おやびん道

それぞれの道には、それぞれの風土、気候、環境などを積み重ねた表情がある。それはまた人生にも似ている。道は人生、道の数だけ物語がある。野口おやびんが走って来た幾多の道を、想い出話と共に語ろうか。

第28回
伊豆南端~西伊豆
(奥石廊~マーガレットライン~富士見彫刻ライン)


伊豆半島は山間部にも海岸線にも面白い道が多い。有名なスカイラインは後にとっておくことにして、今回は半島南端・石廊崎/奥石廊から西伊豆・松崎までの海岸線について記す。つまり、県道16号線=延長約15.5kmと、その県道と接続して、松崎に至る国道136号線の約27kmのルートで、下田方面から時計回りにたどると、左手に海を眺めながら走れる区間が多い。

伊豆南端~西伊豆MAP

 伊豆半島は首都圏から距離的に手頃で、ちょっと頑張れば1日で回れるし、1泊なら余裕でコーナリングも景色も食も楽しめる。また、海岸線は冬季でもほとんど凍結しないから、寒い時期のツーリングもOKだ。俺も昔から幾度となくツーリングを楽しんできたし、仕事でも利用してきている。件の道を初めて走ったのは‘75年の春だった。2泊3日の日程でソロツーリングに出て、伊豆半島~房総半島(久里浜からフェリーで渡った)~福島を回ったときだ。初日、東京から沼津まで、奮発して東名高速を使い、高速を降りてから国道414、県道17号線とつないで海岸線を南下し、半島を反時計回りで走った。

 右手に駿河湾を眺めつつ、マイペースでコーナリングも楽しみ、松崎まで。その後さらに南下して、差田というところで県道16号線に入り、奥石廊へ。深い藍色の海と海岸線の景観が素晴らしく、感動ものだった。石廊崎ではバイクを止め、灯台まで歩いて観光した。5月の連休の時だったが、国道もあまり混んではいなかったように思う。その後、‘80年代に入ってからは、バイト先(某都内のホテルでウエイターをしていた)のバイク仲間と日帰りや1泊で伊豆半島ツーリングによく出かけるようになり、南伊豆を走る場合は、県道16号線と国道136号線の奥石廊~松崎間を外すことはまずなかった。

 ‘90年代に入ってからは、仕事で知り合ったバイク乗り3、4人(多いときは7、8人)と泊まりで伊豆半島ツーリングを楽しむようになり、やはりそのルートを必ず取り入れてコースを設定した。ほとんどが伊豆スカを南下し、川奈で一泊。2日目に東伊豆の海岸線の国道135号線に出て下田まで。下田から国道136をしばらく走って、弓ヶ浜に至る手前の分岐で県道16号線に入り、石廊崎~奥石廊崎に。で、あいあい岬の駐車場&土産物店で一服し、その後国道135号で松崎を経て土肥まで北上、というパターンが多かった。

 最初に伊豆半島を走ったときのように反時計回りに西伊豆から東へと走り抜けることも何度かあったが、大半は逆に時計回りで、伊東など東伊豆の海岸線から南・西伊豆に抜ける順路だった。集合場所や宿泊地、伊豆スカを走ることや2日間の走行距離、遠くからの参加者など、諸々を考慮してそういうルート設定にしたのだ。そうそう、書いているうちに思い出した。奥石廊には中木という小さな漁業集落があり、ウエイターのバイトをしていたとき、夏に先輩方と10人前後でそこのある民宿に2、3泊で遊びに行き、泳いだり釣りをしたり、楽しい時間を過ごした。‘70年代末期のことだった。

 ‘80年代末から’90年代半ばまでの時期は、仕事で西伊豆や南伊豆を走ることも多かった。メーカーが新車の試乗会を松崎や下田をベースに開催することもあって、その時はインプレ取りや撮影を県道16号線やマーガレットラインで行った。ホンダのCB-1やスズキのバンディット(250か400)はそうだったと記憶する。懐かしいなあ…。‘00年代に入ってからも、旅企画の取材でそのルートを走ったことがあり、撮影のために半日で複数の露天風呂に入ったっけ…。

 さて、3つの道の様子だが、まず石廊崎~石廊の県道16号線は、下田側から入るとしばらくは海沿いで、眺めがよく道幅も比較的広めで走りやすい。石廊崎の前後はブラインドのタイトコーナーが続き、道幅もやや狭くなる。奥石廊のあいあい岬から国道に接続するまでの区間は次第に内陸部に入ってゆくが、道幅がやや広くなって、中速コーナーが多い。基本的に交通量が少なく(観光シーズンの休日は例外だと思うが)、コーナリングと美しい景色を堪能できる。ただし、時折対向車が現れるから、その点、要注意。

 マーガレットラインは、妻良から雲見までの区間の愛称だと認識しているが、回り込んだ中低速コーナーもあるし、高速コーナーもあって、走りごたえがある。ただ、路傍に民家や施設があったりするので、飛ばし過ぎないように。雲見から松崎までは富士見彫刻ラインと呼ばれタイトコーナー連続区間で、道幅はやや狭い。断崖の海岸線上を通っているので、駿河湾を見渡せるし、好天なら富士山の雄姿も拝める。で、ゆっくり走って注意していないと見落としてしまうが、路傍に21体の彫刻が置かれている。約30年前、ツーリングコースを紹介する企画の取材で知ったことだが、昭和47年に地元・松崎の芸術家グループの手で制作・設置されたものだという。コーナリングを楽しむのもいいけど、目を吊り上げて路面ばかり見てないで、ゆっくり走ってそれらにも目を向けてみましょう。


マーガレットライン

富士見彫刻ライン

富士見彫刻ライン

駿河湾に沿ってタイトコーナーが続く富士見彫刻ライン。21体の彫刻もお見逃しなく。※写真の人物は野口オヤビンではありません。念のため。


野口眞一

野口眞一
1956年、7月生まれ。バイクに乗って40数年、バイク雑誌関係の仕事に就いて30数年。若い頃からバイクの旅が好きで、日本各地を走り回ってきた。所有するバイクは今となっては滅多に見ないトライアンフのサンダーバード(1996年型の水冷並列3気筒)で、15年乗り続けている。長く乗っている割には走行距離は少なめで6万5000km。

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