おやびん道

それぞれの道には、それぞれの風土、気候、環境などを積み重ねた表情がある。それはまた人生にも似ている。道は人生、道の数だけ物語がある。野口おやびんが走って来た幾多の道を、想い出話と共に語ろうか。


第44回 西伊豆スカイラインと周辺の道


西伊豆スカイラインは静岡県伊豆市の戸田峠から達磨山、伽藍山の稜線を走って土肥峠まで続く延長11km弱の高原ワインディングだ。以前は有料道路だった(二輪車通行料金は250円)が、2004年から静岡県道127号線の一部として無料開放されている。景色に優れ、見晴らしもよく、コーナリングを楽しみながら快走できる。土肥峠で西伊豆スカイラインと接続し仁科峠まで南下する県道411号線もグッドロードで、周辺にはほかにもいい道が何本かある。


MAP

 20歳前後の頃から今日まで、伊豆には数えきれないほど走りに行っているが、個人的なツーリングで伊豆半島を巡る場合、東西の海岸線を選択することが多く、西伊豆スカイラインは有料ということもあって(2004年に無料開放されるまで)、ルートに組み入れることは稀だった。反時計回りなら修善寺から県道18号線(修善寺戸田線)で戸田まで行き、その後は土肥、松崎、石廊崎、下田と回って熱海、小田原へ。時計回りならその逆で、時には伊豆スカイラインを利用することもあったが、海沿いの国道を走ることが多かった。

 西伊豆スカイラインを初めて走ったのは70年代末のプライベートツーリングのときだったか、80年代に入ってからの仕事のときだったのか、定かではない。ただ、仕事で利用した数回はいまでもよく覚えている。80年代前半、HY戦争盛んな頃、250や400のライバル車比較試乗で走り、各所で撮影もした。また、80年代中頃、女性向けのバイク誌を製作していたときには、表紙の撮影も西伊豆スカイラインで何度か行った。お天気に恵まれて爽快だった。

 80年代後半もレプリカスポーツの250や400の比較試乗で、自走して伊豆半島に赴き、戸田や土肥に泊まって何本ものワインディングを走ることが多く、西伊豆スカイラインは必ずと言っていいほど試乗・撮影ルートに組み入れられた。比較試乗ではなく、ツーリング企画で伊豆方面に行ったときも西伊豆スカイラインは外せない道のひとつだった。80年代は、プライベートでも10人前後のグル―プで伊豆へ日帰りツーリングにたびたび出かけ、頻度は低かったものの西伊豆スカイラインをルートに組み入れ、コーナリングを楽しんだ。

 80年代末から90年代前半のネイキッドスポーツ全盛の頃は、メーカーが新機種の発表試乗会を西伊豆で行うことも多く、戸田や土肥の宿から西伊豆スカイラインに上り、試乗・撮影をした。達磨山や伽藍山の稜線地帯は熊笹や灌木だけの草原状で、景色がよく、眺望にも優れている。また、路面もきれいで低速から中高速まで変化に富んだコーナー構成でじつに気持ちよく走れる。ところどころに駐車場もあって、走り写真も止まり写真も撮影しやすい。東京からの距離も一泊なら余裕で取材できる。好条件がそろっていた。

 だがその後は、日帰りで試乗・撮影するには距離的に厳しく、宿泊すれば経費が嵩むため、利用頻度は一気に低減した。箱根の芦ノ湖/箱根スカイライン、ターンパイク、伊豆スカイラインならアクセス距離が短くてすみ、日帰りでも余裕をもって取材できるし、道や景色のよさ、撮影しやすさは同等以上だから、わざわざ西伊豆まで行くことはない、ということになったのだ。それは無料開放されてからも変わらなかった。たまには景色の違う道で撮影したいと、日帰りで西伊豆スカイラインにまで出かけることもあったが…。

 無料開放されてからも何度か個人的な伊豆ツーリング時のルートに西伊豆スカイラインを組み込んだ。直近で走ったのは3、4年前だろうか…。相変わらず景色も見晴らしもよかったが、路面が多少荒れてしまっている区間もあった。それでも、箱根周辺の道や伊豆スカイラインに比べれば交通量が非常に少なくて走りやすい。冬場は気温が低く、路面凍結の心配があるので、春から秋の間のお天気のいい時にでも久しぶりに走りに行ってみようかな…。

 西伊豆スカイラインと接続しているいくつかの道も走って楽しい。修善寺から虹の郷経由で戸田峠に至る県道18号線はそのひとつで、見晴らし茶屋(富士山がきれいに望める)もあるから、一服するのもいい。同県道の戸田峠から戸田までの区間もタイトコーナーが続いて面白い。土肥峠で西伊豆スカイラインと接続する仁科峠までの県道411号線(西天城高原線)はまるで西伊豆スカイラインの延長のようで、眺望に優れ、道もよくて、爽快に走れる。

 仁科峠の天城牧場近くでその411号線とつながっている県道59号線(伊東市〜西伊豆町)の天城湯ヶ島までの区間も道路状況が素晴らしい。仁科峠付近は低中速コーナーが多いが、天城湯ヶ島に向かうにつれて高速コーナーが多くなり、ストレートも混じる。ハイスピードコースで大型車にも向いている。山の中を走る道だから眺望はそれなりだが、その分走りに集中してコーナリングを堪能できる。この道も3、4年前に走ったきりなので、再訪したい。

 仁科峠と西伊豆町の賀茂をつなぐ3桁県道はまるで舗装林道だ。でも峠付近は牧場地で見晴らしがいいし、のんびりした気分になれる。こういう道もたまにはいい。というわけで西伊豆スカイラインおよびその周辺の道は走り甲斐があるし、距離も適当なので、伊豆半島ツーリング時のルートに組みこんでみてはいかがでしょう。日帰りでもいいけど、戸田か土肥、賀茂か松崎あたり(その先の石廊崎周辺か下田周辺でもいい)に宿を取って1泊すれば(できれば温泉宿にしたいね)、余裕をもって走りも景色も楽しめますよ。



松崎


松崎
1980年代後半から90年代にかけて、主にネイキッドモデルの試乗会が西伊豆で頻繁に開催された。海あり山ありのロケーションで、撮影には重宝した。写真は1996年に松崎で開催されたホンダ・ホーネットの試乗会。●撮影─衛藤達也


野口眞一

野口眞一
1956年、7月生まれ。バイクに乗って40数年、バイク雑誌関係の仕事に就いて30数年。若い頃からバイクの旅が好きで、日本各地を走り回ってきた。所有するバイクは今となっては滅多に見ないトライアンフのサンダーバード(1996年型の水冷並列3気筒)で、17年乗り続けている。長く乗っている割には走行距離は少なめで7万3000km。

[第43回へ][第44回][第45回]
[おやびん道バックナンバー目次へ]
[バックナンバー目次へ]