おやびん道

それぞれの道には、それぞれの風土、気候、環境などを積み重ねた表情がある。それはまた人生にも似ている。道は人生、道の数だけ物語がある。野口おやびんが走って来た幾多の道を、想い出話と共に語ろうか。


第41回 芦ノ湖スカイライン


芦ノ湖スカイラインは神奈川県と静岡県にまたがる、箱根周辺で有数の観光有料道路で、延長は11km弱。一般区間の本線(箱根峠~湖尻峠)と特別区間の湖尻線(湖尻峠~湖尻水門)とで構成されている。本線の営業時間は7~19時で、二輪車(125cc以上)の通行料金は260円。県道と箱根スカイラインに接続する湖尻線の営業時間は同じで通行料金は50円(営業時間外は無料開放)されている。芦ノ湖を見下ろせる区間は少ないが、富士山を眺望できるポイントがいくつかあるし、爽快に走れる。

●公式サイトhttp://www.ashinoko-skyline.co.jp/view_point/


MAP

 箱根地域でもっとも有名で人気のある山岳ワインディングが芦ノ湖スカイラインだ、と言っていいだろう。国道1号線の箱根峠付近から乗り入れ、1km弱進むと料金所と事務所がある。正面に牧歌的な景色が広がり、その中を縫う曲がりくねった道筋も見える。そこを上って行くと左側にレストハウスとヘリポートがあり、さらに少し進むと右側にもレストハウスがある。この区間の一部で芦ノ湖を見下ろせる。また、右側のレストハウスからも芦ノ湖および箱根駒ヶ岳を一望できて、とても気持ちがいい。もちろんお天気の場合だが…。

 初めてこの道にバイクを乗り入れたのは俺が20歳前後の時、70年代半ばのことだ。箱根及び富士五湖を巡るソロツーリングに出かけ、ルートに組み入れた。もうずいぶん昔のことなので、詳しいことは忘れたが、いい道だなあ、料金を払うだけの価値がある、と思った。反対側からも乗り入れられるが、そのときも国道1号線からだった、と思う。それなりにコーナリングも楽しんだ。写真も撮ったはずだが、どこかに紛れ込んでいて見つけ出すことは困難だ。昔のツーリング写真を整理しなければ、と思うものの、なかなか手がつかない。

 80年代に入って、バイク雑誌の仕事に就いてからは、試乗・撮影で数えきれないほど世話になった。平日は交通量が少なく、走行性能を存分にチェックできるし、景色もいいから、二輪雑誌の多くが頻繁に利用していた。当時と比べれば頻度は低くなっていると思うが、今でも芦スカで撮影する二輪雑誌は少なくないだろう。俺の場合、90年代から00年代前半の頃、多いときは月に数回、芦スカで試乗・撮影した。午前中、9時か10時頃、事務所に寄って撮影許可を取り(当時の使用料はリーズナブルだった)、取材開始、となる。

 止まり写真=置き撮りは、先述した右側にあるレストハウスの駐車場や道を隔てて南側に広がるアスファルト敷きの駐車場を利用することが多かった。もっと先=湖尻方面に進んでからも砂利だが適当な広さの駐車場がいくつかあり、そこを使うこともあった。走り写真の撮影はコーナーの外側や内側にスペースのある場所に限られるのだが(望遠レンズで撮影するため、ヒキ=ある程度の距離が必要となる)、芦スカには曲がりやすくて撮りやすいコーナーが多く、その点も二輪雑誌の取材で重宝がられていた理由のひとつだ。

 料金所から入って、左側レストハウスまでの間にある芦ノ湖をバックに出来るコーナーや、そのレストハウス手前のストレート(そこも芦ノ湖を背景に入れることが可能)で走り写真を撮ることも少なくなかった。だが、右側のレストハウスを過ぎてすぐの右コーナーは最も頻繁に走り写真を撮った場所だ。Rの小さいタイトコーナーだがバンクが付いていて、外側にも内側にもほどよいスペースがあり、完全なブラインドではないので比較的安全でもあった。

 それに、レストハウスの駐車場にほぼ隣接していて、同行のクルマを停めやすい。そこは通称“ヤギさんコーナー”と呼ばれていた。レストハウスでヤギを飼っていて、そのコーナー付近でもヤギが草を食んでいることがあり、そう呼ばれるようになった。バイク自走で先行する場合、事前に「じゃあ、芦スカのヤギさんコーナーで」、と集合場所の確認をすることも多かった。でもそこはツーリングライダーの事故も多く、そのうち路面に段差のペイントが施され、センターラインにポールも設置されて、撮影には不向きになってしまった。

 ヤギさんコーナーに次いで走り写真をたくさん撮ったのは、特に呼び名はなかったと思うが、“命の泉”(ヤマトタケルにまつわる伝説がある命之泉神社に湧く清水)手前のタイトなブラインドコーナーだ。ヤギさんコーナーから湖尻方面に向かって杓子峠(富士山や駿河湾の眺望に優れる)を過ぎてしばらく下り、上りになってすぐのところにそのコーナーはある。左側に砂利敷きの適当な広さの駐車場があってそこにクルマを停められるし、ヒキもあるので走り写真を撮るのに適している。ここもRはきついがバンクが付いていて曲がりやすい。90年代後半から00年代前半は、そこで撮影することのほうが多かった。

 さらに進んで、三国峠(標高1070m。ここから眺める富士山も見事)手前のコーナーでも一時期、頻繁に撮影した。三国峠を過ぎると下りになり、下り切ったところが箱根スカイラインと湖尻線との三叉路で、そのあたりで止まり写真を撮ったことも何度かある。とにかく、当時の芦スカは二輪雑誌の取材地として大人気で、平日、3、4の媒体が同じコーナーで撮影、ということも珍しくなかった。季節によっては、東京は晴れていても芦スカに入ると霧が出て、目当てのコーナーで予定していた写真が撮れず、待機したり、霧に邪魔されず撮影できそうなコーナーを探し回ったりしたこともあった。

 90年代から00年代にかけては、個人的にも年に1、2度、芦スカを利用した。仕事を通じて知り合ったバイク仲間と(多いときは10人前後、少ないときは5人くらい)伊豆半島へ1泊ツーリングに出かけ、東名御殿場ICを降りて乙女峠入り口で待ち合わせて、箱根スカイライン経由で芦スカに入り、コーナリングを存分に楽しんで、さらに伊豆スカイラインへ…。ここ数年、芦スカで取材することも、個人的に出かけることもほとんどなくなっている。あの頃が懐かしい。手軽に行けるところだから、近いうちにまた出かけてみようかな。



芦ノ湖スカイライン


芦ノ湖スカイライン
箱根峠〜湖尻峠の一般区間。二輪車は260円。アップダウンはあるものの所々に高速コーナーもあり路面状況も良好。(写真はすべて2004年撮影)。 湖尻峠からと芦ノ湖へ下っていく特別区間。二輪車は50円。芦ノ湖スカイラインは全線125cc以下は通行禁止。


芦ノ湖スカイライン


芦ノ湖スカイライン
「命の水」(みことのいずみ)前は歩行者の不意の飛び出し要注意ポイント。 通称「ヤギさんコーナー」の休憩所。正式名称はレストハウスレイクビュー


野口眞一

野口眞一
1956年、7月生まれ。バイクに乗って40数年、バイク雑誌関係の仕事に就いて30数年。若い頃からバイクの旅が好きで、日本各地を走り回ってきた。所有するバイクは今となっては滅多に見ないトライアンフのサンダーバード(1996年型の水冷並列3気筒)で、17年乗り続けている。長く乗っている割には走行距離は少なめで7万3000km。

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