おやびん道

それぞれの道には、それぞれの風土、気候、環境などを積み重ねた表情がある。それはまた人生にも似ている。道は人生、道の数だけ物語がある。野口おやびんが走って来た幾多の道を、想い出話と共に語ろうか。

第29回
R299・正丸峠~麦草峠


国道299号線=R299は、埼玉県入間市と長野県茅野市を結ぶ一般国道で、埼玉県の飯能市~秩父市、群馬県の神流町~上野村、長野県南佐久郡などを通っている。延長は約195km。その大半は山間部で、正丸峠(現在は正丸トンネルが国道)ほか、志賀坂、十石、麦草と、峠道が多い。なお、起点は茅野市の国道20号線との交点で、終点は入間市の国道16線との交点とされる。

R299MAP

 R299には峠がいくつもあるが、それぞれの峠道に思い出がある。R299を、初めて走ったのは35年くらい前だったろうか。バイク仲間と日帰りで奥武蔵グリーンラインへツーリングに行ったときと、麦草峠のふもとの温泉に1泊ツーリングしたときに利用した。また、同時期、当時付き合っていた女房をGS750EⅡの後ろに乗せ、信州から北陸、京都と巡った1週間ほどのツーリングでも、初日、R299を入間から茅野までほぼ全線走って木曽路に宿をとった。

 飯能と秩父の間にある正丸峠は、’82年に正丸トンネルが開通して以降も共用されていて、’70年代後半から’80年代は走り屋、ローリング族に人気の峠のひとつだった。峠道のコーナリングが好きな俺は、R299で秩父に向かう時は必ずトンネルではなく峠を選択した。道幅はそれなりで低中速コーナーが連続し、距離的にも適当で10km弱くらいだったと思う。仲間と一緒のツーリングの時は当然、バトルも楽しんだ。’80年代前半の頃は1、2度、仕事でも行ったことがある。

 ここ10年来も信州や群馬に行くときに高い頻度で利用しているR299だが、正丸峠を通ることはなくなっている。というのも、正丸トンネルが通って以降通行量が次第に減り、整備されなくなって、久しぶりに走った時、路面は荒れ、路肩には雑草が多く、気持ちよくコーナリングを楽しめる道ではなくなってしまっていたからだ。それに、3、4年前だったか、荒れていてもいい、久々にゆっくり走ってみようかと思って飯能側から乗り入れたが、梅雨時の大雨か台風のために崖崩れや土砂崩れが発生し、通行止めになっていて、やむなく引き返し、トンネルで秩父に抜けたことがあった。以来、何度もR299で秩父方面に行っているが、乗り入れたことがない。その後復旧しているのだろうか…。碓氷峠もそうだが、楽しく走れた峠道がほったらかしになっていたり通れなくなるのは寂しい。


正丸峠

正丸峠
集中豪雨などで何度か道が流され通行止めになった正丸峠。現在は?(撮影─楠堂亜希)

 そういうわけで正丸峠は通っていないが、ここ4、5年、毎年のようにR299は利用している。前述のように、群馬や信州へツーリングに行くとき、関越自動車道や上信越自動車道を使うより峠道やワインディングの多いルートを走るほうが楽しいからだ。飯能から秩父までR299は平日でも交通量が結構多い。生活道路であり通勤で使う車、流通関係のトラック、建設業のダンプカーなどが行き来する。主要地方道になっていて、代わりになる便利で走りやすい道がほかにないので混むわけだ。でも、秩父を抜けると交通量は減り、ライダー間でこのところ名が知られている小鹿野町を過ぎれば、行き過ぎる車はグッと少なくなる。

 小鹿野町から先は小さい集落が山間に点在するようになり、さらに進むと埼玉・群馬県境の志賀坂峠だ。埼玉県側はずいぶん前に補修されて以前より路面がきれいになった。タイトコーナーが連続し、勾配もそれなり。群馬県側は路面はやや荒れ気味で、短い直線もあり、コーナーも低速、中速と入り乱れている感じ。観光シーズンでも平日なら交通量は非常に少なく、マイペースのコーナリングを楽しめる。峠を下りきると神流町で、神流川にかかる橋を渡るとT字路となる。左がR299の続きで、右側はR462である。右に折れて数kmいくと道の駅、万葉の里がある。そこで小休止したことも何度かある。


小鹿野

志賀坂峠
バイクで町おこしの小鹿野名物はわらじカツ丼。 埼玉・群馬県境の志賀坂峠を群馬側に下ると神流町に。

 左折してR299を西北に進んでも道の駅、上野がある。日航機墜落事故でその名が知られるようになった上野村は山深いが、上野村内を走るR299は整備されていてストレートも多く、やはり交通量が少ないので走りやすい。が、村の西端に近くなると、一気に様相が変わり、3桁国道らしくなる。まるで舗装林道で、幅は狭く車がすれ違うのも大変なほど。もちろんセンターラインなしで、路面も荒れている区間が多い。でも渓流沿いになったりするそんな道を、のんびり走るのも悪くない。春は若葉が、秋は紅葉が美しい。また、夏は涼しくていい。

 上っていくと十石峠だ。頂上付近はちょっとした公園になっていて、展望台や茶屋もある。長野県側もしばらくは細い林道のような道で、西進していくと佐久穂町に出る。町の市街地でR141にぶつかり、左折して数km、R141との重複区間を過ぎ、右折するとR299単独の道に戻る。メルヘン街道とも呼ばれる八ヶ岳北方に広がる八千穂高原を登っていくと、麦草峠だ。峠の標高は2120mだが、R299の最高地点はそれより佐久穂町側にあってその標高2127m。国道ではR292の渋峠に次いで2番目に標高が高い場所になっている。


十石峠

十石峠

麦草峠
(左)上野村を過ぎて十石峠への入口まで来ると突然狭くなる。まさに三桁国道の醍醐味。
(右上)長野県と群馬県の県境が十石峠。シーズンにはライダーも多い。
(右下)長野県の麦草峠。このあたりはメルヘン街道の愛称が付けられている。

 麦草峠は昔から有名な峠道で、俺が初めて走ったのはやはり30数年前だったと思う。信州ツーリングの際にルートに組み入れた。距離が長く、走りごたえがあって景色もいい。頂上付近=峠の前後はなだらかな感じだが、佐久穂町側も茅野市側もタイトコーナーが連続する。ここ10年の間に3回くらい通っているが、昔に比べると交通量は減っている反面、路面が荒れた区間も多く、以前ほど魅力を感じなかった。それでも、標高の高い山岳道路らしい趣があり、景観もいいから、また走ってみたいとは思う。

 下りきると茅野市街に至り、R20とぶつかってR299は終わる。俺はこれまでほぼ入間市側から茅野市方面へとR299を使い、逆にたどったことは数回で、それもある区間をとぎれとぎれに、だったように思う。ともあれ、R299は正丸峠が懐かしく、志賀坂、十石、麦草の3つの峠はそれぞれに特徴があって面白い。また、峠道以外の山間の道も結構楽しい区間が多いから、群馬や信州へのツーリングの際は、全線でなくてもいいから走ってみることをお薦めしたい。



野口眞一

野口眞一
1956年、7月生まれ。バイクに乗って40数年、バイク雑誌関係の仕事に就いて30数年。若い頃からバイクの旅が好きで、日本各地を走り回ってきた。所有するバイクは今となっては滅多に見ないトライアンフのサンダーバード(1996年型の水冷並列3気筒)で、16年乗り続けている。長く乗っている割には走行距離は少なめで6万5000km。

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