バイクの英語

第43回「Burn Up (バーン・アップ)」

 最近、都内環七通りの「二輪車事故多発」や「飲酒運転 身の破滅」などと表示される電光掲示板で「危険ドラッグは非常に危険」という表示がありました。わかりやすい。危険ドラッグは、非常に危険。そうか。そのコピーライターにお金が支払われているとは思いたくない。

 危険ドラッグは最近までは脱法ドラッグと呼ばれていました。法には触れないけれど、危ない麻薬の一種ということでしょう。注目され始めたことでその製造方法などが知られ、いやほんと、ものによっては「よくそんなものを摂取しようと思うね!」ってぐらい危険なものらしい。だけどまぁ、全部が全部とんでもなく危ないというわけではないでしょう。法に触れるか触れないかと、そのドラッグが危険か危険じゃないかというのは必ずしもイコールではないでしょう。中には脱法ドラッグと言われていてもそんなにヤバくないもの、場合によっては合法ドラッグよりも危険度の低いものもあるかもしれません。

 日本で言うところの合法ドラッグとは、身近な所ではお酒やタバコでしょう。

 これ、合法ってだけでめちゃくちゃヤバいと筆者は思ってます。タバコは意図的に煙を体内に取り込み、肺ガンはもちろん他にも様々な健康被害を引き起こし、さらにとても高い中毒性がありやめられない人が多い。昔からあるから取り沙汰されないけれど、もし今までタバコが存在しない世界であって、今、初めてタバコが登場したら合法化されるわけはないと思います。あまりに危険すぎるでしょう。立派なドラッグです。

 お酒に至ってはトラブルが多すぎ。「酒に酔ってて覚えていない」なんていうのはニュースで毎日のように聞く言い訳。ほとんどお酒を飲まない筆者としては、なぜそんな言い訳が通用するのか不思議でなりません。またお酒に関連する事故・事件・トラブルの数は膨大なうえ、タバコ同様に健康被害も無視できないですね。中毒性もあり身を亡ぼす人だって少なくないのに、合法だからって世間は寛容に感じますがいかがでしょうか。

 合法・非合法かでそれが善か悪かは判断できないでしょう。オランダや北米の一部などでは大麻も合法です。日本では「とんでもない!」という反応だけれど、アチラでは合法で誰でも手に入れることができるのだから、日本でのお酒やタバコ同様、上手に付き合って適度に楽しむというスタンスなわけです。

 お酒やタバコや脱法ドラッグや大麻ほどではないですが、ある程度興奮・覚醒させてくれるものとしてコーヒーという嗜好品もありますね。これはもともと羊飼いが発見したそうです。羊がコーヒーの果実をかじると興奮状態になることに気づき、羊飼いたちもそれを摂取してみたら興奮や覚醒の感覚を得ることができた、というわけです。

 今回の英語はBurn Up。 発音はバーン・アップです。
 使い方としては「ブッ飛ばしてくる」といったもの。バイクでBurn Upに行くと言えば、スカッと走ってくることを指します。一人でも良いですし、複数で行っても「みんなとBurn Upに行く」などと使います。特に目的地はなく、ブッ飛ばすこと自体が目的でしょう。

 直訳すればBurnは燃える、Upは上、燃え上がるなどと捉えることができるでしょうか。ガソリンを燃やして、ライダーも高揚するなどと掛ってるのかもしれません。

 この語源には諸説ありますが、有力なのを一つ。

※    ※    ※

 Burn Upとはもともとアメリカンインディアンの中で狼煙を意味したそう。遠方の部族と連絡を取り合うために狼煙は広く使われていて、その狼煙も様々な種類があったそうだ。狼煙の材料に使う木や枝や葉っぱ、そしてそれら材料の乾燥具合などで狼煙の濃さや色に変化を持たせることができ、単純に狼煙が何本、もしくはどの程度の間隔で、という判断だけでなく微妙な煙の違いを利用していたという。

 そんなアメリカンインディアンたちは、部族間で定期的にバッファローによるレースを開催していた。これはあらかじめ野生のバッファローを捕獲し、部族間で若者同士がそのバッファローに乗ってレースをするというもので、非常に危険であると共に大人になる儀式も兼ねていたという。またレースに勝つにはいかに捕獲した野生のバッファローを鼓舞させ興奮させるかがカギだったという。

 この風習が続く中で、ある部族がサボテンの一種を原料に使った狼煙を上げた際に、野生のバッファローがトランス状態になることを発見。最初はその理由がわからなかったというが、その部族だけが特定のサボテンを狼煙に使っていたことから理由が判明し、以降は他の部族でもそのサボテンを使って狼煙を上げ、バッファローレースはますます盛り上がったそうだ。

 この興奮する狼煙と、ヒートアップするバッファローレース両方に掛けて、Burn Upとは燃やす(狼煙を上げる)ことと「ブッ飛ばす」こと両方を指すようになったとされている。

※    ※    ※

 いかがでしょう。諸説ある中の一つにすぎませんが、信憑性も高いような気がします。使い方は「今夜はちょっとBurn Upに行きてーなぁ!」とか、「どう、こんど、軽くBurn Upでも」などと言うのが良いでしょう。オートバイもある種の合法ドラッグ。節度を持って安全な所でスカッと乗るのは良いものです。一線を踏み越えないように付き合うという意味では、お酒などとも共通する部分がありそうですね。

 なお、電光掲示板に「危険ドラッグは非常に危険」と書くのは「お酒は非常に危険」と書いているのと一緒でしょう。危険なのは飲酒運転でありお酒じゃない。書くのなら「飲酒運転 身の破滅」と同じように「危険ドラッグ運転は非常に危険」とするべきですよね。だってそもそもドライバーに向けた電光掲示板なんだし、危険ドラッグの定義はまだ曖昧なんだから。



筆者 
レグナルド・ブリッドモア

ロンドン出身で様々なレースに参戦してきたが、雨ばかりのイギリスが嫌になりオーストラリアに移住。現在はユーカリに含まれる成分がコアラに与える興奮について研究中。合法か非合法かではなく、人として正しいかどうかの判断が問われるアウトバック・オーストラリアを愛する。


[第42回へ|第43回|第44回]
[バイクの英語バックナンバー目次へ]
[バックナンバー目次へ]