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第40回
『新たな高速道路料金に関する基本方針』


 昨年暮れから年明けにかけて、気になる高速道路関連のニュースが続いたので時系列を追って紹介しよう。特に一番最後の、国交省が導入を検討しているという“料金割増制度”は、都心部に住む方なら見逃せない話題だと思います。


●2013年12月20日
 国土交通省が「新たな高速道路料金に関する基本方針」を発表した。


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新たな高速道路料金に関する基本方針
 
                       平成25年12月20日
                          国土交通省
 
 高速道路の料金については、社会資本整備審議会道路分科会国土幹線道路部会の中間答申(平成25年6月25日)において、これまでの「整備重視の料金」から「利用重視の料金」への転換を図ることとされたところである。
 この方針に基づき、ネットワーク化が進みつつある高速道路がより一層有効利用されるよう、
 ①建設の経緯の違い等による区間毎の料金差を是正し、普通区間、大都市近郊区間、海峡部等特別区間の3つの料金水準への整理を行う。
 ②大都市圏の料金については、環状道路整備の進捗を踏まえ、道路ネットワークの稼働率を最適化するため、ITS技術を活用しつつ、「世界一効率的な利用」を実現するシームレスな料金体系の構築を目指す。
に取り組むこととする。
 
 これに先立ち、緊急経済対策として導入した料金割引は整理し、高速道路の料金割引全体を再編する。
 現在の料金割引については、平成17年の道路公団民営化前後に導入した制度と、平成20年のリーマンショックなどによる景気低迷に対する緊急経済対策として導入した制度で構成されているが、このうち、後者の緊急経済対策実施のために確保している財源が平成25年度末で終了するため、料金割引を縮小せざるを得ない状況となっている。
 また、これまでにいろいろな料金割引を導入したため、利用者からは「複雑で分かりにくい」との指摘があるほか、路線・区間によっては、平日の全ての時間帯で割引が行われた結果、割引効果が低くなり、利用者も値下げを実感しにくくなっている。
 このため、国土幹線道路部会の中間答申を踏まえ、
 ①効果が高く重複や無駄のない割引となるよう見直し
 ②生活対策、観光振興、物流対策などの観点を重視しつつ、高速道路の利用機会が多い車に配慮
を基本的な考え方として、高速道路会社から提出された案を踏まえ、高速道路の料金割引全体を再編することとする。
 なお、今後の料金割引については、道路公団民営化前後に導入した制度の財源の範囲内で行うことが基本であるが、これまで約5年間にわたって緊急経済対策としての割引が実施されてきたことから、「好循環実現のための経済対策」(平成25年12月5日閣議決定)に基づき、一定の期間、物流対策、観光振興の観点から激変緩和措置を講じる。
 
1. 3つの料金水準について
高速道路の料金水準については、普通区間、大都市近郊区間、海峡部等特別区間の3つの料金水準への整理を行うこととする。なお、これに伴う料金水準の引き下げは、高速道路債務の返済状況を踏まえ、実施することとして、引き下げ対象は、ETC利用が9割にも達することから料金徴収コストなどを考慮してETC車とする。
(1)普通区間
 普通区間の料金水準については、普通車で24.6円/km(以下料金については普通車を記載)を基本として、割高6区間(関越トンネル、恵那山トンネル、飛騨トンネル、阪和自動車道(海南~有田)、広島岩国道路、関門橋)、本四高速(陸上部)についても、同様とする。
(2)大都市近郊区間
 大都市近郊区間の料金水準については、普通区間より割り増した現行の29.52円/kmを維持する。
(3)海峡部等特別区間
 伊勢湾岸道路、東京湾アクアライン、本四高速(海峡部)の料金水準については、108.1円/kmとする。

2. 大都市圏の料金について
 首都圏・阪神圏においては、環状道路の整備に合わせてシームレスな料金体系を導入するべく検討を進めることととし、それまでの間、首都高速については平成27年度まで、阪神高速については平成28年度まで、現行の料金を維持する。

3. 料金割引について
(1)NEXCO
 NEXCOの料金割引については、実施目的を明確にした上で、効果が高く重複や無駄のない割引とするとともに、生活対策、観光振興、物流対策などの観点を重視しつつ、高速道路の利用機会が多い車に配慮して、これまで通りETC車を対象に、以下のとおり見直す。
① 生活対策
・並行する一般道路における通勤時間帯の混雑緩和のため、地方部の通勤割引を、通勤時間帯に多頻度利用する車を対象とする割引に見直して継続する。
・高速道路を利用する機会の多い車の負担を軽減するため、マイレージ割引について、最大割引率を9.1%に見直して継続する。
② 観光振興
・観光需要を喚起し、地域活性化を図るため、地方部の普通車以下の休日割引について、割引率を3割として継続する。ただし、経済対策による激変緩和措置として、平成26年6月末までの間は、現行の割引率の5割を継続する。
③ 物流対策
・主に業務目的で高速道路を利用する機会の多い車の負担を軽減するため、大口・多頻度割引について、最大割引率を40%として継続する。ただし、経済対策による激変緩和措置として、平成27年3月末までの間は、最大割引率を50%に拡充する。
④ 環境対策
・並行する一般道路の沿道環境を改善するため、深夜割引について、割引率を3割として継続する
⑤ 東京湾アクアライン
・当分の間、千葉県による費用負担を前提に、現行の終日800円を継続する。
(2)本四高速
 本四高速については、緊急経済対策などにより実施された現在の割引後料金や他の交通機関への影響などを考慮して、生活対策、観光振興などの観点から、平日の通勤時間帯に多頻度に利用する車と土日祝日に利用する車(いずれも普通車以下のETC車に限る。)を対象に、現在の割引後料金を上回る区間については、現在の割引後料金を維持する。
 
4. その他
 平成26年4月の消費税率8%への引上げに伴い、他の公共料金等と同様、高速道路料金についても、税負担を円滑かつ適正に転嫁する。
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 長々の引用となってしまいましたが、要は本四高速明石海峡区間、関越トンネル、関門橋などといった個々の建設事情でバラバラとなってしまっていた“特別料金”を廃し、今後は高速道路を1kmあたり24.60円の“普通区間”、29.52円の“大都市近郊区間”、108.1円の“海峡部特別区間”の3タイプに集約するという。これらの特別区間では料金引き下げが期待できるとか。また、各種の割引も見直されながらも継続されることになったが、肝心なのは、最後の「4. その他」のところ。まあ一番の要点はこのラストの、消費税アップ分を料金に転嫁しますのでよろしくね、の発表だったというわけ。


●2014年1月22日
 年が明けて、国土交通省が、消費税率8%に伴う料金転嫁を認める通達を出す。


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高速道路料金における消費税の転嫁の方法に関する基本的な考え方
 
                      平成26年 1月22日
                      国土交通省道路局
 
 平成26年4月1日から消費税率(地方消費税を含む)が8%となる。このため、高速道路料金における消費税率引上げに伴う料金への転嫁にあたっては、平成25年8月1日の物価担当官会議申合せに基づき、原則下記により適切に対応することとする。
 
                記
 
(1)消費税率の引上げに伴い、高速道路会社の改定申請がなされる場合には、消費税率が8%となるよう料金に円滑かつ適正に転稼することを基本として対処する。
 
(2)端数処理については、現在のETCの普及状況を踏まえ、10円単位、4捨5入とする等、端数処理の単位を見直した上で、合理的かつ明確な方法により行う。また、現行の料金体系を踏まえつつ、事業全体として108/105以内の増収となるよう調整することとし、これを前提として、個別の区間の料金の改定率に差を設けようとするときは、利用者の負担の公平や利便性等の観点から、合理的な限度を超えない範囲で調整する。
 
(3)消費税率引上げに伴う税負担の転稼に当たっては、高速道路会社において利用者に対する周知を徹底する。
 
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 さすがにこれだけETCが普及した現在、これまでの大ざっばな50円刻みの料金ではまずいと思ったのだろう、8%消費税の転嫁後の新料金は10円刻み、四捨五入で計算されることになったという。ほとんどの区間ではETCでも現金でも同額となるという。
 
 だが、自分たちの勝手な都合で現金支払いでは一律最高額徴収としてきた首都高速と阪神高速のみは、最短区間の走行でも上限の930円と、相変わらずぼったくり料金に。ETC装置を付けない、付けられないライダー、ドライバーに対する無配慮、切り捨て状態のままだ。
 
●2014年1月22日
 国交省の発表の陰に隠れるように、東日本、中日本、西日本の高速道路3社が3兆円で老朽化した道路施設の建て替え、補修計画をまとめる。必要な財源を料金収入で確保させてもらうため、高速道路無料化の15年先送りを提示。
 
 東日本、中日本、西日本の高速道路3社は、3兆円の予算で老朽化した区間の大規模な建て替えや改修を行う計画をまとめ発表した。必要な財源は料金収入で確保する計画で、国交省が2050年からとしていた高速道路料金の「無料化」をまたも15年先送りすることにするという。3社が運営する高速道路は、総延長およそ9,000km。その内の4割の区間は開通後30年以上が経過し、老朽化対策が課題になっているという。このうち特に240km分の橋は掛け替え、1,870kmの区間で大規模改修が必要で、その費用はざっと見積もって3兆200億円。これを利用者からの料金収入でまかなうため、国交省は2050年からとしていた高速道路料金の無料化をさらに15年先送りする方針なのだという。
 
 形ある物は必ず壊れる。施設は必ず老朽化する。減価償却を行い、それを更新していくための費用を事前に算段する、民間企業の経営陣なら当たり前のように折り込むべき内容が、何故“親方日の丸”の皆さんの頭の中では欠落しているのだろう。もしも、減価償却の概念がないなんて、そんな民間企業があったら即刻倒産だ。
 
 今、この時さえ良く見せられれば、将来のことなど口先三寸、知ったこっちゃ無い、の政治家が裏で糸を引いているのか、出世しか考えていない“有能”な官僚様がたくらんだことなのか。そして一番の悪弊は、だれもその責任を追求しない、だれもその責任を負わない、だ。
 
 3兆円もの費用がかかる大規模改修を、今更のごとく、まるで天から突然降ってわいたかのごとく“老朽化が判明しましたので”の説明で通してしまおうとするのだから開いた口がふさがらない。
 
 どんなものでも永遠に使える訳じゃなく、いずれは使えなくなる。それまでにどうにか対策しておかなければならない、など子供でも分かること。“予想外”、“想定外”などの言葉で責任逃れできるようなことじゃない。しかもこの国のマスコミはそんなことひと言も触れようともしないで、お追従のように大本営発表を紹介するだけ。
 
 高速道路無料化、などという蜃気楼のごとき欺瞞をならべたてた政治家はどこの誰なのか。
 
 東日本、中日本、西日本の高速道路3社の管轄する高速道路、総延長9,000kmの分だけで今後3兆円ちょっと。橋梁などの掛け替えに1兆7,600億円、大規模改修に1兆2,600億円だそうだが、そんな改修、補修費用を、一切考慮しないで経営してきたというのだろうか。核廃棄物の最終処理までが原子力発電事業の一環のはずだが、廃棄物の部分は無いことにして収支に入れず、利益のみ貪ってきた原発行政と一緒。
 
 改修、補修費などは無いモノとして利益だけは享受してきて、さあ、いざ飯の種の老朽化が露呈してしまいました、今後の料金収入で面倒見てください、足りなければ税金も投入してください、というわけだ。
 
 美味しい汁だけ吸って、やることもやらず、最後は国民に泣きつくだけ、など、恥ずかしくないのだろうか。いや、今の日本には“恥”という精神が欠落しているのだから、「恥って何ですか?」と返されてしまうのだろう。
 
●2014年2月7日
 新たな高速道路料金に関する基本方針の発表以降、さまざまな動きが出てきたが、とどめは、まさに思いつきの典型のようなとんでもない新料金システムの存在だ。
 
 その新システムとは、国交省が都市部の慢性的な高速道路の渋滞を減らすため、「混雑の度合いに応じた料金制度」というのを2016年から導入する方針を固めたという。具体的には、慢性的に渋滞している都心部の路線の料金を高めに設定し、すいている外側の環状道路等を経由するルートの料金を下げることで、交通を迂回させ、都心部に流れ込む車両の量を減少させるという。
 
 確かに首都圏の場合、環状道路が各地で部分的ながらも開通、やっと機能し始めており、都心部の住民にとって環状道路のありがたさが実感でき始めたところ。しかし、これでやっとこれまでの“渋滞被害”が報われるわけじゃなく、今度はさらに地元と言うだけで高料金を負担しなさい、とまるで踏んだり蹴ったり。
 
 環状道路がきちんと機能すれば、料金をわざわざ高くしなくとも都心部まで乗り入れる車両は激減するはずで、ひとつ懸念があるとすれば、それは環状道路自体のキャパシティの少なさや設計の稚拙さで引き起こされる環状道路での新たな慢性渋滞だ。まったくドシロートが考えたとしか思えないような劣悪デザインの合流ランプや分かりにくい案内表示、外環状道ともあろう大動脈のインターチェンジ的な出入り口が信号機付の十字路交差点だったり。しかも継続して首都高速に乗るには、その交差点を直角に曲がらなければいけない、など言語道断の施設によって日々渋滞が巻き起こされているのはご存じの通り。
 
 そんな本来の役目を充分に果たせない環状道路への迂回がためらわれて、相も変わらず都心部へと他県車両が流入、渋滞になった、そんな事態になることを防ぐために料金を高くしておいて使わないようにさせようね、というわけ。
 
 慢性的な渋滞状況を受け入れながら、せっせと利用料金を払い、そのあげくにその資金は渋滞解消に使われる訳じゃなく、どこか地方の山奥の“たぬき高速”の建設費用となり、今度はさらに都市部の料金を割高にする、ですと。都心部に住むユーザーを馬鹿にしている。これまで他県ドライバーの利便性のためには、と様々に環境を悪化させていた渋滞をも我慢し、受け入れてきたのが都心部のユーザーなのにだ。
 
 国交省では、近く有識者による検討会を設置し、渋滞を減らすための研究を始めるそうで、ETCシステムなどを活用して、利用車の走行経路や速度などのビッグデータを集めて分析するのだそうだ。渋滞を解消したい、という意図自体はもっともなことなので、ひとつアイデアを。それは、ETCを利用することで十分実現可能なシステムのはずだが、東京などの場合、あくまで他県から入り他県へと都心部を通過するためだけに利用した車両を対象にする。東京外環状道路(外環道)、首都圏中央連絡自動車道(圏央道)などを経由した場合は渋滞解消協力費として料金を割り引き、首都高速の都心環状線まで入ってきて通過していった場合は料金割引は無し、または割増にする、というのがスジというものだろう。
 
 それにしても首都高速5号池袋線と東京外環自動車道が交差する美女木ジャンクションという名の“交差点”を造ったのはどこのどなたでしょう。ここにまっとうなジャンクションが出来なかったおかげで、首都圏の渋滞を解消する役目を果たすはずだった外環自動車道の価値が半減しているのですから。荒川の上にジャンクションを造ろうにも強力な反対があったのだろう、とはご推察いたしますが。
 
 世界的に見ても恥ずかしいですよ。ここの“自動車道同士の交差点”。
 
(小宮山幸雄)


小宮山幸雄小宮山幸雄

“雪ヶ谷時代”からMr.BIKEにかかわってきた団塊ライダー。本人いわく「ただ、だらだらとやって来ただけ…」。エンジンが付く乗り物なら、クルマ、バイクから軽飛行機、モーターボートとなんでも、の乗り物好き。「霞ヶ関」じゃない本物!?の「日本の埋蔵金」サイトを主宰する同姓同名人物は、“閼伽の本人”。 


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