おやびん道

それぞれの道には、それぞれの風土、気候、環境などを積み重ねた表情がある。それはまた人生にも似ている。道は人生、道の数だけ物語がある。野口おやびんが走って来た幾多の道を、想い出話と共に語ろうか。

第46回 鳥海山・月山、山麓の道



鳥海山ブルーライン


月山花笠ライン

秋田・山形両県にまたがる、鳥海山(標高2236m)。その5合目まで、秋田側と山形側からそれぞれ約20km(つながっていて計約40km)の山岳ワインディングロードが鳥海山ブルーラインだ。そして、山形県中央部に位置する出羽三山のひとつである修験の山=月山(標高1979m)の南西麓を走るグッドロードが国道112号バイパスの月山道路(通称・月山花笠ライン、区間長約30km)である。両山ともに日本百名山に数えられているが、その麓の道も素晴らしい景観やコーナリングが楽しめる、名道だといえるだろう。

 もうずいぶん前から、夏休みのツーリングルートに北関東~東北を選択することが多くなっている。旧友が茨城、福島、山形にいるし、東北は道が空いているところが多く、海も山もいいからだ。2年連続で、というケースは少ないけれど、1年おきくらいの頻度で出かけている。山形までは似たようなルートになってしまいがちだが、なるべく走ったことのない道を選択するようにしている。鳥海山ブルーラインを走ったのは、5年前の夏休みツーリングの時だった。

 当時、NSR250Rに乗っていた長男とふたりで、8月下旬、3泊4日の日程で夏休みツーリングに出かけた(俺はサンダーバード)。初日はエコーラインを通って山形の友人宅まで。2日目は横手から田沢湖を経由して男鹿半島まで行き、民宿泊。3日目、秋田に出て日本海を右手に見つつ国道7号線を南下し、にかほ市街を過ぎてから左手の山側を走る県道を経由して鳥海山ブルーラインに入った。しばらくは勾配が緩やかな田園地帯で、平日ということもあって交通量は少なく、のんびりした気分で走れて、それもよかった。

 中腹以降は急こう配の九十九折となり、標高がグングン上がって行く。国道7号線から続いていた暑気が消え、ちょうどいい涼しさのなか、コーナリングを楽しみながら、眼下に広がる平野とその先の日本海の眺望も満喫。上り切ると、秋田側の登山道入り口=象潟口(鉾立)に。山荘やビジターセンター、トイレ、展望台があり、駐車場も広い。天候に恵まれたので、そこからの日本海側の眺めは本当に素晴らしいもので、青雲の鳥海山も仰ぎ見ることができた。

 名峰である鳥海山と名の知れたブルーラインは、そのときのツーリングの重要なお楽しみスポットのひとつだったが、来てよかった、と強く思った。一服して写真も撮り、つながっている山形側のブルーラインを下って遊佐町~酒田を目指した。数km走ると山形側の吹浦口(大平)の登山道入り口があり、山荘と広い駐車場も。ただ、すでに眺望は堪能していたので、素通りした。山形側もしばらくはタイトコーナーが続き、その後は走りやすいワインディングだ。

 遊佐町から国道7号線を再び南下。海運で栄えた酒田市の、立派な蔵、倉庫が立ち並ぶ界隈を訪ねて、酒田の湊町文化に触れる。ドラマ「おしん」のロケでも使われたという「山居倉庫」は酒田のシンボル、とも言われているようだが、とっても立派で、一見の価値ありだ。酒田には東北の名河、最上川の河口もあり、出羽山地の雪解け水は日本海に注がれる。倉庫街を散策して写真も撮ってから、近くにあったバイク屋さんでNSRのオイルを入れて、お薦めの食事処を教えてもらって昼食を摂った。いい街だったな、酒田…。その後、内陸部に入って、当日の宿をとっていた裏磐梯へ向かった。



鳥海山ブルーライン


月山花笠ライン
鳥海山ブルーラインからの日本海側の眺め。腕が悪いので、ややもやっているように見えるが、実際はもっとすっきりしていて、きれいに見渡せた。 鳥海山の5合目、象潟口にて休憩。鳥海山は後方の山ではなく、右手奥に雲がかかっているもっと高い山だ、と思う。


鳥海山ブルーライン


月山花笠ライン
酒田にて、山居倉庫をバックに記念ショット(長男が撮影)。昼頃だったので日差しが強く、暑かった。 酒田港の倉庫群近くには運河もある。バイクと息子も入れてパチリ。運河越しに見える倉庫が山居倉庫。

 山形県の寒河江市と鶴岡市をつなぐ国道112号線の、月山のふもとを走るバイパス区間=月山道路は、山形自動車道の未開通部分、月山ICと湯殿山ICをつないでいる自動車専用道路だ(125cc以下のバイクは通行不可なので、原付1種2種は、六十里街道と呼ばれる旧国道112号線を通らなければならない)。この道を初めて利用したのはもう20年も前になるだろうか。

 某二輪誌の複数機種の比較ツーリング試乗に2泊3日の日程で東北方面に出かけ、仙台ハイランドレースウエイ(平成26年9月に営業終了になってしまって残念)などを巡った後、通った。初秋の頃だったように記憶する。まだ紅葉は楽しめなかったものの、山深い樹林帯のなかを縫うルートで、周囲の見事な景観と整備が行き届いた道路に、こんないい道があったのか、と印象に残った。日本の道100選にも選定されているようだが、さもあろうと思う。

 トンネルやスノーシェッドがいくつかあり、架橋部分も多い。バイパス道路だけに並走している旧道とは異なり、高速コーナーと直線で構成されていて、登坂車線が設けられている部分もあり、ハイペースで走りやすい。自動車専用道路だが、無料という点も嬉しい。好印象の道だったから、前述の5年前の夏休みツーリングのときも、鳥海山ブルーラインから酒田に立ち寄った後、鶴岡手前から利用した。ただ、その時のことは詳しく覚えていない。

 鳥海山ブルーラインは冬季、積雪のため封鎖されるが、春は新緑が美しいことだろうし、秋は紅葉に染まるはずで、月山道路もまたしかり。最近、ツーリングに出かける頻度は低下しているものの、東北にはまた行くつもりだし、月山周辺をのんびり巡ってみたいと思う。できれば鳥海山にも足を伸ばしたい。



野口眞一

野口眞一
1956年、7月生まれ。バイクに乗って40数年、バイク雑誌関係の仕事に就いて30数年。若い頃からバイクの旅が好きで、日本各地を走り回ってきた。所有するバイクは今となっては滅多に見ないトライアンフのサンダーバード(1996年型の水冷並列3気筒)で、18年乗り続けている。長く乗っている割には走行距離は少なめで7万5000km。

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