おやびん道

それぞれの道には、それぞれの風土、気候、環境などを積み重ねた表情がある。それはまた人生にも似ている。道は人生、道の数だけ物語がある。野口おやびんが走って来た幾多の道を、想い出話と共に語ろうか。

第37回

金精道路・中禅寺湖スカイライン

金精道路は群馬県沼田市と奥日光を結ぶ国道120号線の県境区間の呼称で、距離は前後8km強(かつて有料だったが1995年に無料化)。だが一般的には金精トンネル前後の約20kmのワインディングを称して金精峠、と呼ばれることも。コーナリングを楽しめて、景色もいい。なお、冬季は積雪のため閉鎖される。中禅寺湖スカイラインは中禅寺湖畔から湖の南側にある半月山へ登る観光道路で、延長は約8.5km。こちらも1997年夏以降、無料になった。


MAP

 以前、日光と中禅寺湖を結ぶ「いろは坂」について書いた。いろは坂は中禅寺湖の南側に位置するが、西側、南側にも景色がよくてコーナリングが楽しめる道がある。有名なのがR120の金精峠で、ロマンチック街道の一部でもある。沼田市側には丸沼、菅沼といった小さな湖が路傍から望め、日光側には湯ノ湖があり、観光地のひとつとして知られている。これまで金精峠は5、6度走っていると思うが、最後に利用してから、もうずいぶん時が立っている。

 まだ群馬にいた10代の頃は有料だったから、日光に行く場合、ルートから外した(足尾経由だった)。その後も私的ツーリングでも仕事でも金精峠を通ることは少なかった。なぜだか考えてみると、金精峠と中禅寺湖や日光は目的地としてセットになり、東京からだと距離的にやや中途半端で、日帰りでは結構距離があって、1泊だとちょっと近くてもったいないような気がしたからではないか、と思う。東北に向かう場合はずいぶん寄り道することになるし…。

 それでも、3度のツーリングを鮮明に覚えている。最初は20、21の時にバイト先のバイク好き4人で日光に行ったとき、沼田から入って金精峠を走った。俺はTX500だった。秋だったが、紅葉の最盛期ではなかったように思う。それまでのんびりしていたし、日が傾くのが早く、おまけに山中だったから真っ暗ではなかったがふたつの沼の手前でヘッドライトを灯した。峠に近づくにつれて気温はどんどん下がり、寒かったっけ…。標高2000を超える金精峠の下を貫く金精トンネル(標高1840m、延長755m)を通り、日光側に抜けた時はもう日は完全に暮れていた。中禅寺湖畔まで行き、民宿に泊まった。

 その数年後にもほとんど同じルートで日光に赴き、初日、金精峠を走った。紅葉がきれいな頃の平日だった。バイト先の後輩カップル、俺と彼女、との4人だった。ちょっと変わった編成で彼らは車、俺と彼女はバイクだった。俺はTXからGS750EⅡに乗り換えていて、彼女はGX400。多少学習能力はあったので、車が一緒だから前回のバイクだけのときより時間がかかると予測し、早めに東京を発った。それが功を奏してお昼頃にはR120に乗り入れることができた。

 コーナリングを楽しみながら先に進むと、木々の葉の色付きが次第に濃くなり、道路わきの丸沼や菅沼の周囲の紅葉は見事だった。写真を撮ってからトンネル手前にある茶屋まで行って昼飯。まだ日は高く、小春日和だったので、あまり寒さは感じなかった。トンネルから出るとそれまでとはまったく違った広々とした素晴らしい景色が俺たちを待っていた。比較的広くて見通しのいい谷間のなかを道が見え隠れし、遠くには湯ノ湖が見える。背後には山容の雄々しい岩山(金精山や温泉ヶ岳)。周辺の紅葉もきれいだった。

 以前は暗くてわからなかった景色のよさに、バイクと車を停めてしばし見入った。日本ではないような、実際に目をしたことはないが写真や映像で見たアルプスのような雰囲気の景観だったと記憶している(どこかと勘違いしている可能性もある?…)。その後、戦場ヶ原などでも景色を楽しみ、中禅寺湖では華厳の滝ほかを観光し、やはり民宿で一泊。翌日は東照宮に寄ったかな…。



湯元温泉


中禅寺湖
日光からいろは坂を登り華厳の滝、中禅寺湖、戦場ヶ原、湯元温泉を抜け金精峠へと向かう国道120号線は観光シーズンは大渋滞となる。写真は中禅寺湖と湯元温泉。

 一番新しい、と思う(その時以降も一度くらい走っているかもしれないが頭に浮かんでこないので)金精峠走行も、20数年前だった。仕事で知り合った年上のバイク乗りと一緒に、日光ツーリングに出かけた。俺は東京から、彼は信州の白馬から出発。沼田IC出口で待ち合わせ、R120を金精峠に向かった。季節は晩夏というか初秋だったと思う。彼はRC30で、俺は借り物のモトグッツィだった。紅葉にはまだちょっと早く、コーナリングを楽しみながら中禅寺湖畔まで行き、このときも馴染になっていた民宿で世話になった。

 その翌日、初めて半月山(半月峠)への道である中禅寺湖スカイラインを走った。事前に調べておいたのか、偶然見つけて走ってみようということになったのか…。距離は短めだが予想以上のグッドワインディングだった。平日だったので交通量は非常に少なく、すれ違う車も追い越す車もなかったと思う。行き止まり(歩道は先に続いているが車道は終点)に駐車場と展望台があり、そこからの眺めは感動的であった。北側の展望が殊に優れていて、中禅寺湖やその背後にそそり立つ男体山が実に見事だった。また訪れてみたい。

 帰路はいろは坂を下って足尾経由で群馬に至り、桐生あたりで彼と別れた。するとほどなく雨が降り出し、楽観主義で天気予報をうのみにしてカッパを持っていなかった俺はずぶ濡れ。しばし思案して、伊勢崎にある女房の実家にいきなり飛び込んで泊まらせてもらい、迷惑をかけてしまったのだった。
 ともあれ、金精峠はながらくご無沙汰しているし、中禅寺湖スカイラインはあのときだけだった。来年あたり、久しぶりに行ってみようかなあ…。



野口眞一

野口眞一
1956年、7月生まれ。バイクに乗って40数年、バイク雑誌関係の仕事に就いて30数年。若い頃からバイクの旅が好きで、日本各地を走り回ってきた。所有するバイクは今となっては滅多に見ないトライアンフのサンダーバード(1996年型の水冷並列3気筒)で、16年乗り続けている。長く乗っている割には走行距離は少なめで7万km。

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