよう。でな、2人でなんか取材してこいよ、おもしろいヤツ。そうだな、林道だな。やってこいよ。な」 「でな、ギャラなんだけど……3日分……払えないんだよ……2日分でやってくれない? たのむよ、なっ、なっ」 イントルーダーに乗っているかのような姿勢で椅子にふんぞり返っていたのに、だんだんと声が小さく優しくなり、しまいには50ccワークスレーサーRM62に乗っているかのごとく前傾になっていくのでした。 ギブアンドテイク。フリーにとって編集部に貸しを作ることは悪いことではありません。二つ返事で受けてもいいのですが、すでに編集部の借りは債務超過、ギリシャ国債クラスに信用度がありません。あえて冷たく言いました。 「衛藤写真事務所には松、竹、梅の3コースがあります。ギャラを1日分払えないということでしたら、今回のお仕事は梅コースという事でよろしいですか?」 「え!? なんだよう、梅ってのは、よう」 「カメラのランクがちょいと落ちます。松はもちろん私の愛機Canon F1フル装備。 竹はバカチ○ンカメラ。最低コースの梅は、『写ルンです』になります」 もちろん軽い冗談でしたが、これを聞いてバンディット400(マーブルピュアレッド)の如く顔を真っ赤にして「解ったよ! いいよ、じゃあ梅でやれよ! 梅で!!」出来るもんならやってみろ的に言い放ちました。 売り言葉に買い言葉。「解りました。では、梅でお受けします」と答えましたが、近藤編集長も私も心の中では「そんな事はするわけがない」と解っています。ですが、悔しいのでちゃんと『写ルンです』も持って行って同撮して、帰ってきたらふじ家のおじさん(※出前を持ってくるそば屋のおじさん。おかまっぽいが怒ると怖いとの噂あり)の様に、「お待たせしました〜」と写ルンですを渡してやろうと思いました。近藤編集長、どんな顔するのだろうか? RG400ガンマの排気煙の如く頭から湯気を出すのか、それともGSX400Xインパルス(東京タワーじゃないハーフフェアリングの方)のシャーベットシルバーメタリックの如く真っ青になるのか、想像していたらとおもしろくなってしまいましたが、顔には出さずに心の中で一人笑っていました。が、後で痛いしっぺ返しを食らうことになろうとは、今は当然知るよしもありません。 出発の前日、編集部で信哉さんと打ち合わせしました。 「大まかな作戦は立てているからよー、あとは行ってからのおたのしみだな。俺様にまかせときな。ただしだな、スケジュール的には2日目が自由行動らしいから、その一日で撮影をやっつけてしまうしかねーからな」(次号に続く) [後編へ] |
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